〰 移動平均線が交差したら売買する「ゴールデンクロス」は効くの? 研究でわかっていること【エントリー方法の研究 #03】
短い期間の移動平均線が、長い期間の移動平均線を下から上に抜けたら買う——「ゴールデンクロス」と呼ばれるこの型は、移動平均線を使った売買のルールの中でも、とくによく知られています。移動平均線そのものの読み方や種類は別の記事で解説しているので、この記事では、移動平均線の交差を売買のルールとして使ったとき、それが学術研究でどこまで確かめられているのかを、実際に研究の要旨を確認しながら整理します。
📌 この記事の結論(30秒まとめ)
- 米国の代表的な株価指数「ダウ平均」の1897年から1986年までの90年分のデータで、移動平均線の交差や、高値・安値を抜けたら売買するルールなど26種類を確かめた研究があります。短い移動平均線が長い移動平均線を上に抜けた買いシグナルのあとの値動きは、下に抜けた売りシグナルのあとの値動きより、はっきり良く、値動きの荒さも小さいという結果が報告されました。
- 別の研究者たちは、移動平均線を含む5つのグループ、あわせて7,846種類のルールに広げ、「たくさん試せば偶然良く見えるルールが出てくる」という問題を統計的に調整したうえで確かめ直しました。もとの90年分のデータでは、それでも、いちばん成績の良いルールには偶然とは言いにくい効果が残っていた、と報告されています。
- ところが、いちばん成績が良かったルールを、もとのデータより後の10年間(1987年から1996年)で試すと、もとの期間のような良い成績は続かず、偶然のちがいと見分けがつかないほどの結果になった、と報告されています。
1️⃣ どんな方法か
移動平均線の交差は、期間の短い移動平均線(たとえば25日)が、期間の長い移動平均線(たとえば75日)を、下から上に抜けたら「これから上がりやすい」と考えて買い、反対に上から下に抜けたら「これから下がりやすい」と考えて売る方法です。短い線が長い線を上に抜ける場面は「ゴールデンクロス」、下に抜ける場面は「デッドクロス」と呼ばれます。
仮の例(考え方を説明するための仮の例です): ある銘柄の25日の移動平均線が、それまでずっと75日の移動平均線の下にあったとします。値段が上がり続けた結果、25日の移動平均線が75日の移動平均線を上に抜けたら、移動平均線の交差の考え方では「もみ合いが終わって新しい上向きの流れが始まったのではないか」と考え、買いを検討します。
移動平均線は、過去の値段の平均を計算する指標です。そのため、値段が本当に反転してから、しばらく時間が経ってから、ようやく交差が起こります。この「遅れて出る」という性質をどう受け止めるかが、移動平均線の交差という方法を考えるうえでの出発点になります。
2️⃣ 研究でわかっていること
ダウ平均90年分を調べた研究(ブロック氏・ラコニショック氏・ルバロン氏の研究、1992年)
ブロック氏らの研究は、米国の代表的な30銘柄からなる株価指数「ダウ平均」の、1897年から1986年までの90年分の日々の値段データを使い、よく知られた2種類のテクニカルのルール——移動平均線の交差と、一定期間の高値・安値を抜けたら売買する「トレーディングレンジ・ブレイク」——を、期間の長さを変えながら26種類のルールとして確かめました。その結果、短い移動平均線が長い移動平均線を上に抜けた買いシグナルのあとの値動きは、下に抜けた売りシグナルのあとの値動きより、はっきり良く、値動きの荒さも小さいという結果が報告されています。この違いは、「値段はでたらめに動く」という考え方(ランダムウォーク)や、値動きの荒さの変わり方を考えたいくつかの統計モデルでは説明がつかないほどはっきりしたものだった、とされています。
7,846種類のルールで確かめ直した研究(サリバン氏・ティマーマン氏・ホワイト氏の研究、1999年)
サリバン氏らの研究は、ブロック氏らの26種類のルールをさらに大きく広げ、値段の動きの割合を見るルール、移動平均線のルール、支持線と抵抗線、値幅の枠(チャネル)を抜けたら売買するルール、出来高を使うルールの5つのグループ、あわせて7,846種類のルールを作りました。そのうえで、「たくさんのルールを試すと、たまたま成績の良いルールが見つかりやすくなる」という問題(データスヌーピングと呼ぶ。日本語にすると「データのつまみ食い」に近い意味です)を、統計的な方法(ブートストラップと呼ぶ。実際のデータを何度も並べ替えて、偶然でどれくらいの差が出るかを確かめる方法)で調整したうえで、確かめ直しました。この調整をしたあとでも、ダウ平均の1897年から1986年までのデータでは、いちばん成績の良いルールに、偶然とは言いにくい効果が見られた、と報告されています。
3️⃣ 反論・限界
サリバン氏らの研究は、この結果を、もとのデータの期間(1986年まで)よりあとの、新しい10年間——1987年から1996年までのダウ平均のデータ——でも試しました。すると、もとの期間でいちばん成績が良かったルールでも、良い成績は続かず、偶然のちがいと見分けがつかないほどの結果になった、と報告されています。研究者たちはこの結果について、市場がその後、より効率的になった(多くの参加者が同じ情報をすぐに織り込むようになった)ためではないか、という見方を示しています(当サイトによる要約です)。
テクニカル分析の研究をまとめて見直したパーク氏・アーウィン氏のレビュー研究(2007年)でも、似た傾向が報告されています。移動平均線を含むテクニカル分析の手法を調べた、比較的新しい時期の研究95件のうち、良い結果を報告したのは56件、悪い結果を報告したのは20件、良い結果と悪い結果が入りまじった結果を報告したのは19件でした。そして、良い結果が安定して見られたのは、少なくとも1990年代の初めまでだった、とされています。この研究の対象は移動平均線の交差だけに限らず、テクニカル分析全体という幅広い範囲であることには注意が必要です。
4️⃣ 株・為替・コモディティでは?
紹介した研究がどの市場を調べたものかを、表に整理します。
| 市場 | 研究はあるか | 内容 |
|---|---|---|
| 株価指数 | あり | 米国の代表的な株価指数「ダウ平均」の1897年から1986年までのデータで、移動平均線の交差の効果が報告されています。ただし、その後の10年間(1987年から1996年)では良い成績は続かなかった、とも報告されています。 |
| 個別の株式 | この研究からはわからない | 紹介した研究は、いずれも複数の銘柄をまとめた株価指数が対象で、1つの会社の株式だけを対象にした確認ではありません。 |
| 為替(FX) | この研究(移動平均線の交差)からはわからない | ブロック氏らとサリバン氏らの研究は、いずれも米国の株価指数が対象で、為替のデータは使われていません。ただし、テクニカル分析全体を見直したパーク氏・アーウィン氏のレビュー研究では、比較的古い時期の研究において、為替市場でテクニカル分析の手法に利益が見られたと報告されています。これは移動平均線の交差だけを取り出した結果ではなく、さまざまな手法をまとめたレビューである点に注意してください。 |
| コモディティ(商品) | この研究(移動平均線の交差)からはわからない | 同じく、金や原油などの商品のデータは、ブロック氏らとサリバン氏らの研究では使われていません。パーク氏・アーウィン氏のレビュー研究では、比較的古い時期の研究において、先物市場でも利益が見られたと報告されていますが、これも移動平均線の交差だけを取り出した結果ではありません。 |
ブロック氏らとサリバン氏らの2つの研究は、いずれも米国の株価指数が対象です。移動平均線の交差だけを取り出して、為替やコモディティで確かめた研究があるかどうかは、今回は確認できていません。株価指数で見つかった傾向が、そのまま為替やコモディティにも当てはまるとは限らない、と考えておくほうが安全です。
5️⃣ よくある誤解
誤解1:移動平均線が交差した瞬間、値段の流れがちょうど変わったと思われがち
実際には、移動平均線は過去の値段の平均を計算する指標なので、値段が本当に反転してから、しばらく時間が経ってから、ようやく交差が起こります。移動平均線の交差は、流れの変わり目をぴったり教えてくれるものではなく、遅れて出ることを受け入れたうえで使う方法です。
誤解2:たくさんの期間の組み合わせを試して、一番成績の良かったものを選べば安心だと思われがち
サリバン氏らの研究では、7,846種類のルールの中でいちばん成績の良かったルールでさえ、もとのデータより後の10年間で試すと、偶然のちがいと見分けがつかないほどの結果になりました。たくさんのルールを試して一番良さそうなものを選ぶやり方には、たまたま偶然良く見えているだけのルールを選んでしまう危うさがあります。
誤解3:移動平均線の交差は今も昔と同じように効くと思われがち
パーク氏・アーウィン氏のレビュー研究では、テクニカル分析の手法で良い結果が安定して見られたのは、少なくとも1990年代の初めまでだった、と報告されています。過去のデータで良い成績だったことと、これから先も同じように良い成績が続くこととは、別のことです。
6️⃣ まとめ
- 米国のダウ平均90年分のデータを調べた研究では、短い移動平均線が長い移動平均線を上に抜けた買いシグナルのあとの値動きが、下に抜けた売りシグナルのあとより、はっきり良いという結果が報告されています。
- 移動平均線を含む7,846種類のルールに広げ、偶然の効果を統計的に調整して確かめ直した研究でも、もとのデータの期間では、いちばん成績の良いルールに偶然とは言いにくい効果が見られました。
- ただし、そのいちばん成績の良いルールを、もとの期間より後の10年間で試すと、良い成績は続かず、偶然のちがいと見分けがつかないほどの結果になりました。
- テクニカル分析全体を見直したレビュー研究でも、良い結果が安定して見られたのは、少なくとも1990年代の初めまでだった、とされています。
- 紹介した研究は、いずれも米国の株価指数が対象で、為替やコモディティ、個別の株式について、移動平均線の交差そのものを確かめた研究は、今回は確認できていません。
次回は、為替の研究がとくに多いとされる、ほかの指標のシグナルについて、研究でわかっていることを見ていきます。
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📚 出典・参考文献
- Brock, Lakonishok & LeBaron (1992) "Simple Technical Trading Rules and the Stochastic Properties of Stock Returns", The Journal of Finance 47(5)(出版社ページの要旨・要約で確認)
- Sullivan, Timmermann & White (1999) "Data-Snooping, Technical Trading Rule Performance, and the Bootstrap", The Journal of Finance 54(5)(出版社ページの要旨・要約で確認)
- Park & Irwin (2007) "What Do We Know About the Profitability of Technical Analysis?", Journal of Economic Surveys 21(4)(出版社ページの要旨・要約で確認)
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