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🏛️ 巨匠の教えをデータで検証 #2
「順張りの教科書」は日本株で通用するか——3人の巨匠・8仮説で検証

カテゴリ:🏛️ 巨匠の教えをデータで検証  |  公開:2026年7月4日  |  読了:約13分

第1回のグレアム検証では、「安全域」の防御力が2020年代の日本株でも観察されるという結果になりました。第2回のテーマは、グレアムとは正反対の系譜——「上がっている株を買う」順張り(トレンドフォロー/モメンタム)の教科書です。

取り上げるのは3人。短期売買の伝説ラリー・ウィリアムズ、成長株投資の体系「CAN-SLIM」を作ったウィリアム・オニール、その系譜を現代化したマーク・ミネルヴィニ。彼らの教えを機械的に判定できる8つの仮説に翻訳し、日本株の約5年・のべ506万行のデータ(上場廃止銘柄も含む、生存バイアスのないデータ)で採点しました。勝っても負けてもそのまま公開する、いつもの流儀です。

⏱️ 30秒でわかる今回のまとめ

① 事前に決めた合格基準(前半・後半の両期間で一貫してプラス)を満たした仮説は、8本中0本
② ラリー・ウィリアムズ系の4仮説(ブレイクアウト・ギャップ逆張り・曜日・月替わり)は両期間ともマイナスという結果
③ オニール/ミネルヴィニ系の4仮説は前半(〜2024年)は効果が確認できず、後半(2025年以降)だけ4本全部がプラス——「いまの上げ相場でだけ効いて見える」レジーム(相場の地合い)依存の型
④ 第1回グレアムの「守り」が両期間で一貫したのと対照的に、「攻め(順張り)」は地合い次第という姿がデータに現れた

① 3人の巨匠——「順張り」の系譜

ラリー・ウィリアムズは、1987年の全米先物取引選手権(ロビンス・ワールドカップ)で1年間に口座を約114倍にした記録で知られる短期トレーダーです。前日の値幅を使ったボラティリティ・ブレイクアウト(勢いが出た方向に飛び乗る)や、寄り付きのギャップを逆手に取る「ウップス(OOPS)」、曜日や月替わりのカレンダー効果など、機械的に検証しやすいルールを多数公開してきました。

ウィリアム・オニール(1933-2023)は投資新聞 Investor's Business Daily の創業者で、成長株投資の体系「CAN-SLIM」の考案者。「安く買って高く売るな、高く買ってもっと高く売れ」——つまり新高値を付けた主導株を買うという、多くの人の直感に反する教えで有名です。銘柄の相対的な強さを測るレラティブストレングス(RS)という考え方を広めたのも彼の功績です。

マーク・ミネルヴィニは1997年の全米投資選手権を年率155%で優勝したトレーダーで、オニールの系譜を現代化した人物。上昇トレンドの条件を機械的に定義した「トレンドテンプレート」と、ブレイク前に値動きが静かに収縮していく「VCP(ボラティリティ収縮パターン)」で知られます。

💡 用語ミニ解説
レラティブストレングス(RS)=市場全体の中で「その銘柄がどれだけ強いか」の相対順位。ここでは過去126営業日(約半年)のリターンが全銘柄の上位何%かで測ります。
VCP=ブレイクアウトの前に、値動きの振れ幅(ボラティリティ)がだんだん小さくなっていく形。ミネルヴィニは「静かになってからの上放れ」を狙います。

3人に共通するのは「強いものに乗る」という思想です。グレアムの「安く買う」とは正反対のこの教えは、日本株のデータで再現されるのでしょうか。

② 検証設計——8仮説への翻訳と、事前登録という約束

本や講演の言葉のままでは検証できないため、教えを機械的に判定できる8つの仮説に翻訳しました。ウィリアムズ系4本は2026年7月2日、オニール/ミネルヴィニ系4本は7月4日に、検証を走らせる前にルールと合格基準を確定(事前登録)しています。結果を見てからルールをいじる「後出し」を封じるためです。

ウィリアムズ系(検証済み・流動性上位400銘柄×約5年)

オニール/ミネルヴィニ系(今回検証・全上場銘柄×約5年=のべ506万行)

共通ルール(タイムマシン原則)

💡 「p値」と「日付クラスタ」——今回の統計の読み方
表に出てくるp値は「実力ゼロだったとしても、偶然でこれくらいの差が出てしまう確率」です。小さいほど偶然では説明しにくい(本記事では5%未満を目安にしています)。また株式市場では同じ日の銘柄は束になって動くため、観測件数をそのまま信じると確からしさを過大評価します。本検証は「日付」を単位にばらつきを測る方法(日付クラスタ・ブートストラップ)で、この水増しを補正しています。

③ 結果①:ウィリアムズ系4仮説は両期間マイナス

まずウィリアムズ系。結果は明快でした——4仮説すべて、前半・後半の両期間で市場平均を下回りました

仮説対照比(前半)対照比(後半)判定
LW1 ボラティリティ・ブレイクアウト-0.081%-0.080%❌ 両期間マイナス
LW2 ウップス(ギャップ逆張り)-0.047%-0.134%❌ 両期間マイナス
LW3 曜日効果火曜のみ両期間プラスだが効果は微小❌ 事前特定でなく不採用
LW4 月替わり効果-0.092%-0.171%❌ 両期間マイナス

(数値=1トレードあたりの対市場平均差。検証日2026年7月2日、対象=流動性上位400銘柄×約5年。LW1/LW2の日中の仕掛けは日足データで近似しており、実際の成績はこれより悪くなる方向です)

特筆すべきはLW1です。ブレイクアウトの仕掛けを成績が良く見える方向に甘めに近似したにもかかわらず、前半-0.081%・後半-0.080%と、気味が悪いほど一貫したマイナスでした。1980〜90年代の米国先物市場で磨かれた「勢いに飛び乗る」手法は、少なくともこの5年の日本株の日足では、逆風が一貫して吹いているという結果です。LW4の月替わり効果も、学術研究で有名な定説とは逆に両期間マイナスでした。

「飛びつき買い」への逆風は、当サイトの他の検証とも一致
当サイトのAIシグナル研究日誌でも、FX・CFDの20年データで「高値ブレイクへの飛びつき買い」系シグナルの不振が繰り返し観察されています。市場も年代も違うデータで同じ向きの結果が出ていることは、偶然ではない可能性を高めます。

④ 結果②:オニール/ミネルヴィニ系は「後半だけ全勝」

次にオニール/ミネルヴィニ系。こちらはウィリアムズ系と違い、奇妙なほど揃ったパターンが現れました。

仮説前半:対照比(p値)後半:対照比(p値)判定
ON1 新高値×出来高 +0.31% (p=0.34) +1.59% (p=0.002) ❌ 前半で確認できず
ON2 RS上位20% +0.65% (p=0.25) +3.28% (p=0.001) ❌ 前半で確認できず
MV1 トレンドテンプレート +1.23% (p=0.12) +3.09% (p=0.003) ❌ 前半で確認できず
MV2 VCPブレイク +0.30% (p=0.50) +2.01% (p=0.003) ❌ 前半で確認できず

(数値=買い後60営業日リターンの対市場差。前半=2022年7月〜2024年12月、後半=2025年1月以降。観測数は各仮説2,069〜14,411件。検証日2026年7月4日)

+1% +2% +3% 0 前半(〜2024年)=統計的に確認できず 後半(2025年〜)=4本ともプラス 後半だけ、きれいに効いている +0.31 +1.59 ON1 新高値 ×出来高 +0.65 +3.28 ON2 RS上位 20% +1.23 +3.09 MV1 トレンド テンプレート +0.30 +2.01 MV2 VCP ブレイク

図1:オニール/ミネルヴィニ系4仮説の「買い後60営業日の対市場差」(%ポイント)。灰=前半(2022年7月〜2024年12月・いずれもp値が大きく偶然と区別できない)、緑=後半(2025年1月以降・4本ともp≦0.003)。概念図であり実際の価格チャートではありません。

4本が同時に「片翼だけ」になる意味

もし1本だけこのパターンなら、その仮説の個性かもしれません。しかし設計の違う4本(イベント型2本・状態型2本)が、そろって「前半×・後半◎」になりました。これが示唆するのは、個々のルールの優劣ではなく、土台の地合い(レジーム)が変わったということです。

2025年以降の日本株は、日経平均が史上高値圏を更新していく強いトレンド相場でした。上げトレンドの中では「強い株を買う」戦略は定義上勝ちやすくなります。問題は、いま見えているプラスが「順張りの実力」なのか「上げ相場の追い風」なのか、このデータからは区別できないことです。前半(2022年の下落局面や2023〜24年のもみ合いを含む期間)で効果が確認できなかった以上、区別がつくまでは「実力」と断定できない——これが事前登録した基準で8本全部を❌にした理由です。

おまけの発見:トレンドテンプレートは後半、暴落回避にも寄与
MV1(トレンドテンプレート)を満たす銘柄群は、後半の期間中に「60営業日以内に-20%以上下落した割合」が16.8%と、市場全体(19.1%)より低い結果でした。「秩序だった上昇トレンドにある銘柄は事故りにくい」という緩やかな防御効果の示唆で、これは順張りの教科書が語る効能の中では比較的まっとうに観察された部分です。

⑤ この検証から得られる3つの学び

学び1:「いま効いている」と「いつでも効く」は別物

オニール/ミネルヴィニ系の後半の数字(対市場+1.6〜+3.3%)だけを見れば、順張りは魅力的に見えます。しかし同じルールが前半には機能していませんでした。直近の好成績だけを見て手法を信じ込むのは、たまたま追い風だった期間を実力と取り違えるリスクを伴います。手法の検証は、地合いの違う複数の期間で行う必要がある——今回の8仮説は、その教材のような結果になりました。

学び2:「守り」は一貫し、「攻め」は地合い次第だった

シリーズ第1回のグレアム(守り)は、リターンの序列こそ期間で揺らいだものの、暴落回避の効果は前半・後半の両方で崩れませんでした。今回の順張り(攻め)は、良いときは大きくプラス・悪いときは確認できず、と地合いに大きく依存しました。「大負けを避ける技術は環境が変わっても持ち越しやすく、大勝ちを狙う技術は環境に左右されやすい」——2回の検証を並べると、そんな非対称性が浮かび上がります。

学び3:同じ「教科書」でも、市場と時代で答えが変わる

ウィリアムズの手法は1980〜90年代の米国先物で実績を築いたものですが、2020年代の日本株の日足では4本とも逆風でした。一方オニール/ミネルヴィニの外形は、いまの日本株のトレンド局面では機能して見えます。教えそのものの真偽ではなく、「どの市場の・どの時代の・どんな地合いで検証された教えなのか」を問う——巨匠の本を読むときに一番大切な問いかもしれません。

守り型(#1 グレアム) 暴落回避の効果が両期間で再現 効く 効く 前半 後半 レジーム依存型(#2 順張り) 上げ相場の期間だけ効いて見える 確認できず 効く 前半 後半

図2:2回の検証で見えた対比の概念図。守り型(暴落回避)の効果は期間をまたいで再現された一方、順張り型は後半(上げ相場)だけで観察された。概念図であり実際の数値・チャートではありません。

⑥ この検証の限界

  1. 「外形」だけの検証:オニールのCAN-SLIMは本来、四半期利益の伸び(C)や機関投資家の動向(I)などファンダメンタルズの条件を含む総合体系です。今回検証したのは価格と出来高から機械判定できる「外形」部分のみで、教えの全部を検証したわけではありません
  2. コスト・税は未控除:数値はすべて売買コスト・税金の控除前です。また新高値ブレイク銘柄はストップ高で買えない日があり、翌日寄り付きで買えた前提の数値は実際より良く見える方向の近似です。
  3. 後半の期間が短い:後半(2025年以降)は約1年半で、上げトレンドという単一の地合いに偏っています。次の調整局面を含むデータで答えが変わる可能性があります。
  4. 観測は独立でない:月次の状態型仮説は同じ銘柄が繰り返し登場し、60営業日の測定窓も重なり合います。p値は日付単位の補正を行っていますが、それでも数値は「傾向の目安」としてご覧ください。
  5. 特定銘柄の推奨ではない:本記事はルール(基準)の統計的な性質を調べたものであり、個別銘柄の言及・推奨は一切行っていません。

⑦ まとめ——シリーズ2回で見えてきたこと

検証教えの型結果
#1 グレアム 守り(安く買い、暴落を避ける) 暴落回避の効果が両期間で一貫
#2 ウィリアムズ 攻め(短期の勢いに乗る) 4仮説とも両期間マイナス
#2 オニール/ミネルヴィニ 攻め(強い株・新高値を買う) 後半(2025年〜)だけ4本全勝=レジーム依存
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