⚠️ 上場廃止と監理・整理銘柄とは|「終わり」にも決まった手順がある
「上場廃止」と聞くと、多くの人は業績が悪化した会社が突然、市場から姿を消すようなイメージを持つかもしれません。しかし実際には、上場廃止に至る事由は業績不振だけではなく、東京証券取引所(東証)の自主規制ルールである有価証券上場規程が定める20項目にわたります。しかも、そのほとんどは「今日決まって明日消える」ものではなく、投資者への周知を経る決まった手順を踏みます。
この「東証のしくみ」シリーズは、日本の株式市場の制度・手続きだけを扱い、個別銘柄の評価や売買判断には踏み込みません。第12回のテーマは上場廃止基準の全体像と、監理銘柄・整理銘柄に指定されてから実際に何が起きるかです。日本取引所グループ(JPX)の一次情報を実際に確認したうえで解説します(確認日は本文中に記載)。なお、上場維持基準を満たせなくなった場合の改善期間の具体的な数値は、本シリーズ第5回「東証の市場区分」で詳しく扱っているため、本記事では要点の復習にとどめ、上場廃止事由の全体像と監理・整理銘柄という段階で具体的に何が起きるかに焦点を当てます。
📌 この記事の結論(30秒まとめ)
- 上場廃止となる事由は有価証券上場規程第601条第1項第1号〜20号に定められており、上場維持基準への不適合だけでなく、有価証券報告書等の提出遅延、虚偽記載、破産手続、完全子会社化など多岐にわたる。
- いきなり上場廃止になるのではなく、多くの場合「監理銘柄」(廃止の"おそれ"を周知)→「整理銘柄」(廃止が決定したことを周知)という段階を経て、投資者に周知したうえで廃止に至る。
- 監理銘柄・整理銘柄に指定されている間も取引所での売買は続けられる。ただし上場廃止後は東証市場における株式の売買ができなくなる。
- 監理・整理銘柄に指定されてからの期間や、保有株がその後どうなるかは廃止の事由によって異なる(TOBによる完全子会社化なのか、破産手続なのか等)。
- 現在どの銘柄が監理・整理銘柄に指定されているかは、JPXが常時公開している一覧ページで誰でも確認できる。
1️⃣ 上場廃止基準の全体像——事由は20項目にわたる
上場廃止基準は、投資者保護と市場の信頼性を維持するために設けられた制度です。JPXは「上場廃止基準の概要」のページで、上場廃止となる事由を次のように説明しています。
この20項目は、大きく次のようなカテゴリーに分けられます。
| カテゴリー | 内容の要旨 |
|---|---|
| 上場維持基準への不適合 | 各市場区分が求める株主数・流通株式・売買高などの基準を、改善期間内に満たせなかった場合 |
| 有価証券報告書等の提出遅延 | 監査報告書等を添付した有価証券報告書・半期報告書を、法定提出期限から1か月以内(延長承認がある場合はその期間+8日目まで)に提出しない場合 |
| 虚偽記載又は不適正意見等 | 有価証券報告書等に虚偽記載があり市場の秩序維持が困難と認められる場合、または監査報告書等に「不適正意見」等が付された場合 |
| 特別注意銘柄等 | 内部管理体制等の整備・運用に問題があると認められ、改善の見込みがない場合 |
| 上場契約違反等 | 上場契約の重大な違反、新規上場時の宣誓事項への重大な違反があった場合 |
| その他 | 銀行取引の停止、破産・再生・更生手続、事業活動の停止、不適当な合併等、完全子会社化、株式併合、全部取得、株式等売渡請求による取得、反社会的勢力の関与 など |
この一覧からわかるとおり、「業績不振」は上場廃止事由の一部にすぎません。表の最後の「その他」には、TOB(株式公開買付け)が成立して完全子会社化される場合や、株式併合によって少数株主の株式が処理される場合なども含まれています。これは本シリーズ第4回「株式公開買付け(TOB)」で扱った、TOBが成立したあとに起こりうる手続きとつながっています。また、新規上場時に提出した宣誓書に違反していた場合(宣誓書違反による再審査)や、非上場会社との合併等で実質的な存続会社が上場会社でなくなる、いわゆる「裏口上場」を防ぐための基準(合併等による実質的存続性喪失)といった、個別性の強い基準も用意されています。
2️⃣ 具体例:代表的なパターン「上場維持基準への不適合」の場合
数ある上場廃止事由のうち、手順が定型化されていて流れを追いやすいのが「上場維持基準への不適合」のルートです。ここでは代表例として、このルートを取り上げます。JPXは、2025年3月1日以降の取り扱いを次のように説明しています。
各市場区分が求める上場維持基準の主な項目(本来の基準、2025年3月1日以後の基準日から適用)は次のとおりです。詳しい経過措置の経緯や、ここに含まれない項目(流通株式時価総額・純資産の額など)は第5回「東証の市場区分」で扱っているため、ここでは主な項目のみを再掲します。
| 項目 | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 |
|---|---|---|---|
| 株主数 | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上 |
| 流通株式数 | 2万単位以上 | 2,000単位以上 | 1,000単位以上 |
| 流通株式比率 | 35%以上 | 25%以上 | 25%以上 |
| 売買代金/売買高 | 1日平均売買代金0.2億円以上 | 月平均売買高10単位以上 | 月平均売買高10単位以上 |
| 時価総額 | - | - | 40億円以上(上場10年経過後から適用) |
JPXは、決算期に応じた具体的なスケジュール例も公表しています。
つまり、3月末決算の会社であれば、4月1日から監理銘柄(確認中)に指定され、そこからおよそ2〜3か月かけて基準への適合状況が確認される、という流れです。監理銘柄に指定された時点では、まだ「基準に適合するかどうかを確認している段階」であり、上場廃止が確定したわけではありません。
3️⃣ 図解:監理銘柄・整理銘柄に指定されてから何が起きるか
上場廃止に至るプロセスの中でも、投資家として特に押さえておきたいのは「監理銘柄」と「整理銘柄」の違いです。JPXの用語集は、それぞれを次のように定義しています。
つまり、監理銘柄=「廃止になる"おそれ"の段階」、整理銘柄=「廃止が"決定した"段階」という違いがあります。この2つの段階を、上場維持基準への不適合を例に時系列で示すと次のようになります。
4️⃣ 個人投資家にどこで効いてくるか
① 監理・整理銘柄の間も、取引所での売買は続けられる
監理銘柄・整理銘柄に指定されても、その期間中は東証での売買が禁止されるわけではありません。整理銘柄の用語集定義にあるとおり、「投資者が整理売買を行うことができるように」という目的で、あえて一定期間の売買機会が確保されています。慌てて理解しないまま行動する前に、まずは指定の意味(おそれの段階か、決定した段階か)を確認することが大切です。
② 値幅制限が撤廃されることがある
整理銘柄は取引可能な期間が限られているため、需給の偏りが大きい場合には、通常の値幅制限(本シリーズ第2回で扱った制度)が一時的に撤廃されることがあります。JPXは実際に、整理銘柄に指定された銘柄について「売買可能期間が限定的であることを踏まえ、需給合致値段への移行を速やかに行う」との考えから、呼値の制限値幅の下限を撤廃し基準値段を変更した措置を、マーケットニュースとして公表した実例(2019年1月公表分)があります(本記事では個別銘柄の評価はしないため、事例の詳細は次章の一次情報リンクから各自ご確認ください)。値幅制限が外れると、通常では起きない価格での売買が成立する可能性があるため、JPXは取引参加者(証券会社)に対して顧客への周知を呼びかけています。
③ 保有株がその後どうなるかは、廃止の事由によって異なる
上場廃止後は東証市場での売買ができなくなりますが、保有していた株式そのものがどうなるかは廃止の事由によって大きく異なります。例えば、TOBが成立して完全子会社化される場合は、株式併合(少数株主の株式をまとめて処理しやすい単位に統合する手続き)や株式等売渡請求(一定以上の株式を持つ株主が残りの少数株主の株式を強制的に取得する手続き)などを経て、株主は金銭等の対価を受け取ることが一般的です(詳しくは第4回「株式公開買付け(TOB)」を参照)。一方、破産手続・再生手続などが事由の場合は、保有株式の価値が大きく損なわれる、あるいは失われるリスクがあります。「上場廃止=一律に価値がなくなる」わけではない点は、誤解しやすいポイントです。
④ 監理銘柄には「確認中」と「審査中」がある
監理銘柄への指定には、上場維持基準への適合状況を確認する「確認中」と、市場区分の変更審査などに対応した「審査中」の区別があります。どちらも「廃止のおそれがあり、確認・審査をしている段階」である点は共通しますが、何を確認・審査しているかが異なるため、個別の指定情報を確認する際はこの違いも意識すると理解しやすくなります。
5️⃣ 自分で一次情報を確かめる手順
このシリーズの立場として、制度の仕組みは必ず一次情報で確認します。上場廃止基準・監理銘柄・整理銘柄については、以下の手順で確かめられます。
- JPXサイトの「株式・ETF・REIT等」→「上場制度(内国株)」から「上場廃止基準(各市場共通)」のページを開く(20項目の根拠条文と各カテゴリーの詳細を確認できる)。
- 同メニューの「上場維持基準に関する経過措置の終了」のページで、改善期間・監理銘柄・整理銘柄の期間の考え方と、決算期別のスケジュール例を確認する。
- 用語の定義は、JPX用語集の「監理銘柄」「整理銘柄」のページで確認できる。
- 現在どの銘柄が監理・整理銘柄に指定されているかは、「監理・整理銘柄一覧」で常時公開されている(指定年月日・市場区分などが確認できる)。
- 整理銘柄の値幅制限撤廃の実例は、JPXの「マーケットニュース」で個別に公表されることがある。
6️⃣ よくある誤解
| 誤解 | 一次情報にもとづく整理 |
|---|---|
| 上場廃止基準に該当したら、その日のうちに売買できなくなる | 誤り。多くの場合は監理銘柄・整理銘柄という周知の段階を経る。ただし一定の場合は、これらの指定を経ずに廃止となることもある |
| 上場廃止の事由は「業績不振(上場維持基準への不適合)」だけ | 誤り。有価証券報告書等の提出遅延、虚偽記載、破産手続、完全子会社化、宣誓書違反など20項目にわたる |
| 監理銘柄に指定された時点で、上場廃止は確定している | 誤り。監理銘柄は「基準に適合するかどうかを確認・審査している段階」であり、適合が確認されれば指定は解除される |
| 上場廃止になった株式は、事由にかかわらず一律に無価値になる | 誤り。TOBによる完全子会社化などでは対価を受け取れるのが一般的で、破産手続等とは扱いが異なる |
7️⃣ まとめ
東証のしくみシリーズ第12回「上場廃止と監理・整理銘柄」を整理します。
- 上場廃止の事由は有価証券上場規程が定める20項目にわたり、業績不振(上場維持基準への不適合)はその一部にすぎない。
- 多くの場合、監理銘柄(廃止の"おそれ")→整理銘柄(廃止の"決定")という段階を経て、投資者に周知したうえで上場廃止に至る。
- 監理・整理銘柄の間も取引所での売買は続くが、整理銘柄では値幅制限が撤廃されることがある。上場廃止後は東証市場での売買ができなくなる。
- 保有株がその後どうなるかは廃止の事由によって異なるため、「上場廃止=一律に無価値」という理解は誤り。
- 現在の指定状況はJPXの一覧ページで誰でも確認できる。
本記事の制度の説明は、2026年9月13日時点でJPX公式サイト「上場廃止基準の概要」(2024年7月1日更新)、「上場維持基準に関する経過措置の終了」(2026年3月18日更新)、JPX用語集「監理銘柄」「整理銘柄」の該当ページを実際に確認したうえで記載しています。制度は変更されることがあるため、実際の取引にあたっては、その時点の一次情報をご自身で確認してください。
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