💥 強い銘柄を買う方法は、なぜ時々「大負け」するのか?【エントリー方法の研究 #06】
シリーズ第5回(#05)で扱った相対的な強さ(モメンタム)は、値上がりが目立つ銘柄を買い、値下がりが目立つ銘柄を売る方法でした。この方法は、長い期間の平均で見るとプラスの成績を報告する研究が多くあります。ところが、その平均の中には、ごくまれに大きく、しかも長く続く負けの期間が混ざっていることも、研究で報告されています。この記事では、ダニエル氏とモスコウィッツ氏の研究(2016年)をもとに、「モメンタムクラッシュ(モメンタムの急な反転)」と呼ばれるこの現象と、2009年に実際に起きた記録を、出典つきで整理します。
📌 この記事の結論(30秒まとめ)
- ダニエル氏とモスコウィッツ氏の研究(2016年)は、1927年から2013年までの米国のデータと、海外の株式市場・ほかの資産(通貨・コモディティ・債券などの先物)でも確かめ、モメンタムの方法に、まれだが大きく長く続く負けの期間があることを報告しました。
- 2009年3月から5月の3か月間、それまで値下がりしていた銘柄のグループは163%値上がりしたのに対し、それまで値上がりしていた銘柄のグループは8%しか値上がりしませんでした(研究者が過去のデータで組んだグループの成績です)。売っていた側が大きく上がったため、この方法は大きな損になりました。
- この負けは、株価が下がったあと値動きの荒さが大きいときに、その後の反発と重なって起きやすいと報告されています。状況に応じて調整する方法を使うと、もうけの大きさを表す数字(アルファ)とリスクに対するもうけの効率を表す数字(シャープレシオ)が、およそ2倍になったとも報告されています(研究が過去のデータで試した結果で、これから先も同じになるとは限りません)。
1️⃣ どんな方法か
モメンタムクラッシュ(モメンタムの急な反転)は、それ自体が新しい売買の方法ではありません。#05で扱った「相対的な強さ」の方法に、まれにひそんでいる大きな負けの場面のことです。多くの研究は、値上がりが目立つ銘柄を買い建て、値下がりが目立つ銘柄を売り建てるという、2つを組み合わせた形でこの方法の成績を測っています。買い建てた側と売り建てた側の差が、方法全体のもうけになります。
仮の例(考え方を説明するための仮の例です): 100銘柄のうち、値上がりが目立つ20銘柄を買い建て、値下がりが目立つ20銘柄を売り建てたとします。ふだんは、買い建てた銘柄のほうが値上がりを続けやすく、売り建てた銘柄のほうが値下がりを続けやすいため、この方法はもうけが出やすいとされます。ところが、株価全体が大きく下がったあとに急に反発する場面では、それまで大きく値下がりしていた銘柄(売り建てた側)のほうが、値上がりしていた銘柄(買い建てた側)よりも大きく戻ることがあります。売り建てた側が大きく値上がりすると、そこで損が出るため、方法全体としては大きな損になります。
2️⃣ 研究でわかっていること
「パニック状態」のあとの反発で起きる
ダニエル氏とモスコウィッツ氏の研究は、モメンタムの方法に、まれだが大きく長く続く負けの期間があり、この負けの期間はある程度、前もって見分けられる可能性があることを報告しました。その負けの期間は、株価が下がったあとで値動きの荒さ(ボラティリティ)が大きくなっている「パニック状態」で起き、そこからの株価の反発と同時に起きやすいとされています。
2009年3月〜5月の記録
具体的な例として、2009年3月から5月にかけての3か月間が紹介されています。この期間、それまで値下がりが目立っていた銘柄のグループは163%値上がりしたのに対し、それまで値上がりが目立っていた銘柄のグループは8%しか値上がりしませんでした。値下がりしていた銘柄のグループを売り建てていた分、この差がそのまま大きな損になります。
なぜ売られていた銘柄ほど大きく戻るのか
研究は、この現象を、売り建てられている銘柄が「オプション(あらかじめ決めた値段で売買できる権利)のような性質」を帯びやすいことと関連づけて説明しています。株価が大きく下がった銘柄は、値動きの荒さそのものが大きくなりやすく、反発が起きるときの値上がり幅も大きくなりやすい、という考え方です。この関係は、負けている銘柄のこうした性質に対して、条件つきで高い見返りが付いている状態と合っている、と説明されています。
期間・市場を広げても同じ傾向
研究は、この負けの期間の起こり方が、米国の1927年から2013年までの長い期間の中で複数回にわたって確かめられただけでなく、海外の株式市場や、通貨・コモディティ・債券などの先物を含むほかの資産でも、同じような傾向が見られたと報告しています。
状況に応じて調整する方法
研究はさらに、モメンタムの平均的な成績と値動きの荒さの見込みにもとづいて、買い建て・売り建ての大きさを状況に応じて調整する方法を試しました。この方法を使うと、もうけの大きさを表す数字(アルファ)と、リスクに対するもうけの効率を表す数字(シャープレシオ)が、調整しない方法のおよそ2倍になり、この違いはほかの知られた要因では説明できなかった、と報告されています。
3️⃣ 反論・限界
「まれ」であることの意味
研究のタイトルが示すとおり、この負けの期間は「まれ」であるとされています。モメンタムの方法の長期的な平均の成績自体をプラスと報告する研究は多くあります(#05参照)。大きな負けが常に起きているわけではありません。ただし、まれであることは、いつ起きるかを事前に正確に言い当てられることを意味しません。
状況に応じて調整する方法の注意点
状況に応じて買い建て・売り建ての大きさを調整する方法についても、注意が必要です。研究はこの方法を「実際に使える形の方法」として示していますが、今回確認できたのは要旨の範囲までで、調整の基準(いつ、どれだけ大きさを変えるか)をどのように決めたかの細かい条件までは確かめていません。また、過去のデータで確かめられた改善が、これから先の実際の売買でも同じだけ得られるとは限りません。
反対の結果の研究
今回調べた範囲では、モメンタムの方法に大きく長く続く負けの期間があること自体に反対する研究は見当たりませんでした。
4️⃣ 株・FX・コモディティでは?
紹介した研究が、どの市場を対象にしているかを表に整理します。
| 市場 | 研究はあるか | 内容 |
|---|---|---|
| 株価指数・個別株 | あり | 研究の中心は米国の個別株のデータ(1927年〜2013年)です。海外の株式市場でも、同じような負けの期間が見られたと報告されています。ただし、国ごとの詳しい数字は今回の要旨からは確認できませんでした。 |
| 為替(FX) | あり | 通貨の先物を含む、ほかの資産でも結果が確かめられた(頑健である)と報告されています。ただし、通貨だけを取り出した結果の大きさは、今回の要旨からは確認できませんでした。 |
| コモディティ(先物) | あり | コモディティ(商品)の先物を含む資産でも、同じように結果が確かめられたと報告されています。個別の商品ごとの数字は、今回は確認できませんでした。 |
まとめると、モメンタムの大きな負けの期間という現象そのものは、株・為替・コモディティを含む複数の市場・資産で共通して見られたと報告されています。ただし、負けの大きさや起きやすさが市場ごとにどれだけ違うのかという詳しい数字は、今回確認できた要旨の範囲では分かりませんでした。
5️⃣ よくある誤解
誤解1:株価が下がっている最中が一番危ないと思われがち
研究が示しているのは、株価が下がっている最中そのものではなく、下がったあとの反発の局面で大きな損が出やすいという点です。下落そのものよりも、そこからの戻りのタイミングと大きさに注意が必要です。
誤解2:モメンタムはいつも危ない方法だと思われがち
この研究が対象にしているのは、長い期間の中でもまれにしか起きない、大きく長く続く負けの期間です。モメンタムの方法の長期的な平均の成績自体をプラスと報告する研究は多くあります(#05参照)。「いつも危ない」ことと「まれに大きく負ける」ことは、分けて考える必要があります。
誤解3:状況に応じて調整すれば、この負けを完全に避けられると思われがち
調整する方法はもうけの効率を高めたと報告されていますが、それは過去のデータで試した結果です。大きな負けがなくなると報告されているわけではなく、これから先の実際の売買で同じ効果が得られるとも言い切れません。
6️⃣ まとめ
- モメンタムクラッシュ(モメンタムの急な反転)とは、値上がりが目立つ銘柄を買い、値下がりが目立つ銘柄を売る方法に、まれに起きる、大きく長く続く負けの期間のことです。
- ダニエル氏とモスコウィッツ氏の研究(2016年)は、この負けの期間が、株価が下がったあとの値動きの荒さが大きい「パニック状態」からの反発と重なって起きやすいと報告しました。
- 2009年3月〜5月には、それまで値下がりしていた銘柄のグループが163%、値上がりしていた銘柄のグループが8%値上がりし、売り建てていた側の急な値上がりで大きな損になりました。
- この負けの期間は、米国の長い期間のデータだけでなく、海外の株式市場やほかの資産でも共通して見られたと報告されていますが、まれにしか起きないため、いつ起きるかを正確に言い当てるのは簡単ではありません。
次回は、モメンタムとは反対に、直前に大きく動いたものが逆向きに戻りやすいという「短期の逆張り」の研究を見ていきます。
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📚 出典・参考文献
- Daniel & Moskowitz, NBER Working Paper No.20439 "Momentum Crashes"(研究者の所属機関の公式ページの要旨で確認。「パニック状態」の説明・アルファとシャープレシオがおよそ2倍という結果・海外の株式市場やほかの資産でも確かめられたという記述は、この要旨に基づきます)
- Daniel & Moskowitz (2016) "Momentum crashes", Journal of Financial Economics 122(2), 221-247(出版された論文。2009年3月〜5月の163%・8%という数字は、この論文本文からの引用で確認)
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