MarketWatch AI
日本人投資家のためのマーケット情報サイト
📚 解説記事
⚠️ 本記事はエントリー(買う・売るタイミング)の決め方についての考え方や、公開されている研究の紹介を目的とした「情報提供」であり、特定の手法・銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

📰 経済指標の「予想とのずれ」で、為替はどう動く? 研究でわかっていること【エントリー方法の研究 #14】

公開:2026年10月8日 / 読了時間:約 9 分 / カテゴリ:🚪 エントリー方法の研究

シリーズ第13回(#13)では、会社の決算発表という「出来事」のあとの値動きを取り上げました。この記事で注目するのは、経済指標(雇用に関する指標など、国全体の状態を表す指標)が発表された、まさにその瞬間です。指標そのものの数字ではなく、「市場が事前に予想していた数字とどれだけずれたか(サプライズ)」が、為替をどう動かすのかを、1990年代の為替データで確かめた研究があります。この記事では、その研究が報告した反応の速さ、悪い結果のほうが大きく動くという非対称な傾向、そして発表の時刻が事前にはっきり決まっているかどうかによる違いまで、出典つきで整理します。

📌 この記事の結論(30秒まとめ)

1️⃣ どんな方法か

どんな方法? 経済指標が発表された瞬間、実際に発表された数字が市場の事前予想とどれだけずれたか(サプライズ)を見て、そのずれの向きに入る方法です。予想より良い数字が出れば、その国の通貨を買う方向に入り、予想より悪い数字が出れば売る方向に入る、という考え方です。

仮の例(考え方を説明するための仮の例です): 米国の雇用に関する指標の発表前、市場の予想が「増加20万人」だったとします。発表された実際の数字が「増加5万人」で、予想を大きく下回った(悪い結果)とすると、この方法では発表の直後に米ドルを売る方向に入ります。これは方法の形を示すための例であり、この売買が有利だという意味ではありません。

予想とのずれの大きさと、為替レートの反応の関係を示す概念図(悪い結果のほうが反応が大きい) 予想とのずれ(サプライズ)の大きさと、為替レートの反応(イメージ図) 予想より悪い結果 予想より良い結果 予想どおり 悪い結果:反応が大きい 良い結果:反応はおだやか アンデルセン氏らの研究(2003年)の非対称な反応をもとに当サイトが作図
図:研究では、予想より悪い結果が出たときのほうが、同じ大きさの予想より良い結果が出たときより、為替レートが大きく反応する傾向が報告されています。※概念を示すイメージ図です(実際の値動きではありません)。

2️⃣ 研究でわかっていること

為替レートは、発表の直後に一気に動く

アンデルセン氏・ボラスレフ氏・ディーボルド氏・ベガ氏の研究は、1992年1月から1998年12月までの為替の値動き(5分ごとの値段を集めたデータ)を使い、米ドルに対する独マルク・英ポンド・日本円・スイスフラン・ユーロの動きを調べました。週末や祝日、データの欠けなどを除くと1,724日分、5分ごとの値動きの数で49万件を超えるデータです。これに、調査会社が毎週金曜日に金融の専門家およそ40人へ聞いて集めた「市場の事前予想」の数字を組み合わせ、実際の発表の数字との差を「予想とのずれ(サプライズ)」として扱いました。その結果、米国とドイツを合わせた41種類の経済指標(うち米国の指標が28種類)のうち、主に米国の指標の多くで、このずれが発表の直後に為替レートの平均的な動きを一気に動かす(研究では「ジャンプ」と表現)ことが分かりました。ニュースが為替の動く方向と大きさを説明する力を持っていたのは、主に発表直後の5分間だけで、発表のある日が全体の58%を占めていたにもかかわらず、この5分間は全体のデータのうちおよそ0.2%にすぎませんでした。

具体的な大きさの例として、米国の雇用に関する指標で、ふだん起きる程度のずれ(統計でいう1標準偏差ぶん)が予想との間に生まれたとき、独マルクに対する米ドルの値段は平均で0.16%動きました。研究は、この動きの大きさを2つの基準と比べています。1つは、5分ごとの値動き全体のうち、0.10%を超える動きが起きるのは0.7%しかないという基準です。もう1つは、当時の独マルク対米ドルの売値買値の差(スプレッド:買うときと売るときの値段の差で、実質的な取引コストになります)が平均でおよそ0.06%だったという基準です。どちらと比べても、0.16%という動きは大きいと報告されています。

悪い結果のほうが大きく動く(非対称な反応)

研究はさらに、同じ大きさのずれでも、良い結果より悪い結果のほうが為替を大きく動かす、という非対称な反応(研究では「サインエフェクト」と呼んでいます)を報告しています。この傾向は、米国の雇用に関する指標・貿易収支・耐久財の受注・新規の失業保険申請といった、主要な指標のほとんどで見られました。ただし、通貨によって強さが違い、日本円・独マルク・スイスフランに対する反応では非対称がはっきりしていた一方、英ポンド・ユーロに対する反応では、この傾向はあまり見られなかったと報告されています。

発表の時刻が事前に分かっているかどうかで、反応が違う

この研究は、米国の指標と、同じデータに含まれていたドイツの指標を比べています。米国の指標は、発表される日も時刻も事前に正確に分かっています。一方、ドイツの指標は、発表される日は事前に分かっていても、時刻は決まっていませんでした。その結果、米国の指標の多くに、はっきりした反応が見られたのに対し、ドイツの指標で、はっきりした反応が見られたのは、マネーサプライ(M3:国全体に出回っているお金の量を示す指標)と鉱工業生産の2つだけでした。研究は、発表の時刻が事前にはっきりしないと、発表の前後の取引が薄くなり、反応がその場で一気に出るのではなく、数時間かけてじわじわ進む可能性があると述べています。

為替レートの「平均的な値段」は発表の直後に一気に動くのに対し、値動きの荒さ(ボラティリティ:値段がどれくらい大きく上下に動きやすいかを表す指標)が完全に落ち着くまでには、5分ごとの時間を12回ぶん、およそ1時間かかったと報告されています。

当サイトとの関係: 当サイトの指標アラート(発表が近いことを知らせるメール)は、発表の時刻が近づいていることを伝えるものであり、サプライズの向きや大きさを予測するものではありません。当サイトのシグナル(RSI(相対力指数:買われすぎ・売られすぎを0から100の数字で表す指標)・MACD(移動平均線を使って、流れの変わり目をとらえる指標)・移動平均・ボリンジャーバンド(値動きの広がりを統計的な幅で示す線)・高値安値のブレイク)も、経済指標の予想とのずれという情報はそもそも使っていません。この記事で紹介した研究の対象は1992〜1998年の為替5通貨のデータであり、当サイトの監視18銘柄・現在の期間とは異なります。

3️⃣ 反論・限界

サプライズが無くても、取引量は跳ねる

チャボー氏らの研究(2008年に発表、もとは2004年の調査)は、1999年1月から2004年1月までのユーロ対米ドル・日本円対米ドルの電子取引のデータを使い、発表された数字が市場の予想とぴたりと一致していた場合でも、取引量(売買の回数や量)は大きく跳ね上がり、その状態がしばらく続くことを報告しました。値段の動きは主に「予想とのずれ」がある場合に起きるのに対し、取引量の増加はずれが無くても起きる、という違いがあります。発表の前後は、サプライズの向きを当てられたとしても、取引のしやすさ(流動性)自体が変わりやすい時間帯だということを示す結果です。

動きの大きさは、取引コストと比べると大きくない場合もある

さきに紹介した0.16%という動きは、当時の売値買値の差(スプレッド)の平均0.06%より大きいと報告されていますが、その差はおよそ2.7倍程度です。実際の売買にかかる費用や、発表の直後はスプレッドが広がりやすいという一般的な傾向まで考えると、見かけの動きの大きさがそのままもうけにつながるとは限りません。この研究自体も、取引コストを引いた後の成績を計算したものではありません。

1990年代の為替市場のデータであること

この研究が使ったデータは1992年から1998年までのものであり、値段が電話や画面を通じて示されていた時期の為替市場が対象です。現在のように自動化された取引が主流の市場で、同じ大きさの反応が起きるかどうかは、この研究からはわかりません。

4️⃣ 株・FX・コモディティでは?

紹介した研究が、どの市場を対象にしているかを表に整理します。

市場研究はあるか内容
個別株・株価指数この記事からはわかりません紹介した2つの研究はいずれも為替(通貨)が対象で、個別の会社の株や株価指数を対象にした検証は行っていません。
為替(FX)あり(研究の中心)アンデルセン氏らの研究は米ドル対独マルク・英ポンド・日本円・スイスフラン・ユーロ、チャボー氏らの研究はユーロ対米ドル・日本円対米ドルが対象です。
コモディティ(金・原油など)この記事からはわかりません紹介した研究はコモディティを対象にしていません。

5️⃣ よくある誤解

誤解1:「指標が発表されたらすぐに利益が出る」と思われがち

研究が報告しているのは、発表から5分間ほどのあいだに集中する、ごく短い反応です。その後、平均的な値段としての動きはほとんど続かないと報告されています。じわじわ長く続くタイプの傾向ではありません。

誤解2:「サプライズが大きければ、どちらの方向でも同じだけ動く」と思われがち

研究は、同じ大きさのサプライズでも、悪い結果のほうが良い結果より大きく動くという非対称な傾向を報告しています。方向によって反応の大きさが違う、という点が見落とされがちです。

誤解3:「どの経済指標でも、同じように反応が出る」と思われがち

この記事で紹介した研究では、発表の時刻が事前にはっきり決まっている指標のほうが反応がはっきりしており、時刻が決まっていない指標では反応がはっきりしないか、数時間かけてじわじわ進む可能性があると報告されています。指標によって反応の出方が違う、ということです。

この記事は、公開されている学術研究を当サイトが要約したものです。研究の数字は、それぞれの研究が使った期間・市場・条件のもとでの結果であり、将来も同じになるとは限りません。特定の手法・銘柄の売買を勧めるものではありません。

6️⃣ まとめ

次回は、大口の投機筋などの持ち高のかたよりを見る入り方を見ていきます。

🔗 関連記事

📚 出典・参考文献

⚠️ 当サイトは金融商品取引業者ではなく、投資助言・代理業の登録もしていません。本記事はエントリー(買う・売るタイミング)の決め方についての考え方と、公開されている学術研究の紹介を情報提供として整理したものであり、特定銘柄・特定手法の売買推奨や投資助言ではありません。研究の内容は当サイトによる要約です。正確な内容は各原文をご確認ください。記載の数値・方法による利益を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。