📐 RSIやMACDなどの指標でシグナルを出す方法は、研究で効くとわかっている?【エントリー方法の研究 #04】
RSI(相対力指数:買われすぎ・売られすぎを0から100の数字で表す指標)が30を下回ったら買い、MACD(移動平均・収束・拡散:2本の移動平均線の差から流れの変わり目をつかもうとする指標)がゴールデンクロスになったら買い——こうした「指標の条件を満たしたら売買する」という決め方は、テクニカル指標を使ったエントリーの中でも、もっともよく知られた方法です。当サイトのシグナルの多くも、この考え方にもとづいています(ただし、この記事で紹介する研究が調べた期間・市場と、当サイトのシグナルの期間・市場は違います。くわしくは3章の囲みで説明します)。この記事では、指標を使ったシグナルという決め方そのものが、これまでの学術研究でどこまで確かめられているのかを、テクニカル分析の研究をまとめて見直した2本のレビュー論文から整理します。
📌 この記事の結論(30秒まとめ)
- テクニカル分析の研究をまとめて見直したパーク氏・アーウィン氏のレビュー(2007年)によると、比較的新しい時期の95件の研究のうち、56件が肯定的な結果、20件が否定的な結果、19件が入りまじった結果を報告しており、少なくとも1990年代の初めまでは、さまざまな投機的な市場で利益が出ていたとされています。
- 同じレビューは、古い時期の研究について、為替市場と先物市場では利益が見られたが、株式市場では見られなかった、とも報告しています。
- ただし、同じレビューは、多くの研究が「たくさんのルールを試すと偶然良いものが見つかる」という問題や、取引コスト・リスクの見積もりの難しさをかかえていることも指摘しており、肯定的な結果の数字は、そのまま鵜呑みにできるものではありません。
1️⃣ どんな方法か
RSIやMACD、ストキャスティクス(値段の位置から買われすぎ・売られすぎを見る指標)のような「指標」は、値段そのものではなく、値段から計算した数字の動きを見て、あらかじめ決めた条件にあてはまったら売買する、という決め方をつくりやすくします。たとえばRSIなら「30を下回ったら売られすぎと考えて買う」、MACDなら「短い移動平均と長い移動平均の差を表す線が、その平均の線を下から上に抜けたら買う」といった条件です。
仮の例(考え方を説明するための仮の例です): ある銘柄が値下がりを続け、RSIが30を下回ったとします。指標のシグナルにもとづく決め方では、この時点で「売られすぎで、そろそろ反発が近いのではないか」と考え、その後RSIが30を上に抜け返したところで買いを検討します。
2️⃣ 研究でわかっていること
テクニカル分析の研究をまとめて見直したレビュー(パーク氏・アーウィン氏の研究、2007年)
パーク氏とアーウィン氏の研究は、それまでに発表されたテクニカル分析の実証研究を、古い時期の研究と、比較的新しい時期の研究の2つに分けてまとめ直しました。古い時期の研究では、テクニカル分析にもとづく売買のルールが、為替市場と先物市場では利益を出していたが、株式市場では利益を出していなかった、と報告されています。比較的新しい時期の研究では、さまざまな投機的な市場で、テクニカル分析にもとづく売買のルールが、少なくとも1990年代の初めまでは、一貫して利益を出していた、とまとめられています。比較的新しい時期の研究95件のうち、56件が肯定的な結果を、20件が否定的な結果を、19件が良い結果と悪い結果が入りまじった結果を、それぞれ報告していました。
為替の実務家によるテクニカル分析の利用をまとめたレビュー(メンクホフ氏・テイラー氏の研究、2007年)
メンクホフ氏とテイラー氏の研究は、為替市場の実務家のあいだでテクニカル分析が広く使われており、利益につながる可能性があることを報告しています。そのうえで、なぜテクニカル分析が使われ続けるのかについて、①市場が完全には合理的でない可能性、②各国の中央銀行などによる為替介入の影響を利用している可能性、③効率のよい情報処理の方法になっている可能性、④値段の動きに、景気や金利などの基礎的な条件(ファンダメンタルズ)では説明できない要因についての情報が含まれている可能性、という4つの説明を検討しました。そのうえで、④の説明が「もっとも妥当」だとしています。いずれの説明にも一定の裏づけがあるとしつつ、この研究は「効くメカニズムが完全に解明された」とまでは述べていません。
3️⃣ 反論・限界
パーク氏とアーウィン氏の同じレビューは、肯定的な結果を報告した研究が多いことを示す一方で、それらの研究の多くが、検証のやり方に問題をかかえていることも指摘しています。具体的には、たくさんのルールを試すとたまたま成績の良いルールが見つかりやすくなる問題(データスヌーピングと呼ぶ。日本語にすると「データのつまみ食い」に近い意味です)、良かったルールをあとから選ぶ問題、値動きの荒さやリスクの見積もり方、取引コストの計算の難しさなどです。研究者たちは、これらの問題があるために、それまでの研究の検証のやり方は全体として不十分であり、より厳密な方法での確認が今後も必要だと述べています。
また、95件の研究が利益を報告しているのは「少なくとも1990年代の初めまで」の期間についてであり、それより後の期間について同じ結果が続いたかどうかは、このレビューでは述べられていません。メンクホフ氏とテイラー氏の研究も、「テクニカル分析は広く使われており、利益につながる可能性がある」という書き方をしており、いつでも・どの市場でも確実に利益につながる、とは述べていません。
4️⃣ 株・為替・コモディティでは?
紹介した2つのレビューが、どの市場を対象にしているかを表に整理します。
| 市場 | 研究はあるか | 内容 |
|---|---|---|
| 株価指数・個別株 | あり(否定的) | パーク氏・アーウィン氏のレビューによると、古い時期の研究では、株式市場でテクニカル分析にもとづく売買のルールが利益を出していなかったと報告されています。比較的新しい時期の研究は複数の市場をまとめた結果であるため、株式市場だけを取り出した割合は、今回は確認できませんでした。 |
| 為替(FX) | あり | パーク氏・アーウィン氏のレビューによると、古い時期の研究で、為替市場ではテクニカル分析にもとづく売買のルールに利益が見られたと報告されています。メンクホフ氏・テイラー氏のレビューも、為替市場の実務家のあいだでテクニカル分析が広く使われていることを報告しており、為替市場だけを対象にしたレビューがあることからも、為替市場でのテクニカル分析の使われ方が研究者の関心を集めてきたことがうかがえます。ただし、市場ごとの研究の件数は、今回の要旨からは確認できませんでした。 |
| コモディティ(先物) | あり | パーク氏・アーウィン氏のレビューによると、古い時期の研究で、先物市場でもテクニカル分析にもとづく売買のルールに利益が見られたと報告されています。ただし、金・原油といった個別の商品ごとの結果までは、今回は確認できませんでした。 |
パーク氏・アーウィン氏のレビューによると、古い時期の研究では、株式市場よりも、為替市場や先物市場のほうで利益が報告されていた、とまとめられています。ただし、これは「古い時期の研究」を市場ごとに分けた場合の傾向であり、比較的新しい時期の研究がどの市場をどれだけの割合で調べたものかは、今回のレビューの要旨からは読み取れませんでした。
5️⃣ よくある誤解
誤解1:「56件が肯定的な結果」だから、指標のシグナルはしっかり確かめられていると思われがち
実際には、この56件をふくむ研究の多くが、たくさんのルールを試すと偶然良いものが見つかりやすくなる問題や、取引コスト・リスクの見積もりの難しさをかかえている、とパーク氏・アーウィン氏自身が指摘しています。肯定的な結果の「数」だけで、方法の確かさを判断するのは危うい、ということです。
誤解2:昔の研究で利益が出ていたのだから、今も同じように利益が出ると思われがち
パーク氏・アーウィン氏のレビューが利益を報告しているのは、少なくとも1990年代の初めまでの研究です。それより後の期間について、同じ結果が続いたかどうかは、このレビューだけからはわかりません。
誤解3:為替の実務家が広く使っているのだから、効果のしくみは解明されていると思われがち
メンクホフ氏・テイラー氏の研究は、テクニカル分析が広く使われていることと、それが利益につながる可能性があることを報告していますが、なぜ効くのかについては4つの説明を比べたうえで「もっとも妥当」な説明を1つ選んでいるにすぎません。広く使われていることと、効くしくみが解明されていることは、別の話です。
6️⃣ まとめ
- テクニカル分析の研究をまとめたレビューでは、比較的新しい時期の95件の研究のうち56件が肯定的な結果を報告しており、少なくとも1990年代の初めまでは、さまざまな投機的な市場で利益が出ていたとされています。
- 古い時期の研究では、為替市場・先物市場で利益が見られた一方、株式市場では見られなかった、と報告されています。
- ただし、多くの研究がデータスヌーピングや取引コストの見積もりの難しさをかかえていることも、同じレビューで指摘されています。
- 為替の実務家のあいだでテクニカル分析が広く使われていることも報告されていますが、広く使われていることと、効くしくみが解明されていることは別の話です。
- 古い時期の研究では、株式市場よりも為替市場・先物市場のほうで利益が報告されていました。市場ごとの研究の件数は、今回の要旨からは確認できませんでした。
次回は、その銘柄自身の過去の値動きと比べるトレンドフォローとはちがい、ほかの銘柄と比べて強いものを買う「相対的な強さ」という決め方について、研究でわかっていることを見ていきます。
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📚 出典・参考文献
- Park & Irwin (2007) "What Do We Know About the Profitability of Technical Analysis?", Journal of Economic Surveys 21(4)(出版社ページの要旨で確認)
- Menkhoff & Taylor (2007) "The Obstinate Passion of Foreign Exchange Professionals: Technical Analysis", Journal of Economic Literature 45(4)(出版社ページの要旨で確認)
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