📊 良い決算のあと、株価はじわじわ上がり続ける? 研究でわかっていること【エントリー方法の研究 #13】
シリーズ第12回(#12)では「夜のあいだ」と「取引時間の中」という1日の中の時間帯に注目しました。この記事で注目するのは、決算発表という「出来事」のあとの値動きです。会社の決算が市場の予想を上回った(下回った)あと、株価はその場でいっぺんに反応するのではなく、その後も何週間も同じ方向にじわじわ動き続ける、という研究があります。これは「決算発表後のドリフト」と呼ばれ、研究の世界で60年近く議論が続いているテーマです。この記事では、最初にこの現象を見つけた研究と、米国の個別株の長い期間で確かめた研究の数字、そして近年は小さくなっている・消えているという報告まで、出典つきで整理します。
📌 この記事の結論(30秒まとめ)
- ボール氏とブラウン氏の研究(1968年)は、米国の個別株で、決算(年次の利益)の内容のうち、発表前にすでに市場に伝わっていた部分が「85〜90パーセントほど」であったと報告しました。残りの部分に対する株価の反応は、発表の月だけでは終わらず、その後も同じ方向へ動き続けていました。
- バーナード氏とトーマス氏の研究(1989年)は、1974〜1985年の米国個別株(48四半期)で、予想を大きく上回った決算のグループと大きく下回った決算のグループの差が、発表後60営業日のあいだにおよそ4%に広がったと報告しました(手数料などを引く前の数字)。この差は48四半期のうち41四半期でプラスの向きでした。
- ただし、この傾向は取引コストを考えるとかなり縮むこと、出来高の少ない小型株に偏っていること、さらに近年は大型株ではほとんど見られなくなっていることも、別の研究で報告されています。
1️⃣ どんな方法か
この方法は「決算の発表直後に、予想とのずれ(サプライズ)の向きに入り、しばらく持ち続ける」という考え方です。発表の瞬間にすべての反応が終わるのではなく、その後の数週間から数か月のあいだに、反応の続きが起きると考えられているためです。
仮の例(考え方を説明するための仮の例です): ある会社が決算を発表し、1株あたりの利益が市場の予想をはっきり上回ったとします。この方法では、発表の翌日に買い、その後1〜3か月ほど持ち続けることを考えます。逆に、予想をはっきり下回った決算のあとは、売り(空売り)で同じように持ち続けます。これは方法の形を示すための例であり、この売買が有利だという意味ではありません。
2️⃣ 研究でわかっていること
最初の報告:決算の情報は発表前からかなり伝わっている(ボール氏とブラウン氏、1968年)
ボール氏とブラウン氏の研究は、米国の個別株(ニューヨーク証券取引所に上場する261社の、1957年から1965年ごろの年次決算)を対象に、決算の発表が株価にどれだけの新しい情報をもたらすかを調べました。その結果、年次の決算が伝える情報のうち、発表前にすでに市場へ伝わっていた部分は「85パーセントから90パーセントほど」であったと報告しています(決算より早く伝わる、四半期ごとの報告などを通じて伝わった分と考えられています)。残りの10〜15パーセントほどの新しい情報に対する株価の反応は、発表の月だけで終わらず、その後も同じ方向へ動き続けていました。この「発表のあとも反応が続く」という部分が、のちに「決算発表後のドリフト」と呼ばれる現象の最初の報告になりました。
米国の個別株48四半期で確かめられたドリフト(バーナード氏とトーマス氏、1989年)
バーナード氏とトーマス氏の研究は、米国の個別株(1974年から1985年の48四半期)を対象に、決算が予想をどれだけ上回ったか・下回ったかを示す数値(実際の利益と予想の差を、ばらつきの大きさで調整しなおした指標)で全体を10グループに分け、いちばん上回ったグループといちばん下回ったグループの株価の差を、発表後60営業日にわたって追いました。その結果、この差はおよそ4%に広がり(手数料などを引く前の数字)、48四半期のうち41四半期でプラスの向き、さらに株価指数全体が下がった16四半期のうち11四半期でもプラスの向きだったと報告しています。論文の題名が示すとおり、この研究は「この動きが、情報への反応の遅れなのか、リスクに見合った上乗せ(リスクプレミアム)なのか」を問い、反応の遅れのほうを支持する結果だったと結論しています。
3️⃣ 反論・限界
出来高の少ない小型株に偏り、取引コストで大きく縮む
チョルディア氏らの研究(2009年)は、決算発表後のドリフトをねらう売買が、出来高の少ない小型株に集中して大きく、出来高の多い大型株ではほとんど無いことを示しました。具体的には、良い決算のグループを買い悪い決算のグループを売る方法の1か月あたりの成績は、出来高の多い銘柄で0.04%、出来高の少ない銘柄で2.43%という差でした。さらに、実際の取引コストを当てはめると、このような売買の見かけ上のもうけの70〜100パーセントが取引コストで消えると報告しています。
近年は大型株ではほぼ消えている
マルティノー氏の研究(2021年)は、大型株については2006年以降、決算発表後のドリフトがほとんど無くなっていると報告しました。出来高の少ない小型株では、それよりは最近になってから無くなった、としています。株価が決算発表の当日にすぐ反応するようになった(市場がより効率的になった)ことが理由として挙げられています。
ドリフトの一部は、次の決算発表の数日間に集中する
バーナード氏とトーマス氏の別の研究(1990年)は、ドリフト全体のうちおよそ25〜30パーセントが、次の四半期の決算発表の前後3日間という、全体の取引日数のわずか5パーセントほどの期間に集中していたことを報告しました。ドリフトが毎日同じ大きさでなめらかに続くのではなく、次の決算という別の出来事に結びついた偏りを持っていることを示す結果です。
4️⃣ 株・FX・コモディティでは?
紹介した研究が、どの市場を対象にしているかを表に整理します。
| 市場 | 研究はあるか | 内容 |
|---|---|---|
| 個別株 | あり(研究の中心) | ボール氏とブラウン氏(1968年)、バーナード氏とトーマス氏(1989年)はいずれも米国の個別株(ニューヨーク証券取引所上場)が対象です。会社自身が発表する決算と、その会社の株価の関係を調べています。 |
| 株価指数 | この記事からはわかりません | 株価指数全体には、単一の会社のような「決算発表」という1つの出来事がありません(指数を構成する多数の会社がそれぞれの時期に決算を発表します)。この記事で確認した研究は、指数全体を対象にした同じ形の検証を行っていません。 |
| 為替(FX) | この記事からはわかりません | 通貨そのものには会社の決算という仕組みがありません。この記事で紹介した研究は為替を対象にしていません。 |
| コモディティ(金・原油など) | この記事からはわかりません | 金や原油などにも会社の決算という仕組みはありません。この記事で紹介した研究はコモディティを対象にしていません。 |
5️⃣ よくある誤解
誤解1:「決算が良ければ、発表直後に買えばすぐにもうかる」と思われがち
研究が報告しているのは、発表の瞬間に起きる値動きではなく、その後60営業日ほどかけてじわじわ積み重なる差です。即座に大きな利益が出るという話ではありません。
誤解2:「このドリフトはどの銘柄でも同じ大きさで起きる」と思われがち
チョルディア氏らの研究が示したとおり、この傾向は出来高の少ない小型株に偏っており、出来高の多い大型株ではもともと小さいと報告されています。さらに取引コストを考えると、小型株での見かけ上のもうけの大部分が消えてしまいます。
誤解3:「この傾向は今も1980年代と同じ大きさで残っている」と思われがち
マルティノー氏の研究(米国株が対象)によると、大型株では2006年以降ほとんど見られなくなっていると報告されています。見つかった時点の傾向が、その後も同じ大きさで続くとは限りません。
6️⃣ まとめ
- ボール氏とブラウン氏の研究(1968年)は、米国の個別株で、決算の情報の85〜90パーセントほどが発表前に市場へ伝わっており、残りへの株価の反応が発表後も続くことを最初に報告しました。
- バーナード氏とトーマス氏の研究(1989年)は、1974〜1985年の米国個別株で、決算が予想を大きく上回ったグループと大きく下回ったグループの差が、発表後60営業日でおよそ4%に広がったことを報告しました。
- この傾向は出来高の少ない小型株に偏り、取引コストを考えると大きく縮み、近年は大型株ではほとんど見られなくなっていると、別の研究で報告されています(いずれも米国株が対象)。
- 紹介した研究はいずれも米国の個別株が対象で、株価指数・為替・コモディティのような、会社の決算という仕組みを持たない市場に同じ傾向があるかどうかは、これらの研究からはわかりません。日本株でも同じかどうかも、この記事では確かめていません。
次回は、経済指標の発表が「予想とどれだけずれたか」に注目する入り方を見ていきます。
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📚 出典・参考文献
- Ball & Brown (1968) "An Empirical Evaluation of Accounting Income Numbers", Journal of Accounting Research 6(2)(出版社ページは直接の取得が遮断されたため、検索結果に引用された論文本文の「決算が伝える情報の85〜90パーセントほどは、もっと早く伝わる手段(四半期の報告など)で、すでに市場に伝わっていた」という記述で数字を確認)
- Bernard & Thomas (1989) "Post-Earnings-Announcement Drift: Delayed Price Response or Risk Premium?", Journal of Accounting Research 27(出版社ページ・リポジトリページとも直接の取得が遮断されたため、検索結果に引用された論文の記述・要旨で数字を確認)
- Chordia, Goyal, Sadka, Sadka & Shivakumar (2009) "Liquidity and the Post-Earnings-Announcement Drift", Financial Analysts Journal 65(4)(出版社ページは直接の取得が遮断されたため、検索結果に引用された要旨の記述で数字を確認)
- Martineau (2021) "Rest in Peace Post-Earnings Announcement Drift", Critical Finance Review(出版社ページ・著者ページとも直接の取得が遮断されたため、検索結果に引用された要旨の記述で確認)
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