🔬 アドバンテスト(6857)を数字で見る|半導体の検査装置(テスタ)の会社を有価証券報告書で確認
「数字で見る、話題の企業」シリーズ第17回は、できあがった半導体が設計どおりに正しく動くかを確かめる検査装置(テスタ)と、その周辺の装置・サービスを手がける株式会社アドバンテスト(証券コード6857、以下「アドバンテスト」)を取り上げます。このシリーズの狙いは「この会社の将来性を、自分で見積もれる状態」を作ることで、上がるか下がるかの結論は書きません。会社が金融庁の開示システム(EDINET)に提出した有価証券報告書(上場会社が決算期ごとに金融庁へ出す、事業や決算をくわしく書いた報告書。第84期・2025年4月〜2026年3月)をもとに、①事業の中身 ②半導体の工程の中での位置 ③歴史 ④直近の決算の数字 ⑤会社自身が挙げるリスク ⑥上がる材料・下がる材料を対で並べ、⑦次に何を見ればよいかを整理します。
- アドバンテストの第84期(2025年4月〜2026年3月)の売上高は約1兆1,286億円(前期比+44.7%)、営業利益は約4,991億円(同+118.8%)、親会社の所有者に帰属する当期利益は約3,754億円(同+132.9%)でした(国際会計基準〈IFRS〉・連結)。売上高の約68%が、計算などの機能を1つのチップにまとめた半導体(SoC)向けの検査装置です
- 顧客の所在地で見ると台湾が約50.5%で、海外の顧客向けの売上の割合は97.8%でした。売上高の約75%は米ドルを主とする外貨によるものです。1社への売上が全体の20.2%を占め、上位5社で約50%です。会社自身は、半導体の設備投資の波、上位顧客への集中、各国の規制、供給網、為替などをリスクに挙げています
- 直近の四半期(2026年4〜6月)の決算短信は、当サイトでは取得できなかったため使っていません。「上がる材料」「下がる材料」を各5件ずつ、出典付きで対に並べます。買い時かどうかの結論は書きません
edinet-yuho.json の candidates[]=直近14日の日本株ランキング〈値上がり・値下がり・出来高急増〉に2回以上登場した銘柄、ランキング基準日2026-10-14時点で20銘柄)は、アドバンテストの登場を2026年10月1日・10月2日・10月6日の3回と数えています。当サイトのランキングデータ jp-rankings.json の更新履歴で確かめると、3回とも値上がりランキングと出来高急増ランキングに入っていました(その前の9月30日にも出来高急増ランキングに、9月18日にも値上がりランキングに入っていましたが、候補データが数える範囲の外です)。ランキングに最後に登場した日から中3営業日以上あいていること(「熱が残っているうちは書かない」ルール。同データの cooled: true)と、有価証券報告書の本文が取得できていることを満たす候補の中から、時価総額の大きい順に選びました(時価総額の金額や順位は本文に書きません)。当サイトのニュース記事では、2026年7月21日の記事で主役の1社として、2026年10月1日の記事で株価の動きを取り上げています。ニュースと同じ会社を14日以内に重ねないルールがあるため、10月1日の記事から14日がたつまで、この記事の公開を見送っていました。ニュース記事は「その日に何が起きたか」を伝えるもので、この記事は「この会社は何で稼いでいて、材料は何か」を整理するもので、役割が違います(その日の値動きは、それぞれのニュース記事をご覧ください)。本レーンでの既刊記事・この会社が主役の解説記事の既刊はありません(
ls guide-*.html と guides.html を社名・証券コードで確認)。ランキングに登場した理由(なぜ値上がりがあったか)は、一次情報で確かめられないため書きません。1️⃣ アドバンテストはどんな会社か
アドバンテストは、有報の「沿革」によると、1954年12月に電子計測器(電気の信号などを測る機器)の専門メーカー「タケダ理研工業株式会社」として愛知県豊橋市で設立され、1985年10月に今の「株式会社アドバンテスト」に社名を変えました。本店は東京都千代田区にあります。グループは会社本体と連結子会社39社(国内5社・海外34社。子会社=アドバンテストが議決権の過半数を持つなどして経営を支配している会社)でできていて、連結の従業員数は7,241人(2026年3月31日現在)です。会社は、研究開発部門の従業員がグループの人員の3割程度だと書いています(出典:有価証券報告書 第84期「沿革」「事業の内容」「主要な経営指標等の推移」「研究開発活動」、2026-10-15確認)。
会社は経営理念に「先端技術を先端で支える」を掲げています。事業は、半導体の検査に使うテストシステムと、その周辺の装置(メカトロニクス関連)の製造・販売が中心で、ほかに研究開発や保守・サービスがあります。事業の区分(セグメント:会社が業績を管理・開示するときの事業の区分)は、第84期から「テストシステム事業」と「サービス他」の2つに変わりました(それまでは「半導体・部品テストシステム事業」「メカトロニクス関連事業」「サービス他」の3つ。前期の数字も新しい区分に組み替えて開示されています)(出典:同有報「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「事業の内容」)。
- テストシステム事業:SoC向けのSoCテストシステム、メモリ向けのメモリテストシステム、チップを運んでテスタにつなぐテストハンドラ、テスタと検査するチップをつなぐデバイスインタフェース、システムレベルテストの装置など
- サービス他:顧客ソリューションの提供、ナノテクノロジー関連の製品、サポート・サービス、消耗品の販売など
テストシステム事業の中は、有報の注記「売上高」で、SoC・メモリ・その他に分けた売上が開示されています。売上を顧客の所在地で分けた数字は、注記「セグメント情報」に載っています(出典:同有報 連結財務諸表注記「セグメント情報」「売上高」)。
製品の種類ごとに前期と比べると、SoCは約4,405億円から約7,674億円(+74.2%)、メモリは約1,577億円から約1,715億円(+8.8%)、テストシステム事業のその他は約847億円から約805億円(−5.0%)、サービス他は約969億円から約1,092億円(+12.7%)でした(増減の率はサービス他が有報の記載、それ以外は当サイトの計算)。会社はテストシステム事業について、SoCテストシステムで「高性能SoC半導体向けの売上が大幅に増加しました。」と書き、HPCやAI関連の半導体の需要の高まりを背景に挙げる一方、「自動車や産業機器関連などの成熟半導体向けのテスタ需要は軟調に推移しました。」(成熟半導体=最先端ではない世代の製造技術でつくる半導体。会社の言葉)とも書いています。メモリテストシステムでは、高性能DRAM向けを中心に販売が堅調だったと説明しています(出典:同有報「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」〔以下「経営者による分析」と略します〕)。
顧客の所在地ごとに前期と比べると、台湾は約3,265億円から約5,695億円(+74.4%)、中国は約1,751億円から約2,133億円(+21.8%)、韓国は約1,570億円から約1,803億円(+14.9%)、日本は約158億円から約251億円(+58.6%)、欧州は約200億円から約231億円(+16.0%)に増えました。米州は約471億円から約445億円(−5.6%)に減りました(増減の率は日本・米州・欧州が有報の記載、それ以外は当サイトの計算)。会社は、日本以外のアジアの増加について、主に台湾でSoC半導体用の試験装置の販売が好調だったことによると書いています。海外の顧客向けの売上の割合は97.8%(前期98.0%)です(出典:同有報「経営者による分析」「セグメント情報」)。
売上が全体の10%以上を占めた相手先も有報に載っています。第84期は、1社(米国の半導体の会社のグループ会社)への売上が約2,283億円で全体の20.2%、もう1社(台湾の半導体メーカー)への売上が約1,249億円で11.1%でした。前期は、この台湾の半導体メーカーが12.3%、別の1社(韓国の半導体メーカー)が10.6%で、この会社は10%未満だったため記載がありません。有報には相手先の社名が書かれていますが、この記事では社名を書きません(出典:同有報「経営者による分析」)。
2️⃣ 半導体ができるまでの流れの中のどこにいるか
次にどれが来る・上がる・下がるという話ではなく、アドバンテストの装置が、半導体ができるまでの流れのどこで使われているかを地図にして示します。答え(次はどれか)は渡しません。地図だけを渡します。アドバンテストは「半導体をつくる会社」ではなく、半導体をつくる会社が、できた半導体を確かめるために使う装置と、そのサービスを売る会社です。検査は、流れの途中で何度か行われます。
アドバンテストが「検査」の箱に立っている根拠は、会社自身の開示にあります。第84期の売上高のうち、テストシステム事業が90.3%(会社の記載)、サービス他が9.7%でした。会社は、プローブカードについて「ウェーハ・レベル・テストにおいてテスタ本体とデバイスの間に位置する重要な機構部品です。」と書き、ウエハの段階の検査でも自社のテスタが使われることを示しています。また会社は、設計した半導体を実物で確かめる検証(シリコン検証)を自動化する製品の提供を始めたとも書いています(出典:有価証券報告書 第84期「経営者による分析」「事業等のリスク」「株式の保有状況」「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「研究開発活動」、2026-10-15確認)。
工程の前後とのつながりも、開示に書かれています。
- 装置を使う側とのつながり:会社は、サステナビリティに関するリスクと機会の見積もりについて、それらが主に「半導体設計製造会社(IDM)、ファブレス半導体企業、ファウンドリー及びテストハウスの設備投資に依存すること」を挙げていて、装置を使う側にどんな種類の会社がいるかがわかります。売上高の上位5社で全体の約50%を占めます(出典:同有報「サステナビリティに関する考え方及び取組」「事業等のリスク」)。
- 最後の使い道とのつながり:会社は第84期について、データセンター向けのHPCや高性能DRAMなどAIの普及に関連する半導体が市場の成長を引っぱり、スマートフォンなど民生機器向けも堅調だった一方、自動車や産業機器関連などの成熟半導体向けのテスタ需要は軟調だったと、用途ごとに違いがあったことを書いています(出典:同有報「経営者による分析」)。
- 支える側とのつながり:会社は、部品・材料の調達から製造・物流まで、サプライヤーや外部の委託先と協業しながら供給網を組んでいると書き、テストシステム事業の生産は自社と複数の外部委託企業が担当しているとしています。調達を安定させるため、一部の材料・部品について長期の調達契約を結び、前工程を済ませたウエハの状態で備蓄する「ダイバンク」などで中間品を確保しているとも書いています(出典:同有報「事業の内容」「事業等のリスク」)。
- 前後の工程にいる会社の種類:前(支える側)には、電子部品や材料のメーカー、生産を引き受ける委託先、検査用の部品(プローブカード)のメーカーがあります。後ろには、装置を使って半導体をつくる・検査するメーカーや検査を請け負う会社、さらにその先に、サーバーやパソコン、スマートフォン、自動車の部品をつくる会社や、データセンターを運営する会社がいます。
このつながりが変わる・弱まる条件も、会社自身が有報で挙げています。半導体の設備投資については、時期と規模が当初の構想からずれた流動的なものになる傾向が強いとし、「半導体需要が減速した場合には、顧客による設備投資が先送りされ、当社グループの業績が悪化する可能性があります。」と書いています。逆に市場が急に大きくなる局面で、供給する力が需要の伸びに追いつかなかった場合も、販売の機会を逃したり顧客からの信頼が下がったりして業績に影響する可能性がある、と書いています(出典:有価証券報告書「事業等のリスク」、2026-10-15確認)。
3️⃣ 歴史年表——事実で確認できる出来事
各行に、クリックして確かめられる出典を付けた事実の年表です。原因を決めつけたり物語にしたりはせず、確認できる出来事だけを並べています。この年表は、有価証券報告書の「沿革」などだけで作っています(Wikipediaなどの二次情報は使っていません)。
| 年月 | 出来事 | 出典 |
|---|---|---|
| 1954年12月 | 電子計測器専門メーカーとして、資本金50万円でタケダ理研工業株式会社を愛知県豊橋市に設立 | 有価証券報告書 第84期「沿革」(2026-10-15確認) |
| 1974年4月 | 株式の額面の変更のため、東新工業株式会社(形式上の存続会社)がタケダ理研工業株式会社を吸収合併し、営業活動を全面的に引き継ぐ(実質上の存続会社はタケダ理研工業) | 有価証券報告書 第84期「沿革」(2026-10-15確認) |
| 1976年2月 | 国内の電機メーカーが資本参加(有報には社名の記載あり) | 有価証券報告書 第84期「沿革」(2026-10-15確認) |
| 1982年6月・1983年6月 | 米国に子会社を設立(1982年)。ドイツに子会社を設立(1983年) | 有価証券報告書 第84期「沿革」(2026-10-15確認) |
| 1983年2月 | 東京証券取引所の市場第二部に株式を上場 | 有価証券報告書 第84期「沿革」(2026-10-15確認) |
| 1984年5月 | 群馬工場を群馬県邑楽郡邑楽町に開設 | 有価証券報告書 第84期「沿革」(2026-10-15確認) |
| 1985年9月・10月 | 東京証券取引所の市場第一部に株式を上場(9月)。「株式会社アドバンテスト」に社名を変更(10月) | 有価証券報告書 第84期「沿革」(2026-10-15確認) |
| 1986年10月・1990年3月 | シンガポールに子会社を設立(1986年)。台湾に子会社を設立(1990年) | 有価証券報告書 第84期「沿革」(2026-10-15確認) |
| 1996年10月 | 群馬R&Dセンタを群馬県邑楽郡明和町に開設 | 有価証券報告書 第84期「沿革」(2026-10-15確認) |
| 2001年9月 | ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場(2016年4月に上場廃止) | 有価証券報告書 第84期「沿革」(2026-10-15確認) |
| 2011年7月 | Verigy Ltd.の普通株式全株を取得し、完全子会社にする | 有価証券報告書 第84期「沿革」(2026-10-15確認) |
| 2018年6月 | 本店を東京都千代田区に移転 | 有価証券報告書 第84期「沿革」(2026-10-15確認) |
| 2022年4月 | 東京証券取引所の市場区分の見直しで、市場第一部からプライム市場に移行 | 有価証券報告書 第84期「沿革」(2026-10-15確認) |
| 2023年10月 | 普通株式1株を4株に分ける株式分割を実施(10月1日付) | 有価証券報告書 第84期「主要な経営指標等の推移」の注記・「発行済株式総数、資本金等の推移」(2026-10-15確認) |
| 2026年2月 | サイバーセキュリティのインシデント(情報システムへの攻撃などの事故)が発生し、会社はセキュリティ強化のための施策を実施したと記載。同じ月の6日に、自己株式34,141,256株を消却し、発行済株式総数が732,000,000株になる | 有価証券報告書 第84期「事業等のリスク」「発行済株式総数、資本金等の推移」(2026-10-15確認) |
| 2026年4月 | 2031年満期の転換社債型新株予約権付社債(発行総額は1,000億円に、代替の新株予約権付社債券の額面を加えた額と有報に記載)の払い込みが完了(4月20日) | 有価証券報告書 第84期 連結財務諸表注記「後発事象」(2026-10-15確認) |
| 2026年6月 | 有価証券報告書 第84期を提出(6月26日) | EDINET 有価証券報告書 第84期(2026-10-15確認) |
市場第二部・市場第一部=東京証券取引所の当時の市場の区分です(2022年4月に今のプライム・スタンダード・グロースの区分に見直されました)。株式分割=1株をいくつかの株に分けて、株数を増やすことです。会社の価値そのものは変わらず、1株当たりの利益や配当の金額は、分けた分だけ小さく見えます。自己株式の消却=会社が買い戻して持っている自社の株を、なくしてしまうことです(買い戻しただけでは発行済株式総数は減らず、消却したときに減ります)。転換社債型新株予約権付社債=お金を借りるために出す債券(社債)のうち、決められた条件で会社の株式に換えられる権利が付いたものです。後発事象=決算期の末日のあとに起きた、決算書の利用者に知らせるべき出来事です。
4️⃣ 直近の決算の数字(有価証券報告書 第84期)
有価証券報告書 第84期(2025年4月1日〜2026年3月31日、2026年6月26日提出)の連結の数字です(IFRS)。アドバンテストは3月決算で、その後の四半期の決算短信(2026年4〜6月期)は、上の注意書きのとおり当サイトでは取得できていません。有報の財務諸表(決算書)は、会社の外の監査法人による監査(決算の数字が正しいかを確かめること)を受けています。確認日は2026-10-15です。
| 指標(連結・IFRS) | 第84期(2025/4〜2026/3) | 第83期(前期・2024/4〜2025/3) | 増減 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 約1兆1,286億円 | 約7,797億円 | +44.7% |
| 売上原価 | 約4,025億円 | 約3,346億円 | +20.3% |
| 売上原価率 | 35.7% | 42.9% | −7.2ポイント |
| 販売費及び一般管理費 | 約2,296億円 | 約1,954億円 | +17.5% |
| その他の損益 | 約26億円の利益 | 約215億円の損失 | — |
| 営業利益 | 約4,991億円 | 約2,282億円 | +118.8% |
| 営業利益率 | 44.2% | 29.3% | +14.9ポイント |
| 金融損益 | 約176億円の利益 | 約34億円の損失 | — |
| 税引前利益 | 約5,167億円 | 約2,248億円 | +129.9% |
| 親会社の所有者に帰属する当期利益 | 約3,754億円 | 約1,612億円 | +132.9% |
| 基本的1株当たり当期利益(EPS) | 515.15円 | 218.67円 | — |
| 親会社所有者帰属持分当期利益率(ROEにあたる数字) | 57.6% | 34.4% | — |
| 親会社所有者帰属持分比率(自己資本比率にあたる数字) | 67.9% | 59.3% | — |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 約3,352億円 | 約2,860億円 | +17.2% |
| 研究開発費(会社の記載) | 781億円 | 714億円 | +9.4% |
| 1株当たり配当額(アドバンテスト単体の数字) | 59円 | 39円 | +20円 |
出典:有価証券報告書 第84期「主要な経営指標等の推移」「経営者による分析」「研究開発活動」(2026-06-26提出)。億円の数字は有報の百万円から当サイトが計算したもの(億円未満四捨五入)。売上高・売上原価・販売費及び一般管理費・営業利益・税引前利益・当期利益の増減の率と、売上原価率・営業利益率とその増減は、有報の「経営者による分析」の記載。前期の売上原価率、営業活動によるキャッシュ・フローと研究開発費の増減の率は、当サイトが有報の数字から計算したもの。第84期の1株当たり配当額59円は、中間配当(期の途中で払う配当)29円と期末配当(期末の後に払う配当)30円の合計です。確認日:2026-10-15。
会社は売上高の増加について、主要な顧客向けの需要の伸びを満たしたことと、新たな顧客向けの需要の取り込みが順調に進んだこと、高い水準の需要を見すえて進めてきた生産能力の増強が奏功したことを挙げています。利益の面では、「売上原価率は、製品ミックスの良化により、前連結会計年度に比べ7.2ポイント減少の35.7%となりました。」と書いています(製品ミックス=売れた製品の組み合わせ)。会社は第84期の平均の為替レートを、米ドル150円(前期153円)、ユーロ173円(前期164円)と書いています(出典:同有報「経営者による分析」)。
営業利益の下の段にも、前期と比べるときに知っておきたい項目があります。会社の説明では、前期の「その他の損益」には、買収した子会社ののれんと無形資産の一部の減損損失 約214億円が含まれていました。第84期は、金融損益に、戦略投資として取得していた株式に関するコールオプションを公正価値で評価し直した評価益 約173億円が含まれ、サービス他部門の利益には事業の一部を譲った譲渡益 約25億円が含まれています(出典:同有報「経営者による分析」・連結財務諸表注記「セグメント情報」)。これらの項目が今後も出るかどうかは、この記事で読んだ範囲の有報には書かれていないため、この記事でも書きません。
5期の数字では、売上高は約4,169億円(第80期)、約5,602億円、約4,865億円、約7,797億円、約1兆1,286億円(第84期)と動きました。親会社の所有者に帰属する当期利益は、約873億円、約1,304億円、約623億円、約1,612億円、約3,754億円です。第82期(2024年3月期)は、前の期と比べて売上高が約13.2%、当期利益が約52.2%減りました(出典:同有報「主要な経営指標等の推移」、増減の率は当サイトの計算)。この記事で読んだ範囲の有報には、第83期より前の年ごとの増減の理由の説明はないため、理由は書きません。
株主への還元について、会社は有報の「配当政策」で、中期経営計画(2024年4月からの3年間)の株主還元の方針として、配当は1株当たり年間30円を最低限とし、配当に自己株式の取得を合わせた総還元性向(配当と自己株式の取得の合計が、連結の当期利益に占める割合)を3年間の合計で50%以上をめどにすると書いています。ただし、想定以上の資金が要る成長投資の機会が出たときや、事業環境の変化で業績が悪くなったときなどは、実行できない場合があるとしています。第84期の財務活動によるキャッシュ・フローは約2,306億円の支出で、会社は主な理由に、自己株式の取得による支出 約1,143億円、1年以内に返済予定だった長期借入金の返済 約754億円、配当金の支払い 約358億円を挙げています(出典:同有報「配当政策」「経営者による分析」)。
自己株式(会社が買い戻した自社の株)については、2025年4月25日の取締役会の決議にもとづく取得(6,643,900株・約700億円)と、2025年10月28日の取締役会の決議にもとづく取得(上限1,800万株・1,500億円、取得期間は2026年10月28日まで。第84期末までに2,048,700株・約442億円)が有報に載っています。2026年2月6日には自己株式34,141,256株を消却し、発行済株式総数は766,141,256株から732,000,000株になりました(買い戻しただけでは発行済株式総数は減らず、消却で減ります)。第84期末に会社が持っている自己株式は6,484,224株です(出典:同有報「自己株式の取得等の状況」「発行済株式総数、資本金等の推移」)。
お金の使い方では、第84期の設備投資の総額は343億円(会社の記載)で、会社は新製品の開発と生産の合理化、省力化、生産能力の拡充が中心だったと書いています。さらに決算期のあとの2026年4月20日に、2031年満期の転換社債型新株予約権付社債(利息は付かない)の払い込みが完了したことが「後発事象」として載っています。会社は、手取り金の約1,000億円を、半導体テスタの生産能力の増強(今後数年間でSoCテストシステムを年間7,500台の規模にすることを目的に、2029年3月までに約500億円)、需要に柔軟に対応するための戦略的な在庫の確保(2027年3月までに約200億円)、次世代のテスト・ソリューション(検査の装置・ソフト・サービスの組み合わせ)の開発の加速(2028年3月までに約300億円)に充てる予定と書いています。この社債の新株予約権が行使されると、会社の普通株式が交付される仕組みです(出典:同有報「設備投資等の概要」・連結財務諸表注記「後発事象」)。
5️⃣ 会社自身が挙げているリスク
以下は有価証券報告書(第84期)の「事業等のリスク」から、会社自身が挙げているものの要旨です。書き手の推測ではなく会社の自己申告である点が、このシリーズで最も大事にしている情報です。会社はリスクを「戦略的リスク」「オペレーショナルリスク」「財務リスク」「法務・コンプライアンス・グループガバナンス・知的財産権リスク」の4つの分類で20項目挙げ、短い期間か中くらいの期間に表に出る可能性があり、表に出たときの影響が大きいと考えるものに「※」の印を付けています。ここでは「※」の付いたもののうち5つを紹介します。原文はEDINET掲載の有価証券報告書でご確認ください。
- ①市場変動(※):世界中の半導体関連の会社を顧客としているため、業界全体の半導体の設備投資の水準の変動の影響を直接受けやすい事業の構造だと書いています。「半導体需要が減速した場合には、顧客による設備投資が先送りされ、当社グループの業績が悪化する可能性があります。」とし、市場が急に大きく悪くなった場合には、売上の代金を回収できないリスクも大きくなる可能性があるとしています。対策として、開発から量産までの検査の需要を広くカバーする製品の組み合わせや、継続して売上が入るサービスの強化、戦略的な在庫の持ち方、費用の構造を売上に応じて動く形に近づけることなどを挙げています。
- ②顧客ポートフォリオ(※):特定の大口の顧客が売上に占める割合が相対的に高い構造だとし、「顧客上位5社による売上高は、前連結会計年度の売上高全体の約48%及び当連結会計年度の同約50%を占めています。」と書いています。上位の顧客の事業戦略や設備投資計画が変わったり、大口の顧客との取引が縮小・終了したりした場合、業績への影響が短い期間で表れるおそれがあるとしています。
- ③政治・地政学(※):半導体製造装置は国際的な供給網の上に成り立っているため、地政学的な環境の変化の影響が相対的に大きいとし、主要国で輸出管理の規制や投資の規制、先端技術の管理が厳しくなっていると書いています。特定の国・地域への製品・技術・保守サービスの提供が制限・禁止される場合や、関税の引き上げなどを例に挙げています。
- ④サプライチェーン(※):天災や、取引先の事業の悪化、物流の混乱、自社や取引先の供給能力を超える需要の急な伸びなどで、必要な部品・材料・生産スペース・人手を確保できない場合に、製品の供給が遅れたり止まったりする可能性を挙げています。また「当社製品需要や生産・調達計画等の不整合により、過剰在庫や陳腐化が発生する場合」も挙げています。
- ⑤為替変動(※):「当連結会計年度の売上高のうち約75%は、米ドルを主とする円以外の外貨によるものです。」と書き、販売に使う外貨(主に米ドル)に対して円高になった場合に、業績と財政状態に悪影響が出る可能性があるとしています。ユーロについては、ユーロ建ての売上よりも費用のほうが大きいため、円安の水準が続いた場合に収益性に悪影響が出る可能性があるとしています。対策として、為替予約などを使ったヘッジ(将来の為替の動きによる影響を小さくする取引)を挙げています。
出典:有価証券報告書 第84期「事業等のリスク」(2026-06-26提出、2026-10-15確認)。原文のリスクには、このほか「※」の付いたものとして、顧客からの信頼、情報セキュリティ及び業務効率(2026年2月に発生したサイバーセキュリティのインシデントを受けた取り組みの記載を含む)、自社の事業継続、人財が並び、「※」の付いていないものとして、成長投資、製品ライフサイクル、信用格付、税務、貿易管理、知的財産権、訴訟などが並んでいます。なお会社は、受注の実績を有報に載せていません。その理由として、短い期間の受注の動きは顧客の投資の動きで大きく変わる傾向があり、中長期の会社の業績を予測するための指標としてふさわしいとは限らないため、と説明しています(出典:同有報「経営者による分析」)。受注=顧客から注文を受けることです。地政学=国どうしの関係や地理的な条件が、政治や経済に与える影響のことです。輸出管理=安全保障などの理由で、特定の製品や技術を外国へ出すことを国が規制することです。
6️⃣ 上がる材料/下がる材料
ここがこの記事の主役です。会社の開示で確認できる事実だけを左右に対で並べます。どちらが重いかという重み付けはしません。
以上が、いま公開情報から拾える材料です。どう見るかはご自身で。投資の判断はご自身の責任で行ってください。
※ 材料の数は左右5件ずつで揃えています。上記は開示情報の要約であり、どちらが重要かの判断や将来の予測は行っていません。棚卸資産=売るために持っている製品や、つくりかけの品物、材料などのことです。評価減=在庫の値打ちが下がったときに、帳簿の金額を引き下げて、その分を費用にすることです。
7️⃣ これから何を見れば分かるか
次の決算(2027年3月期 第2四半期)の発表日は、当サイトの決算予定データ earnings-calendar.json に載っておらず、当サイトでは一次情報で確かめられなかったため、日付は書きません。会社のIRサイトでご確認ください。会社は有報で、中期経営計画(2024〜2026年度)で重視する経営指標を、売上高・営業利益率・当期利益・投下資本利益率(ROIC:事業に使っているお金に対して、どれだけ利益を出したかの割合)・基本的1株当たり当期利益(EPS)とし、2025年10月にこれらの目標を上方修正したと書いています。なお、目標は会社の計画であり、有報は修正後の目標に、その時点の会社の業績予想を加味したと注記しています(この記事では目標の数字は書きません)。2026年度はこの計画の最終年度です。この記事で挙げた材料がその後どうなったかは、次の開示で確かめられます。
- 売上高と、SoC・メモリの内訳:第84期は売上高 約1兆1,286億円・SoC 約7,674億円・メモリ 約1,715億円。AI関連と、会社が「軟調」と書いた自動車・産業機器関連など成熟半導体向けの動きの違い
- 利益率:第84期は売上原価率35.7%・営業利益率44.2%。会社が挙げた「製品ミックスの良化」がその後どう書かれるか
- 顧客と地域の偏り:第84期は上位5社で約50%・1社が20.2%・台湾が約50.5%。相手先別・地域別の数字は、次の有報(第85期)で確かめられます
- 本業以外の項目:第84期の利益に含まれたコールオプションの評価益や事業の譲渡益のような項目が、次の期にあるかどうか
- 生産能力の増強と在庫、株主還元:社債の手取り金の使い道(生産能力・在庫・開発)の進み方、在庫の金額、配当(年間30円を最低限とする方針)と自己株式の取得(取得期間は2026年10月28日まで)の実績
有価証券報告書はEDINET(金融庁の開示システム)、適時開示はTDnetで、どちらも無料で見られます。決算短信と有価証券報告書の違いはこちらの解説にまとめています。ROIC(投下資本利益率)=事業に使っているお金に対して、どれだけ利益を出したかの割合です。
8️⃣ まとめ
結論は出しません。この記事で確かめた公開情報をふまえ、次の決算・開示で見るべき指標はこの3つです。①売上高とSoC・メモリの内訳(AI関連と成熟半導体向けの動きの違い)、②顧客と地域の偏り(上位5社・1社への売上の割合と、台湾・中国の割合)、③利益率と本業以外の項目(売上原価率・営業利益率と、評価益などの項目のあるなし)。どう評価するかは、読者ご自身の判断に委ねられます。
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⚠️ 当サイトは金融商品取引業者ではなく、投資助言・代理業の登録もしていません。本記事は金融庁の開示システム(EDINET)に提出された有価証券報告書などの一次情報に基づく情報提供であり、特定銘柄の売買推奨や投資助言ではありません。目標株価の提示、将来の業績・株価の予測、株価水準に関する評価的な断定は行っていません。会社の方針・目標・計画・見方として引用した内容は、あくまで「会社がそのように公表している」という事実の紹介です。文中に出てくる会社の種類は、産業の構造を説明するための一般名で、特定の会社の株式をおすすめするものではありません。投資には元本割れのリスクが伴います。投資判断はご自身の責任で行ってください。