🧪 AIシグナル研究日誌 #1
新フィルタを実データ534件で検証したら「不採用」になった話
この連載は、当サイトの自動シグナルシステムを毎週ガチで検証して、その過程を勝ち負け関係なくすべて公開する研究日誌です。
投資の情報発信では「勝った話」ばかりが目立ちます。でも実際の研究開発は、うまくいかなかった検証の山の上に成り立っています。私たちは「うまくいった話」だけでなく、「期待して作った仕組みがデータに否定された話」もそのまま公開します。第1回は、さっそくその「否定された話」です。
① 「相場のムード(強気/弱気)と同じ方向のシグナルだけ通せば勝率が上がるはず」という新機能(門番フィルタ)を作った
② いきなり本番に入れず、過去のシグナル534件で「もし使っていたら?」を答え合わせした
③ 結果は真逆。門番が「通す」はずだった側の勝率は12%、「弾く」はずだった側は57%だった
④ よってこの新機能はお蔵入り。その判断理由と教訓を、この記事で全部公開します
① 前提:このシグナルシステムとは
当サイトでは、18銘柄(日経CME・S&P500・ナスダック・ダウ・FTSE・金・銀・原油・ビットコイン・主要FX9ペア)を4時間ごとに自動分析し、テクニカル条件が揃ったときに「シグナル」として検出・記録しています。
重要なのは、発火したシグナルは勝っても負けてもすべて記録していることです。エントリー価格・損切りライン(SL)・利確ライン(TP)・その後どちらに先に到達したか——全件をログに残し、シグナル成績ページで公開しています。この「全件記録」が、今回のような検証を可能にする土台です。
損切り(SL)=エントリーから ATR(平均的な値動き幅)×1.5、利確第1目標(TP1)=ATR×2.0。つまり「負けたら −1 の損、勝ったら約 +1.33 の利益」という比率(リスクリワード 1:1.33)です。この比率では、勝率が約43%を超えないとトータルで赤字になります。この「43%」が本記事全体の合格ラインです。
② 試したアイデア:「相場のムードと同じ方向だけに絞れば勝てるはず」
5月末、私たちはひとつの改良を思いつきました。発想はシンプルです。
- VIX(恐怖指数)や通貨の強さなどから、いまの相場が「強気モード」か「弱気モード」かを自動で判定する
- 強気モードのときは買いシグナルだけを通し、弱気モードのときは売りシグナルだけを通す
- こうすれば「相場の流れに逆らった負けトレード」が減って、勝率が上がるはず
いわば、シグナルの出口に「門番」を立てるイメージです。
「上昇相場では買いだけ、下落相場では売りだけ」。投資の教科書にも書いてありそうな、誰が聞いても筋の良さそうな話です。
ただし私たちは、これをいきなり本番に入れませんでした。まず約2週間、門番の判定結果を「記録するだけ」にして(配信するシグナルは一切変えない)、答え合わせ用のデータを貯めました。今回はその答え合わせです。
③ 検証方法:期間・対象・使ったシグナル・合格ライン
使ったのは、いわば「もしも検証」です。過去に出たシグナルには「買いか売りか」「勝ったか負けたか」がすべて記録されています。そこに門番の判定を重ねれば、「もし門番を使っていたら、どのトレードが通って、勝率は何%だったか」を、タイムマシンのように答え合わせできます。
検証の枠組み
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| データ | 自動シグナルの全発火記録 642件のうち、勝敗が確定した 534件(TP1到達=勝ち 215件/SL到達=負け 319件) |
| 期間 | 2026年5月20日〜6月10日(約3週間)。うち新フィルタの判定が記録されているのは5月29日以降の294件 |
| 対象銘柄 | 18銘柄(指数5・コモディティ3・BTC・FX9ペア) |
| 時間足 | 1時間足 306件/4時間足 228件 |
| 方法 | 「もしも検証」(専門用語で反実仮想テスト)=「もし門番を使っていたら成績はどうだったか」を全件で集計 |
| 合格ライン | フィルタ通過後の勝率が43%(損益分岐)を明確に超えること |
検証対象になった主なシグナル
このシステムが使っているテクニカルシグナルは、大きく「逆張り系(行き過ぎの反発を狙う)」と「順張り系(勢いに乗る)」に分かれます。
| シグナル | 意味 | タイプ | 件数 |
|---|---|---|---|
| bb_lower_touch | ボリンジャーバンド下限タッチ(売られすぎの反発狙い) | 逆張り | 134 |
| rsi_oversold_bounce | RSI売られすぎ圏からの反発 | 逆張り | 114 |
| macd_dead | MACDデッドクロス(下方向への転換) | 順張り(売) | 81 |
| macd_golden | MACDゴールデンクロス(上方向への転換) | 順張り(買) | 72 |
| high_break / low_break | 直近高値/安値のブレイク | 順張り | 59 |
| ma_golden | 移動平均線のゴールデンクロス | 順張り(買) | 30 |
| その他 | RSI買われすぎ、バンド上抜け 等 | — | 44 |
勝率は件数が少ないと「たまたま」で大きく動きます。コインを6回投げて6回表が出ても、そのコインが特別とは言えないのと同じです。そこで本記事では、勝率に必ず「本当の実力はだいたいこの範囲」というブレ幅(統計用語で95%信頼区間)を添えます。ブレ幅ごと43%を超えて、はじめて合格と判定します。
④ 結果:アイデアは不合格(しかも逆だった)
結論の表からどうぞ。見方は簡単で、注目は太字の2行だけ。「ムードと同じ向き」=門番が通すはずだった側、「ムードと逆向き」=門番が弾くはずだった側です。門番がちゃんと働くなら、「同じ向き」の勝率が高くなっているはずです。
| 区分 | 件数 | 勝率 | ブレ幅 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 全体(参考) | 534 | 40.3% | 36〜44% | ❌ 43%未満 |
| ムードと同じ向き(通すはず) | 17 | 11.8% | 3〜34% | ❌ 大幅未達 |
| ムードと逆向き(弾くはず) | 53 | 56.6% | 43〜69% | ✅ 43%超え |
| 別方式の判定で同じ向き | 46 | 34.8% | 23〜49% | ❌ 未達 |
| 別方式の判定で逆向き | 68 | 48.5% | 37〜60% | 🟡 超えるが幅あり |
門番が通すはずだった側が大負け(12%)、弾くはずだった側がよく勝っていた(57%)。本番に入れていたら、勝ちトレードを捨てて、負けトレードだけを残すところでした。
しかも、2つのブレ幅(3〜34%と43〜69%)は重なっていません=「たまたま」では説明しにくい差です。さらに1週間前に行った別の分析でも、同じ向きの逆転が出ていました。独立した2回の検証で同じ結果——ここまで揃えば、引っ込める判断に十分です。
⑤ なぜ逆だったのか:「勝ちパターン」と門番の相性が最悪だった
結果だけ見ると不思議ですが、理由を掘るとシンプルでした。
過去の検証から、このシステムの勝ちパターンは「みんながパニックで投げ売りした所を、反発狙いで拾う」型(いわゆる逆張り)だと分かっています。実際、シグナル件数の上位2つ(バンド下限タッチ・RSI売られすぎ反発)は、どちらもこの型です。
ここに今回の門番を重ねると何が起きるか——下の図がすべてです。
- 急落の場面では、ムード判定は当然「弱気モード」になる
- そこにこのシステムの得意技「反発狙いの買い」が出ても、方向が逆なので門番に弾かれる
- かわりに通るのは「下げきった所への売り」——一番おいしい場面を逃した飛び乗りで、負けやすい
つまり、「流れに乗る」タイプの門番と、「流れに逆らって拾う」タイプの勝ちパターンは、根本的に食い合わせが悪かったのです。教科書的に正しそうな改良でも、自分のシステムがどこで勝っているかを知らずに足すと逆効果になる——手痛いですが、これが今回いちばん大きな学びでした。
⑥ 「じゃあ逆に張れば勝てるのでは?」→ それもやらない理由
図2を見て、こう思った方もいるはずです。「逆向き側が57%勝つなら、門番を逆向きに使えば勝てるじゃないか」と。
私たちはこれもやりません。理由は3つあります。
- 件数が少ない(53件):コインを53回投げれば、偏った結果はそれなりの確率で出ます。この程度の件数で戦略をひっくり返すのは、過去のデータに合わせて作り込みすぎる「過適合(オーバーフィッティング)」の典型パターンです
- たった3週間・1つの相場環境でしか確かめていない:この期間に効いたものが、別の相場でも効く保証はありません
- 「短期間の成績は裏切る」実例が、すぐ足元にある:下の図を見てください
⑦ 今回の決定事項
| 項目 | 決定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 門番フィルタ(今回の新機能) | 本番投入しない | 通すはず側11.8% vs 弾くはず側56.6%の逆転(ブレ幅が重ならない) |
| 門番の「逆向き採用」 | しない | 53件・1つの相場環境だけでは「たまたま」の可能性を消せない |
| 判定の記録 | 継続する | 別の相場環境のデータが貯まったら再検証するため |
| 成績不振シグナルの扱い | リストを更新 | ma_golden(移動平均GC)は勝率23.3%・信頼区間の上限でも41%と、統計的にも分岐未達が確定的。一方、以前「停止候補」だったmacd_deadは件数が増えたら49.4%まで回復——少ない件数で出した「死刑判決」も間違うことがあると分かったため、こちらは復権 |
⑧ この検証から学べる4つのこと
今回の検証は当サイトのシステムの話ですが、個人投資家のみなさんの「手法づくり」にも通じる一般論として、4つの学びを整理します。
1. 「正しそうな改良」ほど、入れる前に検証する
「地合いに合わせて方向を絞る」は誰が聞いても筋が良さそうなアイデアでした。それでも実データは「逆効果」と答えました。もっともらしさと有効性は別物です。私たちは新しい仕組みを必ず「記録だけ→答え合わせ→合格なら本番」の順で入れています。
2. 自分の手法の「勝ち筋」を先に知る
同じフィルタでも、順張り型の手法に付ければ機能したかもしれません。改良が効くかどうかは、その手法がどこで利益を出しているかに依存します。勝ちトレードの共通点を知らないまま部品を足すのは、車のエンジンを知らずに改造するのと同じでした。
3. 少ない件数の好成績・悪成績を信じすぎない
ショートの勝率が3週間で24%→50%に入れ替わった例、件数が増えたら「死に筋」判定が覆ったmacd_deadの例。どちらも小サンプルの結論は平気で裏切ることを示しています。これは「N回連続で勝った手法」を信じたくなる心理(認知バイアス)への、データからの警告でもあります。
4. 負けを削るほうが、勝ちを足すより確実
今回唯一はっきり確定したのは「ma_goldenが統計的にも負け筋」という事実でした。華々しい新フィルタは棄却され、地味な「負け筋の除去」だけが残る——改善とは大抵こういうものだと考えています。
⑨ 次回に向けて
この研究日誌は続きます。現在進行中の検証テーマは:
- 記録の継続:今回棄却したフィルタも記録は続け、別の相場環境で再検証します(結果が同じなら正式にお蔵入り、覆れば再考)
- 選別タグの前向き検証:シグナルを質で4段階に分類するタグを記録中。「事前の格付けどおりに成績が並ぶか」を数週間かけて確認しています
- 「落ち着いてから入る」エントリー方式:急落への飛びつきを避け、反発の確認を待ってから入る方式の設計・検証
うまくいってもいかなくても、ここで報告します。最新のシグナル成績はシグナル成績ページでいつでも確認できます(こちらは毎日自動更新・全件公開です)。
⚠️ 免責事項:本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。当サイト(MarketWatch AI)は金融商品取引業者ではなく、投資助言・代理業の登録を行っていません。本記事の情報は投資助言に当たらず、投資判断および売買はご自身の判断と責任のもとで行ってください。記事中の勝率・期待値・検証結果はすべて当サイトの特定システムにおける過去の集計であり、将来の相場結果や運用成績を示唆または保証するものではありません。