⛰ 高値・安値を抜けたら買う「ブレイク」は効くの? 研究でわかっていること【エントリー方法の研究 #02】
「これまでの高値を上に抜けたら買い、安値を下に抜けたら売る」——ブレイクは、トレンドフォロー(前回の記事で扱った、値動きの向きに乗る考え方)の中でも、とくによく使われる入り方です。この記事では、その考え方が学術研究でどこまで確かめられているのか、そして「昔は効いた方法が、後の期間ではどうなったのか」を、実際に研究の要旨を確認しながら整理します。
📌 この記事の結論(30秒まとめ)
- 米国の代表的な株価指数「ダウ平均」の1897年から1986年までの90年分のデータで、高値・安値を抜けたら売買するルールなど26種類を確かめた研究があります。買いのシグナルが出たあとの値動きは、売りのシグナルが出たあとの値動きより、はっきり良いという結果が報告されました。
- 別の研究者たちは、同じ考え方をさらに広げて7,846種類のルールを作り、「たくさん試せば偶然良く見えるルールが出てくる」という問題を統計的に調整したうえで、確かめ直しました。
- ところが、いちばん成績が良かったルールを、もとのデータより後の10年間で試すと、同じような結果は出ませんでした。研究者たちは、市場がその後、効率的になった(みんなが同じ情報をすぐに織り込むようになった)ためではないかと考えています。
1️⃣ どんな方法か
ブレイクは、一定の期間(たとえば過去25日間)の一番高い値段(高値)を、今日の値段が上に抜けたら「これから上がりやすい」と考えて買い、反対に一定期間の一番安い値段(安値)を下に抜けたら「これから下がりやすい」と考えて売る方法です。何日間の高値・安値を見るかによって、たくさんの種類のルールを作ることができます。
仮の例(考え方を説明するための仮の例です): ある銘柄が、過去25日間、一番高くても1,000円までしか値上がりしていなかったとします。今日、値段が1,000円を上に抜けたら、ブレイクの考え方では「もみ合いが終わって新しい流れが始まったのではないか」と考え、買いを検討します。反対に、過去25日間の一番安い値段を下に抜けたら、売りを検討します。
2️⃣ 研究でわかっていること
ダウ平均90年分を調べた研究(ブロック氏・ラコニショック氏・ルバロン氏の研究、1992年)
ブロック氏らの研究は、米国の代表的な30銘柄からなる株価指数「ダウ平均」の、1897年から1986年までの90年分の日々の値段データを使い、よく知られた2種類のテクニカルのルール——移動平均線の交差と、一定期間の高値・安値を抜けたら売買する「トレーディングレンジ・ブレイク」——を、期間の長さを変えながら26種類のルールとして確かめました。その結果、ブレイクの買いシグナルが出たあとの値動きは、売りシグナルが出たあとの値動きより、はっきり良く、その違いは「値段はでたらめに動く」という考え方(ランダムウォーク)や、いくつかの統計モデルでは説明がつかないほどはっきりしたものだった、と報告されています。
7,846種類のルールで確かめ直した研究(サリバン氏・ティマーマン氏・ホワイト氏の研究、1999年)
サリバン氏らの研究は、ブロック氏らの26種類のルールをさらに大きく広げ、値段の動きの割合を見るルール、移動平均、支持線と抵抗線、値幅の枠(チャネル)を抜けたら売買するルール、出来高を使うルールの5つのグループ、あわせて7,846種類のルールを作りました。そのうえで、「たくさんのルールを試すと、たまたま成績の良いルールが見つかりやすくなる」という問題(データスヌーピングと呼ぶ。日本語にすると「データのつまみ食い」に近い意味です)を、統計的な方法(ブートストラップと呼ぶ。実際のデータを何度も並べ替えて、偶然でどれくらいの差が出るかを確かめる方法)で調整したうえで、確かめ直しました。この調整をしたあとでも、ダウ平均の1897年から1986年までのデータでは、いちばん成績の良いルールに、偶然とは言いにくい効果が見られた、と報告されています。
3️⃣ 反論・限界
サリバン氏らの研究でいちばん成績が良かったルールを、もとのデータの期間(1986年まで)よりあとの10年間——ダウ平均の1987年から1996年までのデータ、それに同じ時期のS&P500(米国の代表的な株価指数の一つ)の先物のデータ——で試したところ、もとの期間で見られたような、はっきりした良い成績は見られなかった、と報告されています。
研究者たちはこの結果について、過去にはこのルールが良い成績を残していた可能性があるものの、その後、市場がより効率的になり(多くの参加者が同じ情報をすぐに織り込むようになり)、そうした機会が失われたのではないか、という見方を示しています(当サイトによる要約です)。つまり、90年分のデータの中でいちばん成績の良かったルールは、そのデータの範囲では偶然とは言いにくい成績だったものの、その後の10年では同じような成績にはならなかった、ということです。
4️⃣ 株・為替・コモディティでは?
紹介した2つの研究がどの市場を調べたものかを、表に整理します。
| 市場 | 研究はあるか | 内容 |
|---|---|---|
| 株価指数 | あり | 米国の代表的な株価指数「ダウ平均」で確かめられています。後の期間の確認には、S&P500の先物のデータも使われています。 |
| 個別の株式 | この研究からはわからない | 2つの研究は、いずれも複数の銘柄をまとめた株価指数が対象で、1つの会社の株式だけを対象にした確認ではありません。 |
| 為替(FX) | この研究からはわからない | 紹介した2つの研究は、いずれも株価指数のデータが対象で、為替のデータは使われていません。 |
| コモディティ(商品) | この研究からはわからない | 同じく、金や原油などの商品のデータは、この2つの研究では使われていません。 |
ここで紹介した2つの研究は、いずれも米国の株価指数を対象にしたものです。為替やコモディティで同じようにブレイクの方法を確かめた研究があるかどうかは、今回は確認できていません。株価指数で見つかった傾向が、そのまま為替やコモディティにも当てはまるとは限らない、と考えておくほうが安全です。
5️⃣ よくある誤解
誤解1:高値・安値を抜けたら、そのまま同じ向きに動き続けると思われがち
実際には、抜けたあとにすぐ値段が戻ってしまう「だまし」と呼ばれる場面もよくあります。紹介した研究は、買いシグナルのあとの値動きが売りシグナルのあとより「平均として」良かったことを示すもので、1回ごとのブレイクがいつも同じ向きに動き続けることを示すものではありません。
誤解2:昔の研究で確かめられているので、今も同じように効くと思われがち
サリバン氏らの研究では、90年分のデータでいちばん成績の良かったルールの良い成績は、そのあとの10年間では同じように見られませんでした。過去のデータで良い成績だったことと、これから先も同じように良い成績が続くこととは、別のことです。
誤解3:ブレイクは1つの決まったやり方だと思われがち
実際には、「何日間の高値・安値を見るか」によって、ブロック氏らの研究では26種類、サリバン氏らの研究ではさらに広げて7,846種類ものルールが作られています。「ブレイク」とひとことで言っても、どのくらいの期間を見るかで、たくさんの型があります。
6️⃣ まとめ
- 米国のダウ平均90年分のデータを調べた研究では、高値・安値を抜けたら売買するルールなど26種類のうち、買いシグナルのあとの値動きが、売りシグナルのあとより、はっきり良いという結果が報告されています。
- 同じ考え方を7,846種類のルールに広げ、偶然の効果を統計的に調整して確かめ直した研究でも、もとのデータの期間では、いちばん成績の良いルールに偶然とは言いにくい効果が見られました。
- ただし、そのいちばん成績の良いルールを、もとの期間より後の10年間で試すと、同じような良い成績は見られませんでした。市場がその後、効率的になったためではないか、と研究者たちは考えています。
- 紹介した2つの研究は、いずれも米国の株価指数が対象で、為替やコモディティ、個別の株式については、この研究からはわかりません。
次回は、遅れて出ることを受け入れる方法「移動平均線の交差」について、研究でわかっていることを見ていきます。
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📚 出典・参考文献
- Brock, Lakonishok & LeBaron (1992) "Simple Technical Trading Rules and the Stochastic Properties of Stock Returns", The Journal of Finance 47(5)(出版社ページの要旨・要約で確認)
- Sullivan, Timmermann & White (1999) "Data-Snooping, Technical Trading Rule Performance, and the Bootstrap", The Journal of Finance 54(5)(出版社ページの要旨・要約で確認)
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