💰 「平均で年◯%」は、自分の結果とは限らない
「長期では年平均◯%のリターンが期待できる」——投資の本や記事でよく目にする表現です。しかし、この「平均」という数字が、実際にあなたの手元に残る金額を表しているかというと、そうとは限りません。
まず疑問を持ってほしい点が2つあります。ひとつは「平均」と「中央値」は別物だということ。もうひとつは、「平均10%」が「毎年10%」を意味しないということです。さらに、同じ平均リターンでもリターンの順番が違えば、最終的な資産額は変わるという事実があります。
これらを知らずに長期投資の計画を立てると、「計算上は増えるはず」なのに「実際にはそこまで届かない」という落とし穴にはまることがあります。この記事では、そのしくみを図解でわかりやすく解説します。
📌 この記事の結論(3 行サマリ)
- 「平均」は少数の大きな外れ値に引っ張られる。分布が偏っているとき、多くの人の実態に近いのは「中央値」のほうが多い。
- 「年平均◯%」という数値は算術平均(足して割った数)であることが多く、実際の資産増加率(幾何平均・CAGR)とは一致しない。特にばらつきが大きいほど差が広がる。
- 同じ平均リターンでもマイナスの年が先に来るか後に来るかで資産の最終残高は変わる(シークエンス・オブ・リターン・リスク)。特に資産を引き出す段階(引退後など)でこの影響が大きい。
1️⃣ 平均と中央値はなぜ違うのか(直感図解)
最初に、平均と中央値の違いを具体的なイメージで押さえましょう。
たとえば、5人のグループの年収が次のようだったとします。
↓
平均:1,206万円(合計6,030万円 ÷ 5)
中央値:280万円(並べたとき真ん中の値)
1人だけ飛び抜けた高収入者がいると、平均はその1人に大きく引きずられます。しかし5人のうち4人は300万円以下。「このグループの年収は平均1,206万円」と言われても、4人にとってはまったく自分の実態を表していません。
投資のリターン分布でも、同じことが起きます。特に個別株では、ごく一部の大きな勝ち銘柄が全体の平均を押し上げる傾向があります。多くの銘柄が平均的なリターンに届かないまま、少数の大きな上昇が「平均」を引き上げているのです。これを分布の「右裾が長い(右歪み)」と言います。
2️⃣ 算術平均と幾何平均(CAGR)の違い
投資のリターン表示には2種類の「平均」があります。
- 算術平均(単純平均):各年のリターンを足して年数で割った数。計算が簡単で直感的だが、「実際の資産増加率」とは一致しないことが多い。
- 幾何平均(CAGR=年平均成長率):資産が毎年複利で積み上がるときの実質的な年率。実際に投資した場合の資産増加と一致する。
両者の差は、リターンのばらつきが大きいほど開きます。最も分かりやすい例で確認しましょう。
・算術平均:(+100% − 50%) ÷ 2 = +25%
・実際の資産:100万円 → 200万円(+100%) → 100万円(−50%)= 元に戻る(年率 0%)
→ 算術平均は +25% と出ているが、実際の利回りは 0% だった。
これほど極端でなくても、リターンにばらつきがある限り、同じ方向のずれが生じます。たとえば毎年の成績がそれぞれ異なる場合、算術平均は「足して割っただけ」ですが、実際に積み上がる資産は複利の計算になるため、ばらつきが大きいと算術平均より CAGR のほうが低くなります。
3️⃣ 「年平均◯%」が毎年◯%ではない理由
長期投資の説明でよく使われる「年平均◯%」という表現は、算術平均を指していることも CAGR(年率換算の複利リターン)を指していることもあり、表記だけでは見分けられません。そして、そのどちらであっても「毎年ほぼ同じ◯%ずつ増える」という意味ではありません。
実際の年ごとのリターンは大きく変動し、大幅に上がる年もあれば、大幅に下がる年もある。長い年月をかけて、それらの結果が平均として◯%になる、というのが正確な意味です。
この「ばらつきながら平均に落ち着く」という性質には、次の重要な含意があります。
- 任意の1年だけを切り取ると、「平均」から大きく外れた年であることが大半です。
- 下落の大きかった年は、その後の回復に時間がかかることがあります。
- 「平均◯%」に達するかどうかは、その人がどのタイミングで資産を入れ、どのタイミングで引き出すかにも大きく依存します(次の章で詳しく解説)。
4️⃣ 少数の大当たり年が平均を押し上げる
株式市場の長期リターンについて広く知られた事実があります。長い年月の中で、市場全体の上昇の大部分が、ごく少数の特に大きく上がった年に集中しているという傾向が指摘されています。ただし集中の度合いは、対象とする市場・期間・集計方法によって変わります。
たとえば「20年の平均リターン」があったとして、そのうちの大部分がごく一部の年の大きな上昇によって支えられており、残りの多くの年はそれほど印象的な結果ではない——というパターンが観察されています。
これが示すことは何でしょうか。
- 「20年保有すれば平均◯%」という数字は、保有し続けた人が大当たり年を逃さなかった場合の結果である。
- 年の途中でタイミングを見計らって売買しようとすると、その数少ない「大当たり年」を逃すリスクがある。
- 分布の平均を「自分が毎年受け取れるもの」と誤解すると、実際の経験とずれが生じる。
5️⃣ リターンの順番が結果を変える(シークエンス・オブ・リターン・リスク)
ここから後半の実践編です。同じ「年平均◯%」という成績でも、プラスとマイナスの年が来る順番によって、最終的な資産額は変わります。これを「シークエンス・オブ・リターン・リスク(リターンの順番リスク)」と呼びます。
資産を積み立てている段階(入金フェーズ)
毎月一定額を積み立てている場合、順番の影響は比較的小さくなります。早い段階で下がっても、安い価格でより多く買えるため、後の回復で取り戻しやすいという側面があります。積立投資がこのリスクを緩和する仕組みのひとつです。
資産を引き出す段階(引退後など)
一方、資産を取り崩す段階(引退後の生活費を運用資産から毎年引き出すなど)では、順番の影響が非常に大きくなります。
同じ「20年間の平均リターン」でも、最初の数年に大きな下落が来た場合、資産総額が小さい状態で毎年一定額を引き出すことになり、元本を大きく削ってしまいます。その後市場が回復しても、残高が少なすぎて回復の恩恵を十分に受けられない——これが順番リスクの本質です。
逆に、最初の数年に大きな上昇が来た場合は、残高が豊富な状態で引き出しが続くため、その後の下落にも耐えやすくなります。
この順番リスクは自分では制御できません。しかし対策を考えることはできます。たとえば、引き出しを開始する時期に向けて、資産の一部を価格変動の少ない資産に移す考え方や、引き出し額を柔軟にする考え方などが一般に語られています。具体的な手法については、複利とドローダウン・破産確率の記事や、分散とポートフォリオの記事も参考にしてください。
6️⃣ 「自分は分布のどのあたりにいるか」という問い
ここまで見てきたことをまとめると、投資の「平均◯%」という数字を読むときに持つべき問いは次のようなものです。
① どの種類の「平均」か
算術平均(足して割った数)と幾何平均(CAGR)は異なります。特にばらつきが大きい投資ほど、算術平均は CAGR より高く出る傾向があるため、どちらを示しているか確認しましょう。
② 期間の設定はどこか
「過去◯年の平均」という表現は、その期間の始まりと終わりをどこに置くかで大きく変わります。大きな下落直前が「始まり」か直後が「始まり」かで結果は正反対になることもあります。
③ 何が含まれていないか
長期の「平均リターン」の統計には、途中で上場廃止や繰上償還になった銘柄・ファンドが含まれていないことがあります(生存バイアス)。これについては生存者バイアスの記事で詳しく解説しています。
④ 自分の「在籍期間」はいつか
「20年間の平均」は20年間ずっと保有していた場合の話です。途中で大きく下落した年に売却してしまった場合、その「平均」を体験することはできません。「長期の平均が良くても、自分が我慢できる期間が短い」なら、その平均は自分の現実に当てはまりません。
これらの問いは「投資しない理由」を探すためではなく、「平均」という数字を正しく読むためのものです。数字を適切に理解した上で、自分の状況に合った判断をすることが目的です。
7️⃣ 当サイトでの活かし方
当サイトでは、テクニカル分析に基づくシグナルの発火・結果を記録したシグナル成績ページを公開しています。こちらに掲載されている成績数値を読む際にも、今回の「平均」への問いは参考になります。
- 記載している数値は特定期間の集計結果であり、将来の結果を保証するものではありません。
- 取引件数が少ない段階では、統計的な信頼度は限定的です。
- 分布を見るときは、平均だけでなくばらつきの幅(標準偏差・最大の負け幅など)も合わせて確認することを推奨します。
また、複利と最大ドローダウンの記事では、連敗時に資産がどれだけ減るかを具体的に解説しています。「平均リターンがプラスでも、大きなドローダウンが連続すると退場してしまう」という話は、本記事の「算術平均と幾何平均の差」とも深く関連しています。
8️⃣ まとめ
この記事では、「平均で年◯%」という数字の背景にある3つの重要なポイントを解説しました。
- 平均と中央値は違う:分布が偏っているとき、外れ値が平均を引き上げる。多くの人の実態は中央値のほうが近いことがある。
- 算術平均と CAGR(幾何平均)は違う:ばらつきが大きいほど、算術平均は実際の資産増加率より高く出る傾向がある。「毎年◯%ずつ増える」という意味ではない。
- リターンの順番が結果を変える:特に資産を引き出す段階では、早い時期に大きな下落が来るかどうかが最終残高に影響する(シークエンス・オブ・リターン・リスク)。
「年平均◯%のリターンが期待できる」という表現に出会ったとき、「それはどの種類の平均か」「自分はその分布のどのあたりに位置するか」「引き出す時期はいつか」という問いを持つ習慣が、長期投資の計画をより現実に即したものにする助けになります。
投資の成否を分けるのは、数字の大きさだけでなく、その数字の意味を正確に理解した上で、自分の状況に合わせて判断し続けることです。
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