🌊 「値動きが荒れたら量を減らす」は成績を上げるのか? 研究でわかっていること【エントリー方法の研究 #17】
シリーズ第16回(#16)では、投資家心理を表す指標を取り上げました。この記事で取り上げるのは、「いつ入るか」ではなく「どれだけの量で入るか」という工夫です。値動きが荒れている(ボラティリティが高い)ときは取引の量を減らし、落ち着いているときは増やす——という考え方は、実際の研究でどこまで成績の改善につながっているのでしょうか。モレイラ氏とミュア氏の研究(2017年)が米国株の要因・通貨の金利差取引で報告した結果と、セダーバーグ氏らの研究(2020年)による反論、そしてよく混同される「VIX(ボラティリティ指数:米国株がこの先どれくらい大きく動きそうかを、市場がどう見ているかを表す数字)が跳ねたら買い」という考え方との違いまで、出典つきで整理します。
📌 この記事の結論(30秒まとめ)
- モレイラ氏とミュア氏の研究(2017年、米国株の市場全体の要因・1926〜2015年のデータ)は、前の月の値動きの荒さ(分散)に反比例する量で毎月の持ち高を調整する方法が、何もしない場合(買って持ち続ける方法)と比べて、年率4.9%のプラスの上乗せ(アルファ:値動きの大きさだけでは説明できない上乗せ分の成績)と、リスク1あたりのもうけを表す数字(シャープレシオ)の25%の上昇をもたらしたと報告しました。株の5つの要因・通貨の金利差取引(キャリートレード)でも改善が報告されています(改善の大きさは要因ごとに異なり、25%は市場全体の要因についての数字です)。
- 一方、セダーバーグ氏らの研究(2020年)は、株の103種類の方法を対象に、実際にその場で使える情報だけでこの工夫を試すと、量を調整する方法を組み合わせに加えるかどうかで比べた場合、加えたほうがリスクに対する成績が悪くなった組み合わせが103種類のうち72種類あったと報告しました。高い成績の一部は、全期間のデータを前提にした検証方法によるものだと指摘されています。
- 「VIXが跳ねたら買う」という考え方は、量を調整するこの工夫とは別の話です。ジオ氏の研究(2005年)は、きわめて高いVIXの水準のあとは短期的にプラスに傾く兆しを報告していますが、そこそこ高い水準のあとはむしろ不利な成績だったとも報告しています。
1️⃣ どんな方法か
どんな方法? 持っている量(ロットの大きさ)を、「いつ入るか」ではなく「どれだけの量で入るか」で調整する方法です。目安にするのは、直前の期間(たとえば前の1か月)の値動きの荒さです。値動きが荒かった期間のあとは量を減らし、落ち着いていた期間のあとは量を増やします。買うか売るかという方向を決める方法ではなく、決めた方向にどれだけの量で入るかを決める工夫です。
仮の例(考え方を説明するための仮の例です): ある方法で前の月の値動きの荒さ(分散)を測り、今月の量をそれに反比例させると決めたとします。前の月の値動きが荒かった月は、今月の量をふだんの半分に減らし、前の月が落ち着いていた月は、今月の量をふだんの1.5倍に増やす、といったルールです。これは方法の形を示すための例であり、この売買が有利だという意味ではありません。
2️⃣ 研究でわかっていること
市場全体の要因で、シャープレシオが25%上がったという報告
モレイラ氏とミュア氏の研究(全米経済研究所の研究報告として2016年に発表、2017年に学術誌「ジャーナル・オブ・ファイナンス」72巻4号、1611〜1644ページに掲載)は、前の月の値動きの荒さ(分散)の大きさに反比例する量で、毎月の持ち高を調整する方法を、米国株の市場全体を表す要因(1926〜2015年のデータ)に当てはめました。その結果、何もしない場合(買って持ち続ける方法)と比べて、年率4.9%のプラスの上乗せ(アルファ)と、リスク1あたりのもうけを表す数字(シャープレシオ)の25%の上昇が報告されています。同じ研究は、割安株を買う要因・強い銘柄を買う要因(モメンタム)・収益性の高い会社を買う要因・資本効率の高い会社を買う要因・投資の少ない会社を買う要因という、株の5つの要因と、通貨の金利差をねらう取引(キャリートレード)でも、成績が改善したと報告しています(改善の大きさは要因ごとに異なり、25%という数字は市場全体の要因についてのものです)。
「不景気のときほど量を減らす」という、常識に反する動き
この研究は、量を調整する理由が「危ないときに量を減らしてリスクを避けているだけ」という単純な説明では説明しきれないとも報告しています。米国の景気後退期(全米経済研究所が認定した期間)を調べると、市場全体の要因に対して、この方法がどれだけ連動するかを表す数字(ベータ)は、景気後退期以外では0.83だったのに対し、景気後退期ではマイナス0.51下がり、合計で0.32まで下がっていたと報告されています。景気後退期はリスクをとった分だけ高いリターンが得られやすい場面だとも言われるため、この方法が景気後退期にかえって守りに入っているという点は、そうした典型的な説明では説明しづらい、と論じられています。
3️⃣ 反論・限界
「その場で使える形」で試すと、7割近い組み合わせで成績が悪化したという報告
セダーバーグ氏・オドハーティ氏・ワン氏・ヤン氏の研究(2020年、学術誌「ジャーナル・オブ・ファイナンシャル・エコノミクス」138巻、95〜117ページに掲載)は、株の103種類の方法を対象に、実際にその場で使える情報だけを使って、この量を調整する工夫を試しました。その結果、何もしない場合と単純に1対1で比べると、量を調整する方法のほうがリスク1あたりの成績(シャープレシオ)で上回ったのは103種類のうち53種類にとどまり、さらにその53種類のうち、統計的にはっきりした差と言えたのはわずか8種類だったと報告されています。また、量を調整する選択肢を加えるかどうかを、もっとも効率の良い組み合わせを選ぶ方法で比べた場合には、加えたほうがリスクに対する成績が悪くなった組み合わせが103種類のうち72種類あったとも報告されています。
高い成績の一部は、未来の情報を使わないと再現できない
この研究は、モレイラ氏とミュア氏の研究と同じ統計的な検証方法(回帰分析)を使うと、同じようにプラスの上乗せ(アルファ)が報告できることも確認しています。ただし、その検証方法は、全期間のデータを使って初めて決まる調整の仕方を前提にしており、実際の取引のように「その時点までの情報」だけでは再現できないと指摘しています。成績が実際には振るわない主な理由として、量を調整する基準となる統計的な関係そのものが、期間によって大きく変わってしまうこと(構造的な不安定さ)を挙げています。なお、この研究が報告した数字は取引コストを引く前のものです。この反論の研究は株の103種類の方法が対象で、通貨の金利差取引やコモディティについて、同じように実際にその場で使える形で試した結果は、この記事では確認できていません。
混同されやすい「VIXが跳ねたら買う」という考え方との違い
この工夫(値動きの荒さで量を調整する)と、よく混同されるのが「VIXが跳ねたら買う」という考え方です。これは「どれだけの量で入るか」ではなく「いつ・どちらの方向に入るか」を決める、別の種類の方法です。ジオ氏の研究(2002年に研究報告として発表、2005年に学術誌「ジャーナル・オブ・ポートフォリオ・マネジメント」31巻3号、92〜100ページに掲載)は、米国のS&P100とナスダック100という2つの株価指数を対象に、VIXと、ナスダック100を対象にした同じ種類の値動きの荒さを表す指数の水準と、その後のリターンの関係を調べました。その結果、これらの指数の水準が上がると、その後の2つの株価指数のリターンは平均でマイナスに傾く一方、きわめて高い水準になったあとは、統計的には短期的にプラスに傾く兆しがあったと報告されています。ただし、そこそこ高い水準のあとは、むしろリスクに対して不利な成績だったとも報告されています。
4️⃣ 株・FX・コモディティでは?
紹介した研究が、どの市場を対象にしているかを表に整理します。
| 市場 | 研究はあるか | 内容 |
|---|---|---|
| 個別株・株価指数 | あり | モレイラ氏とミュア氏の研究(2017年)は、米国株の市場全体の要因・5つの株の要因(1926〜2015年)で成績の改善を報告。セダーバーグ氏らの研究(2020年)は、同じ種類の株の方法を実際にその場で使える形で試すと、多くの組み合わせで改善が見られなかったと報告。ジオ氏の研究(2005年)は米国の2つの株価指数(S&P100・ナスダック100)が対象。 |
| 為替(FX) | 一部あり(金利差取引のみ) | モレイラ氏とミュア氏の研究は、通貨の金利差をねらう取引(キャリートレード)でも成績の改善を報告していますが、個別の通貨ペアを対象にした結果ではありません。セダーバーグ氏らのような、実際にその場で使える形での検証は、この記事では確認できていません。 |
| コモディティ(金・原油など) | この記事からはわかりません | 紹介した3つの研究はいずれも、金・銀・原油などのコモディティを対象にしていません。 |
5️⃣ よくある誤解
誤解1:「値動きが荒れたら量を減らす」と「VIXが跳ねたら買う」は同じ話だと思われがち
この記事で紹介した量を調整する工夫は、買うか売るかの方向を決めるものではなく、決めた方向にどれだけの量で入るかを決める工夫です。一方、「VIXが跳ねたら買う」という考え方は、いつ・どちらの方向に入るかを決める、別の種類の方法です。ジオ氏の研究が報告したのは後者の傾向で、しかもきわめて高い水準のときだけの、短期的な傾向です。
誤解2:「量を減らせば、成績は良くなる」と思われがち
セダーバーグ氏らの研究が報告したとおり、実際にその場で使える情報だけでこの工夫を試すと、多くの組み合わせで成績は改善しませんでした(米国の株の103種類の方法を対象にした検証です)。量を調整すること自体が、いつも成績を上げるわけではありません。
誤解3:「研究で報告された高い成績は、そのまま再現できる」と思われがち
モレイラ氏とミュア氏の研究が使った統計的な検証方法は、全期間のデータを前提にしています。セダーバーグ氏らが指摘したとおり、その時点までの情報だけで同じ調整を行うと、報告された高さの成績を再現できるとは限りません。
6️⃣ まとめ
- モレイラ氏とミュア氏の研究(2017年)は、米国株の市場全体の要因・5つの株の要因・通貨の金利差取引(1926〜2015年のデータ)で、前の月の値動きの荒さに反比例する量で取引する方法の成績の改善を報告しました。シャープレシオの25%の上昇は市場全体の要因についての数字で、ほかの要因・取引での改善の大きさはそれぞれ異なります。
- セダーバーグ氏らの研究(2020年)は、株の103種類の方法を実際にその場で使える形で試すと、量を調整する方法を組み合わせに加えたほうがリスクに対する成績が悪くなったのは72種類だったと報告し、高い成績の一部は全期間のデータを前提にした検証方法によるものだと指摘しました。
- 「VIXが跳ねたら買う」という考え方は、量を調整する工夫とは別の種類の方法です。ジオ氏の研究(2005年)は、きわめて高いVIXの水準のあとだけ短期的にプラスに傾く兆しを報告しています。
- 紹介した研究は米国株・通貨の金利差取引・米国の株価指数が対象で、コモディティ(金・原油など)で同じ傾向があるかは、この記事からはわかりません。
次回は、ローソク足の形が研究でどう評価されているのかを見ていきます。
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📚 出典・参考文献
- Moreira, Alan & Muir, Tyler (2016, revised) "Volatility Managed Portfolios", NBER Working Paper No.22208(のちに The Journal of Finance 72(4), 2017年, pp.1611-1644に掲載)
- Cederburg, O'Doherty, Wang & Yan (2020) "On the Performance of Volatility-Managed Portfolios", Journal of Financial Economics 138(1), pp.95-117
- Giot, Pierre (2002) "Implied Volatility Indices as Leading Indicators of Stock Index Returns?", CORE Discussion Paper 2002/050, Université catholique de Louvain(のちに The Journal of Portfolio Management 31(3), 2005年, pp.92-100に掲載)
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