🏦 FOMCの発表前は株が上がりやすい? 見つかった傾向はその後どうなった? 研究でわかっていること【エントリー方法の研究 #09】
シリーズ第8回(#08)で扱った「キャリートレード」は、金利の差という、ずっと変わらない条件に注目する方法でした。この記事で扱う「FOMC(米国の金融政策を決める会合)前の値動き」は反対に、1年に8回だけ訪れる、決まった日付・時刻をきっかけに入る方法です。FOMCという会合そのものの基礎知識は、別記事「FOMCとは?」で説明しているので、この記事では、「発表の前に株が上がりやすい」という傾向が研究でどこまで見つかり、その後どうなったのかに絞って整理します。
📌 この記事の結論(30秒まとめ)
- ルッカ氏とメンチ氏の研究(ニューヨーク連邦準備銀行の報告書、のちに2015年に学術誌へ掲載)は、1994年9月から2011年3月まで、FOMCの発表前24時間に米国株(S&P500)が上がりやすく、この間の上昇だけで、調べた期間の株式の超過リターン(プレミアム:ふつうの金利より多く受け取れる分)の80%以上を占めていたと報告しています。
- 同じ研究は、海外の主要な株価指数でも似た傾向が見られたこと、一方で米国の国債や為替のドルの値段、ほかの経済指標の発表の前には、同じ傾向が見られなかったことも報告しています。
- クロフ氏・ウォルフ氏・ギルバート氏の研究(2021年)が、同じ調べ方を2019年12月まで延ばすと、この傾向は2015年以降ほとんど見られなくなっていました。研究で見つかった傾向が、のちの期間には見られなくなることがある、という例の1つです(クロフ氏らは理由のひとつとして、金融政策の先行きへの不確かさが減ったことを挙げています)。
1️⃣ どんな方法か
FOMC(連邦公開市場委員会:米国の中央銀行にあたる組織が金融政策を決める会合)は、1年に8回、あらかじめ決まった日に開かれます。「FOMC前の値動き」に注目する方法は、会合の結果が発表される前の決まった時間帯に、あらかじめ買っておく、という入り方です。これまでの回で見た「値動きの向き」や「金利の差」とは違い、この方法が注目するのは、あらかじめわかっている「発表の日時」そのものです。
仮の例(考え方を説明するための仮の例です): FOMCの結果は、日本時間の深夜に発表されることが多くあります。「発表そのものの内容を知る前に、発表の24時間前までに買っておき、発表の直前に手放す」という入り方を考えてみます。これは、発表の内容(利上げか、利下げか、据え置きか)を予想して入るのではなく、「発表が近づくこと」自体をきっかけにする方法です。
2️⃣ 研究でわかっていること
発表前24時間に株が上がりやすい(ルッカ氏とメンチ氏、ニューヨーク連邦準備銀行の報告書・のちに2015年に学術誌へ掲載)
ルッカ氏とメンチ氏の研究は、1994年9月から2011年3月までの米国株(S&P500)を調べ、FOMCの発表がある日は、発表が無い日より平均で30倍以上大きいリターンが出ていたことに気づきました。さらに調べると、その大きなリターンの多くは、発表そのものの時間ではなく、発表前24時間にすでに生まれていたと報告しています。この24時間の上昇だけで、調べた17年間の米国株の超過リターン(プレミアム:ふつうの金利より多く受け取れる分)の80%以上を占めていた、という報告です。
研究はこの上昇を「プレFOMCドリフト(FOMC前の値動き)」と呼び、FOMCの決定が利上げ方向であっても利下げ方向であっても、発表前24時間に株が上がりやすい傾向そのものは変わらなかったと報告しています。つまり、発表の内容を当てる方法ではなく、発表が近づくこと自体に反応する値動きだった、ということです。研究はさらに、海外の主要な株価指数でも似た傾向が見られたことを報告しています。一方で、米国の国債や、ドルの為替の値段、ほかの経済指標の発表前には、同じような傾向は見られなかったとも報告されています。研究は、金利が変わるリスクなど、いくつかのリスクで説明できないかを調べましたが、どの説明も、この上昇の大きさをうまく説明できなかったと結論づけています。
3️⃣ 反論・限界
期間を延ばすと、傾向はほとんど消えていた(クロフ氏・ウォルフ氏・ギルバート氏、2021年)
クロフ氏・ウォルフ氏・ギルバート氏の研究は、ルッカ氏とメンチ氏が調べた期間を、2019年12月まで延ばして確かめ直しました。すると、FOMC発表前24時間の上昇は、議長の記者会見があるFOMCでも、無いFOMCでも、2015年以降はほとんど見られなくなっていた、と報告されています。研究はこの変化の理由として、金融政策の先行きに対する不確かさが、その時期に減ったことを、ひとつの説明として挙げています。
今回調べた範囲では、クロフ氏らの研究のほかに、ルッカ氏とメンチ氏の最初の報告そのものを統計的に否定する反論は見当たりませんでした。ただし、この「見つかった傾向が、あとで消えた」という結果自体が、もっとも重要な限界です。2011年までのデータで見つかった傾向を、2012年以降にそのまま使えるとは、この2本の研究からは言えません。
取引コスト・実際に売買できるかという注意
ルッカ氏とメンチ氏の研究が使ったのは、S&P500という指数そのものの値動きです。指数そのものを直接売買することはできないため、実際にこの入り方を試すには、指数に連動する商品(先物やETFなど)を使う必要があり、その分の取引コストやスプレッド(売値と買値の差)が、報告された上昇の大きさからさらに差し引かれます。また、FOMCの発表時刻は日本時間の深夜であることが多く、24時間という時間の取り方も、研究が使った取引時間と、個人が実際に売買できる時間帯が異なる可能性があります。
4️⃣ 株・FX・コモディティでは?
紹介した2つの研究が、どの市場を対象にしているかを表に整理します。
| 市場 | 研究はあるか | 内容 |
|---|---|---|
| 株価指数 | あり(研究の中心) | ルッカ氏とメンチ氏の研究は米国株(S&P500)が中心で、海外の主要な株価指数でも似た傾向が見られたと報告されています。クロフ氏らの研究は、同じ米国株で、2015年以降この傾向がほとんど見られなくなったことを確かめ直しました。 |
| 為替(FX) | あり(効果は見つからなかった) | ルッカ氏とメンチ氏の研究は、ドルの為替の値段についても同じ調べ方を試しましたが、株価指数のような上昇は見られなかったと報告しています。 |
| コモディティ(金・原油など) | この記事で確認した研究の範囲ではわからない | 金・原油などコモディティ(商品)についての言及は、今回確認した2つの研究の中では見当たりませんでした。コモディティでFOMC前に同じ傾向があるかは、この記事からはわかりません。 |
まとめると、「FOMC前の上昇」として報告されたのは、米国株とおもな海外の株価指数で、為替(ドル)では同じ調べ方をしても見られなかった、という結果です。コモディティについては、今回調べた2つの研究では確認できませんでした。
5️⃣ よくある誤解
誤解1:「FOMCの前は、いつも株が上がる」と思われがち
ルッカ氏とメンチ氏の研究が報告したのは、1994年から2011年までの「平均」の傾向です。平均でプラスだったとしても、個々のFOMCごとに毎回上がったわけではありません。さらに、クロフ氏らの研究によると、この平均の傾向自体が2015年以降はほとんど見られなくなっています。
誤解2:「上がるか下がるかは、発表の内容(利上げか利下げか)で決まる」と思われがち
ルッカ氏とメンチ氏の研究が報告した発表前24時間の上昇は、その後の決定が利上げ方向であっても利下げ方向であっても見られたとされています。つまり、発表の内容を事前に当てる話ではなく、発表が近づくこと自体に反応していた値動きだった、という報告です。
誤解3:「昔の研究で見つかった傾向は、今でも同じように使える」と思われがち
このシリーズでは、ほかの回でも研究で見つかった傾向が、あとの時期に弱まったり消えたりした例を取り上げています。FOMC前の値動きは、最初に大きく報告されたあと、クロフ氏らの研究がわずか数年で「ほとんど消えた」と確かめ直した、特にはっきりした例です。
6️⃣ まとめ
- ルッカ氏とメンチ氏の研究は、1994年9月から2011年3月まで、FOMC発表前24時間に米国株が平均で上がりやすく、この間の上昇が、調べた期間の株式の超過リターンの80%以上を占めていたと報告しています。
- 同じ研究は、海外の主要な株価指数でも似た傾向を報告していますが、米国の国債やドルの為替の値段では、同じ傾向は見られなかったとも報告しています。
- クロフ氏らの研究が期間を2019年12月まで延ばすと、この傾向は2015年以降ほとんど見られなくなっていました。金融政策の先行きへの不確かさが減ったことが、ひとつの説明として挙げられています。
- 「研究で見つかった傾向が、のちの期間には見られなくなることがある」という点を、具体的な数字で確かめられる例です。ただし、弱まった理由が「傾向が知られたこと」だと、この2本の研究が確かめたわけではありません。
次回は、月末・月初など、日付そのものをきっかけにする入り方の研究を見ていきます。
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📚 出典・参考文献
- Lucca & Moench, Federal Reserve Bank of New York Staff Reports No.512 "The Pre-FOMC Announcement Drift"(2011年9月・2013年8月改訂。のちに2015年にThe Journal of Financeへ掲載)(研究者の所属機関であるニューヨーク連邦準備銀行の公式ページで公開されている報告書。直接の取得は遮断されたため、検索結果に引用された要旨本文(「発表前24時間の超過リターンが、過去17年間の株式プレミアムの80%以上を占める」「海外の主要な株価指数でも同様の結果が見られたが、他の資産クラスや他の経済指標の発表では見られなかった」「リスクに基づく説明では、このリターンの異常を説明できなかった」「発表がある日のリターンは、無い日より30倍以上大きい」)で確認。0.49%(49ベーシスポイント)という数値と、利上げ方向・利下げ方向のどちらでも上昇が見られたという記述は、同じ論文を紹介する複数の独立した検索結果で、内容が一致して引用されていたことから採用)
- Kurov, Wolfe & Gilbert (2021) "The Disappearing Pre-FOMC Announcement Drift", Finance Research Letters 40(出版社ページは直接の取得が遮断されたため、検索結果に引用された要旨本文(「調べる期間を2019年12月まで延ばすと、プレFOMCドリフトは、記者会見の有無にかかわらず2015年以降ほとんど消えた」「ひとつの説明として、不確実性の低下を論じている」)で確認)
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