🌡 投資家の心理を表す指数が強気に傾いたら、株は買いなのか? 研究でわかっていること【エントリー方法の研究 #16】
シリーズ第15回(#15)では、米国の先物市場の参加者のタイプ別の持ち高データを取り上げました。今回取り上げるのは、投資家全体の「強気・弱気」という気分そのものを数字にした指標です。相場の解説記事では「投資家心理が強気に傾いている」「弱気が強まっている」という言い方がよく使われ、「強気が強いなら株は買い」と受け取られることもあります。この心理の指数は、実際には株価の何を予測しているのでしょうか。ベイカー氏とワーグラー氏の研究(2006年、米国の個別の会社の株を対象)が報告した、会社の特徴によって反応が分かれるという結果と、個人のFX(外国為替)の売り買いの比率を対象にした研究の少なさまで、出典つきで整理します。
📌 この記事の結論(30秒まとめ)
- ベイカー氏とワーグラー氏の研究(2006年、米国の個別の会社の株、1962年から2001年までのデータ)は、投資家心理の指数が強気か弱気かによって、その後の株価の動きが会社の特徴ごとに違う形で表れたと報告しています。
- 投資家心理が強気な時期のあとは、利益が出ている会社の株価が、利益の出ていない会社より月に0.32%高く、配当を出す会社が出さない会社より月に0.45%高かったとされています。投資家心理が弱気な時期のあとは、これが逆転し、利益が出ている会社の株価が、利益の出ていない会社より月に0.85%低く、配当を出す会社が出さない会社より月に0.77%低かったと報告されています。
- 一方、別の研究(エルトン氏・グルーバー氏・バッセ氏、1998年)は、この心理指数の手がかりの一つ(閉鎖型投資信託の割引率)に対する感度が高い銘柄で、期待されるリターンが高くなっているとは言えないと報告しており、見方が分かれる部分もあります。個人のFXの売り買いの比率を対象にした学術研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。
1️⃣ どんな方法か
どんな方法? 投資家全体が強気か弱気かを、1つの数字(指数)にまとめたものが「投資家心理指数」です。代表的な作り方の一つでは、閉鎖型投資信託(決まった数の株式を発行し、株式のように証券取引所で売買される投資信託)の市場価格が、本来持っている資産の価値よりどれだけ割安か割高かという割引率、株式の売買の回転率、新規株式公開の件数とその初日の値上がり率、新規に発行された株式が資金調達全体のうちどれだけの割合を占めるか、配当を出す会社と出さない会社の株価の違いという6つの手がかりを、統計的な方法で1つの指数にまとめます。この方法は、この指数が高い(強気が強い)時期や低い(弱気が強い)時期を見分けて、その後の株価の動きの手がかりにする考え方です。
仮の例(考え方を説明するための仮の例です): ある年、新規株式公開が多く、その初日の値上がり率も高く、閉鎖型投資信託の割引率が小さい(人気が高い)状態が続いたとします。これらを合わせた投資家心理指数が、過去に比べてかなり高い水準まで上がったとします。「心理が強気に傾いている」と見て、割高になりやすいとされる小さな会社や利益の出ていない会社の株を避ける、というのがこの方法の一例です。これは方法の形を示すための例であり、この判断が有利だという意味ではありません。
2️⃣ 研究でわかっていること
投資家心理が強気か弱気かで、会社の特徴による株価の違いが入れ替わる
ベイカー氏とワーグラー氏の研究(2006年、学術誌「ジャーナル・オブ・ファイナンス」61巻4号、1645〜1680ページに掲載。もとは全米経済研究所の研究報告として2004年に発表)は、米国の個別の会社の株を対象に、1962年から2001年までの投資家心理指数と、1963年から2001年までの株価の動きを調べました。投資家心理指数は、閉鎖型投資信託の割引率、株式の売買の回転率、新規株式公開の件数とその初日の値上がり率、新規に発行された株式が資金調達全体のうちどれだけの割合を占めるか、配当を出す会社と出さない会社の株価の違いという6つの手がかりを、統計的な方法(6つの数字に共通する動きを取り出して1つにまとめる方法)で1つにまとめたものです。この指数は、合成のもとになった6つの手がかりのばらつきの53%を説明すると報告されています。研究の結果、投資家心理が強気な時期のあとは、利益が出ている会社の株価が、利益の出ていない会社より月に0.32%高く、配当を出す会社が出さない会社より月に0.45%高かったとされています。投資家心理が弱気な時期のあとは、これが逆転し、利益が出ている会社の株価が、利益の出ていない会社より月に0.85%低く、配当を出す会社が出さない会社より月に0.77%低かったと報告されています。小さな会社・値動きの荒い会社・急成長の会社・経営が苦しい会社についても、同じように投資家心理の強弱で株価の違いの出方が入れ替わる傾向が報告されています。
個人のFXの売り買いの比率を対象にした研究は見当たらなかった
投資家心理を測る指標には、株以外にも様々な種類があります。しかし、個人のFX(外国為替)の売り買いの比率(ブローカーが公開する、買い持ちと売り持ちのどちらが多いかを示す指標)を対象にした学術研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。為替のニュースの論調を数値化した、別の種類の研究は見つかりましたが、個人の売り買いの比率そのものを対象にした研究ではないため、この記事では数字を挙げません。数字が無いことを理由にこのシリーズを止めるわけではありませんが、個人のFXの売り買いの比率については、研究に基づいて語れることが少ないというのが、今回調べた結果です。
3️⃣ 反論・限界
同じ手がかりでも、別の研究では反対の結果
ベイカー氏とワーグラー氏自身の論文は、投資家心理指数の手がかりの一つである閉鎖型投資信託の割引率について、別の研究(エルトン氏・グルーバー氏・バッセ氏、1998年)が反対の結果を報告していることを、脚注で紹介しています。その研究は、この割引率に対する感度が高い銘柄(閉鎖型投資信託そのものを含む)で、期待されるリターンが高くなっているとは言えないと報告しています。同じ手がかりを使っても、どのような検証をするかによって、結果の読み方が変わる可能性があるということです。
対象期間は2001年まで
紹介した中心の研究が使った投資家心理指数のデータは1962年から2001年まで、株価の動きのデータは1963年から2001年までのものです。その後の期間、特にインターネットの普及やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の広がりで投資家心理の表れ方が変わった可能性のある期間に、同じ傾向が続いているかは、この記事で紹介した研究からはわかりません。
指数を作る手がかりそのものに、心理以外の要因が混じる可能性
研究自身も、使っている6つの手がかりの中に、投資家心理以外の要因が混ざる可能性を指摘しています。例えば株式の売買の回転率には、1975年に始まった株式売買の手数料の自由化なども影響した、長期にわたる増加の傾向があるため、研究ではこの傾向をあらかじめ取り除く調整をしています。新規株式公開の件数や初日の値上がり率についても、投資家心理以外の理由で増減する場合があると、研究自身が述べています。
4️⃣ 株・FX・コモディティでは?
紹介した研究が、どの市場を対象にしているかを表に整理します。
| 市場 | 研究はあるか | 内容 |
|---|---|---|
| 個別株 | あり(米国の個別の会社の株が中心) | 中心となる研究(ベイカー氏・ワーグラー氏、2006年)は、米国の個別の会社の株(1962年から2001年までのデータ)を対象にしています。 |
| 株価指数 | この記事からはわかりません | 紹介した研究は会社ごとの特徴による株価の違いを調べたもので、株価指数全体の動きそのものを対象にした検証はこの記事では確認できていません。 |
| 為替(FX) | この記事からはわかりません | 紹介した研究は米国の個別の会社の株が対象です。個人のFXの売り買いの比率を対象にした学術研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。 |
| コモディティ(金・原油など) | この記事からはわかりません | 紹介した研究はいずれも米国の個別の会社の株が対象で、金・銀・原油などの先物を対象にした検証はこの記事では確認できていません。 |
5️⃣ よくある誤解
誤解1:「心理指数が強気に傾いたら、株は全体的に買いだ」と思われがち
紹介した研究は、株価指数全体の動きを予測するものではありません。会社ごとの特徴(利益の有無・配当の有無・会社の大きさなど)によって、その後の株価の動きがどう違って出るかを調べたものです。「強気だから買い」という単純な結論は、この研究からは出てきません。
誤解2:「個人のFXの売り買いの比率も、この研究が裏付けている」と思われがち
この記事で紹介した研究の対象は、米国の個別の会社の株です。個人のFXの売り買いの比率を対象にした学術研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。
誤解3:「心理指数はいつも同じ強さで株価を予測する」と思われがち
対象期間が2001年までであること、別の研究(エルトン氏・グルーバー氏・バッセ氏)が反対の結果を報告していることなど、反論・限界の節で述べた点に注意が必要です。
6️⃣ まとめ
- ベイカー氏とワーグラー氏の研究(2006年、米国の個別の会社の株、1962年から2001年までのデータ)は、投資家心理指数が強気か弱気かによって、会社の特徴(利益の有無・配当の有無など)による株価の違いが入れ替わると報告しました。
- 投資家心理が強気な時期のあとは利益が出ている会社・配当を出す会社の株価が相対的に高く、弱気な時期のあとはこの関係が逆転すると報告されています。
- 一方、別の研究(エルトン氏・グルーバー氏・バッセ氏、1998年)は、同じ指数の手がかりの一つについて反対の結果を報告しており、対象期間も2001年までです。個人のFXの売り買いの比率を対象にした研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。
次回は、値動きの荒さに応じて、入れる量を変える考え方を見ていきます。
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📚 出典・参考文献
- Baker, Malcolm & Wurgler, Jeffrey (2004, revised; published 2006) "Investor Sentiment and the Cross-Section of Stock Returns", NBER Working Paper No.10449(のちに Journal of Finance 61(4), 2006年, pp.1645-1680 に掲載)(全米経済研究所の公式ページで論文本文の文書を直接取得し、要旨・6つの手がかりの内容・投資家心理指数の作り方(統計的な合成方法と、ばらつきの53%を説明するという記述)・利益の有無・配当の有無による月あたりのリターンの差(0.32%・0.45%・0.85%・0.77%)・対象期間(1962〜2001年)・反対の結果を報告する別の研究への脚注での言及を、いずれも論文本文の原文で確認)
- Elton, Edwin J., Gruber, Martin J. & Busse, Jeffrey A. (1998) "Do Investors Care About Sentiment?", Journal of Business 71(4), pp.477-500(ベイカー氏とワーグラー氏の論文〔上記〕の脚注で紹介されている研究。経済学の論文を集めた検索サービスのページで書誌情報を確認。出版社ページからの直接の文書取得は遮断されたため、内容はベイカー氏とワーグラー氏の論文が脚注で要約した記述に基づく)
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