🌙 「夜のあいだ」と「取引時間の中」で、もうけの出方は違う? 研究でわかっていること【エントリー方法の研究 #12】
シリーズ第11回(#11)では「何曜日か」という暦に注目しました。この記事で注目するのは、1日の中の「いつ持っているか」です。市場が閉まってから次に開くまでの「夜のあいだ」と、市場が開いている「取引時間の中」とでは、同じ銘柄でも値動きの性質が違う、という研究があります。中には、強い銘柄を買い弱い銘柄を売る方法のもうけが、ほぼすべて夜のあいだに出ていたという報告もあります。この記事では、その研究の内容と、株価指数の先物でいったん見つかったあとに2021年以降ほぼ消えてしまった例まで、出典つきで整理します。
📌 この記事の結論(30秒まとめ)
- ルー氏・ポーク氏・スクラス氏の研究(2019年)は、米国の個別株(1993年から2013年)で、強い銘柄を買い弱い銘柄を売る方法のもうけが、1か月あたり平均で夜のあいだにプラス0.89%、取引時間の中にはマイナス0.18%と、ほぼ正反対の向きに分かれていたことを報告しました(手数料などを引く前の数字)。
- ニューヨーク連銀の研究は、株価指数の先物で、欧州の市場が始まる時間帯にもうけが集まっていたことを報告しましたが、同じ研究グループの2026年の続報によると、その集まりは2021年以降ほとんど見られなくなっています。
- 為替では、金利の差をねらう取引(キャリートレード)のもうけの多くが米国の取引時間の中に生まれ、米国の取引時間の外(夜のあいだ)は逆に外国の通貨(米ドル以外)が下がりやすいという報告もあります。「夜と昼のどちらが有利か」は、市場や方法によって違い、共通の答えはありません。
1️⃣ どんな方法か
「夜と昼」に注目する方法は、同じ銘柄を持ち続けるにしても、いつからいつまで持つかを変える方法です。1日のリターンは、大きく分けて「夜のあいだ(前日の取引が終わった値段から、次の取引が始まる値段までの変化)」と「取引時間の中(取引が始まった値段から、その日の取引が終わる値段までの変化)」の2つに分けられます。
仮の例(考え方を説明するための仮の例です): ある銘柄を、取引が終わる値段で買い、次の取引が始まる値段で売ることを毎日繰り返す入り方と、取引が始まる値段で買い、その日の取引が終わる値段で売ることを毎日繰り返す入り方を考えてみます。同じ銘柄でも、この2つの入り方でもうけの出方が違う、という研究があります。これは方法の形を示すための例であり、この売買が有利だという意味ではありません。
2️⃣ 研究でわかっていること
米国の個別株:強い銘柄は夜に、ほかは昼に(ルー氏・ポーク氏・スクラス氏、2019年)
ルー氏・ポーク氏・スクラス氏の研究は、米国の個別株(1993年から2013年、小さすぎる銘柄を除いた広い範囲)を使い、14種類の売買方法のもうけを、夜のあいだと取引時間の中に分けて調べました。その結果、調べた14種類のどの方法でも、もうけはほぼ夜のあいだだけ、または取引時間の中だけに出ており、しかも2つの時間帯のもうけは、たいてい正反対の向きだったと報告しています。たとえば、過去12か月で強かった銘柄を買い、弱かった銘柄を売る方法(時価総額で加重し、直近1か月は外す)は、1か月あたり平均で夜のあいだにプラス0.89%、取引時間の中にはマイナス0.18%でした(手数料や空売りの費用を引く前の数字です)。この夜のあいだのプラスは1年ほど、取引時間の中のマイナスは2年以上にわたって続く傾向も見られました。
株価指数の先物:欧州市場が始まる時間帯に集まるプラス(ニューヨーク連銀、2020年・2023年)
ボヤルチェンコ氏・ラーセン氏・ウェラン氏の研究は、「米国株のリターンは、欧州市場が始まる時間帯に、大きくプラスになっている。このリターンは広くみられ、金額として大きく、統計的にもはっきりしたものである」と報告しました。株価指数の先物(1998年から2018年)を24時間分析したところ、1日全体の年率のもうけがおよそ4.5%、そのうち夜のあいだがおよそ3.1%、取引時間の中はおよそ1.4%でした(いずれも売買の費用を引く前の数字です)。夜のあいだの中でも、欧州の市場が始まる1時間(米国東部時間の午前2時から3時ごろ)だけで、年率にしておよそ3.6〜3.7%のプラスが集まっていたといいます。この研究は、前日の米国市場の取引終了時にできた注文の偏りを、値をつける側の業者がいったん抱え込み、欧州の買い手が参加する時間帯にその分が値段へ戻ってくる、という仕組みで説明しています。
3️⃣ 反論・限界
見つかった傾向が、その後ほぼ消えた例がある
ボヤルチェンコ氏らは2026年、同じ株価指数の先物データを使った続報で、「欧州市場が始まる1時間(午前2時から3時ごろ)に年率およそ3.7%集まっていたプラスは、2021年以降、ほぼゼロまで下がっている」と報告しました。続報では、前日の取引終了時の注文の偏りの大きさ、値動きの荒さ、値をつける側の業者がどれだけ注文を抱え込めるか、という3つの手がかりから、プラスが消えた理由を調べています。見つかった時点では大きく、広くみられた傾向でも、その後の期間では小さくなることがある、という例です。
報告された数字は、手数料を引く前のもの
ルー氏らの研究が報告した「夜のあいだにプラス0.89%、取引時間の中にマイナス0.18%」という数字は、いずれも手数料や空売りの費用を引く前のものです。毎月の銘柄の入れ替えにともなう取引の費用や空売りの費用を考えに入れると、実際に手元に残る大きさは、報告された数字より小さくなると考えられます。
なぜ夜と昼で違うのかは、説明が一つに決まっていない
ルー氏らは、夜のあいだと取引時間の中でもうけの出方が分かれる理由を、個人投資家と機関投資家など、参加者の違いに結びつけて説明しています。一方、アブディ氏ら(2018年)の研究は、米国株の夜のあいだのリターンが、投資家の気分のかたより(センチメント)を映す目印として使えることを示しており、評価がむずかしい銘柄ほどその傾向が強かったと報告しています。どちらの説明も、夜のあいだのリターンに特徴があることでは一致していますが、原因をどう説明するかは、研究のあいだでも一つに決まっていません。
4️⃣ 株・FX・コモディティでは?
紹介した研究が、どの市場を対象にしているかを表に整理します。
| 市場 | 研究はあるか | 内容 |
|---|---|---|
| 個別株 | あり(研究の中心) | ルー氏らの研究は米国の個別株(1993年から2013年)が対象です。強い銘柄を買い弱い銘柄を売る方法など複数の方法で、夜のあいだと取引時間の中のもうけが正反対の向きに分かれていました。 |
| 株価指数(先物) | あり | ニューヨーク連銀の研究は、株価指数の先物(1998年から2018年)で、欧州市場が始まる時間帯にプラスが集まっていたことを報告しました。ただし2021年以降、その集まりはほぼ消えています。 |
| 為替(FX) | あり | クロン氏・ミューラー氏・ウェラン氏の研究は、主要な10通貨の24年分のデータで、金利の差をねらう取引のもうけの多くが米国の取引時間の中に生まれ、米国の取引時間の外(夜のあいだ)は逆に外国の通貨(米ドル以外)が下がりやすいことを報告しました。為替は24時間取引されるため、ここでの「夜」は米国の取引時間の外という意味です。 |
| コモディティ(金など) | あり(数字はこの記事では確かめられず) | ブローズ氏とゴンダレカー氏の研究(2014年)は、ニューヨークの商品取引所で取引される金の先物(1985年から2012年)で、夜のあいだのリターンが取引時間の中より大きかったと報告しています。ただし原因は研究でもはっきりしておらず、具体的な大きさの数字はこの記事では確かめられませんでした。原油など、ほかのコモディティで同じ傾向があるかは、この記事からはわかりません。 |
5️⃣ よくある誤解
誤解1:「夜に持てば、どの市場でも値段が上がる」と思われがち
この記事で紹介したのは、米国の個別株の一部の方法や、株価指数の先物の特定の1時間についての報告です。為替では逆に、夜のあいだに外国の通貨が下がりやすいという報告もあり、「夜は上がりやすい」という単純な決まりがあるわけではありません。
誤解2:「株価指数の先物の夜間のプラスは、今も変わらず続いている」と思われがち
ニューヨーク連銀の最初の研究が報告した欧州市場開始前後のプラスは、2026年の続報によると2021年以降ほぼ消えています。見つかった時点の傾向が、その後も同じ大きさで続くとは限りません。
誤解3:「報告された数字をそのまま売買に使えば、同じだけもうかる」と思われがち
ルー氏らの数字は手数料や空売りの費用を引く前のものです。毎月の銘柄の入れ替えには取引の回数がともなうため、実際のもうけは報告された大きさより小さくなると考えられます。過去の研究の数字は、将来の成績を約束するものではありません。
6️⃣ まとめ
- ルー氏・ポーク氏・スクラス氏の研究(2019年)は、米国の個別株で、強い銘柄を買い弱い銘柄を売る方法のもうけが、1か月あたり平均で夜のあいだにプラス0.89%、取引時間の中にマイナス0.18%と、正反対の向きに分かれていたことを報告しました(手数料などを引く前の数字)。
- ニューヨーク連銀の研究は、株価指数の先物で欧州市場が始まる時間帯にプラスが集まっていたことを報告しましたが、2026年の続報では、そのプラスは2021年以降ほぼ消えています。
- 為替では、金利の差をねらう取引のもうけの多くが米国の取引時間の中に生まれるという報告があり、個別株の強い銘柄を買う方法や株価指数の先物についての報告とは、もうけが出る時間帯が逆です。
- 夜と昼のどちらが有利かは、市場や方法によって違い、見つかった時点の傾向がその後も続くとは限りません。
次回は、決算発表のあとに値動きがじわじわ続くという研究を見ていきます。
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📚 出典・参考文献
- Lou, Polk & Skouras (2019) "A tug of war: overnight versus intraday expected returns", Journal of Financial Economics 134(1)(出版社ページは直接の取得が遮断されたため、検索結果に引用された要旨・論文の記述で確認)
- Boyarchenko, Larsen & Whelan, "The Overnight Drift", Federal Reserve Bank of New York Staff Reports No.917(2020年2月・2022年8月改訂。のちに Review of Financial Studies 36(9), 2023年に掲載)(ニューヨーク連銀公式ページは直接の取得が遮断されたため、検索結果に引用された要旨・論文の記述で確認)
- Boyarchenko, Larsen & Whelan, "The Disappearing Overnight Drift", Liberty Street Economics(2026年7月)(同上。検索結果に引用された記事の記述で確認)
- Krohn, Mueller & Whelan, "FX Premia Around the Clock"(ワーキングペーパー、2018年6月版)(大学のミラーページも直接の取得が遮断されたため、検索結果に引用された要旨の記述で確認)
- Blose & Gondhalekar (2014) "A Gold Price Anomaly"(大学のリポジトリページは直接の取得が遮断されたため、検索結果に引用された記述で確認。具体的な大きさの数字は確認できなかったため本文には記載していません)
- Aboody, Even-Tov, Lehavy & Trueman (2018) "Overnight Returns and Firm-Specific Investor Sentiment", Journal of Financial and Quantitative Analysis 53(2)(出版社ページは直接の取得が遮断されたため、検索結果に引用された要旨の記述で確認)
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