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🎓 巨匠の教えをデータで検証 #6
デュアルモメンタム原典回帰——「資産クラス乗り換え」を円建て21年で検証したら、単一資産の最良に届かなかった。ただし暴落の深さは株の半分だった

カテゴリ:🎓 巨匠の教えをデータで検証  |  公開:2026年7月15日  |  読了:約11分

このシリーズは、投資の有名な教えを「読んで感心する」のではなく、検証できる形のルールに翻訳して、データで確かめる連載です。第1回はグレアムの安全域(防御が再現)、第2回は順張りの教科書、第3回はバフェットの「質」、第4回は世界の有名手法12仮説、前回・第5回は売買パターン5手法と「検証の検証」(訂正報告)を見てきました。

第5回で検証したデュアルモメンタムには、宿題が残っていました。前回は原典の設計(資産クラスの乗り換え)を個別株に翻訳して検証し、基準を満たさなかったのですが、記事中でこう書いています——「原典が資産クラス(指数)の乗り換えを想定した設計であることを考えると、個別株への翻訳では二段構えのうち一段が最初から空回りしていた」。つまり、「翻訳が悪かっただけで、原典どおりなら通用するのでは?」という反論が可能でした。今回はその宿題に正面から答えます。原典の土俵——資産クラスの乗り換え——に戻し、日本の投資家の実感に合わせて全資産を円建てに換算し、約21年の月次データで確かめました

⏱️ 30秒でわかる今回のまとめ

① 前回#5で個別株翻訳が基準を満たさなかったデュアルモメンタムを、今回は原典どおり資産クラス乗り換え(日経225・S&P500・金+退避先の米中期債)・円建て・約21年で再検証した
② 判定基準は検証前に登録——両期間で「シャープレシオ0.6以上」「最大下落25%以内」「単一資産の最良超え」の3条件。結果は両期間とも基準を満たさなかった(前半はシャープレシオ0.391で3条件とも未達、後半は1.330と健闘したが金の1.450に届かず)
③ ただし株式と比べると最大下落は約半分(前半-35.4% vs 日米株-58〜-62%)——シリーズで繰り返し見てきた「守りの部分効果」は今回も観察された
④ 前半の最良は米中期債、後半の最良は——期間ごとに最良の単一資産が入れ替わった。「乗り換え」も難しいが「最初から当てる」のも難しい
⑤ 数字はすべて乗り換えコスト込み・税引前・過去データの観察であり、将来の成果を保証するものではない

① デュアルモメンタムとは——今度は原典の土俵で

ゲイリー・アントナッチは米国の投資研究家で、2014年の著書『Dual Momentum Investing』(邦題『ウォール街のモメンタムウォーカー』)でデュアルモメンタムを広めました。名前のとおり、2種類のモメンタム(勢い)を組み合わせる二段構えです。

原典の代表形はGEM(Global Equities Momentum)と呼ばれ、米国株・米国外株・債券という「資産クラス」を月次で乗り換えます。攻めるときは最も勢いのある株式市場に乗り、市場全体が下り坂なら債券に逃げる——攻守を1つのルールで自動化する発想で、米国の個人投資家に広く知られています。

前回#5では、これを日本の個別株ユニバースに翻訳して検証し、基準を満たしませんでした。しかも検証の過程で「個別株の12ヶ月リターン上位20%は常にプラス=絶対モメンタムのレッグが一度も働かない」という設計上の空回りも見つかりました。今回は翻訳をやめ、原典の設計思想そのまま——資産クラスの月次乗り換け——を検証します。日本の投資家の実感に合わせて、すべての資産を円建てに換算しました。

毎月末の判定フロー(今回検証したルール) 毎月末に円建てで 12ヶ月リターンを計測 日経225・S&P500・金 相対モメンタム 3資産のうち12ヶ月 リターン最大を選ぶ 絶対モメンタム その資産の12ヶ月 リターンは 0%超? 0%超 0%以下 その資産を 翌月1ヶ月保有 米中期債へ 退避 翌月末に同じ判定を繰り返す。保有資産が替わる月は乗り換えコスト0.2%を控除(約21年で57回)
図1:今回検証したデュアルモメンタム(GEM型・円建て)の毎月の判定フロー。相対モメンタムで「どれを持つか」、絶対モメンタムで「そもそもリスク資産を持つか」を決める。※ルールの構造を示す概念図です。

② 検証の土俵——ルール・データ・事前に決めた合格基準

ルールと合格基準は、結果を見る前に登録して固定しました。検証しながら基準を動かすと、どんな手法でも「合格」に見せられてしまうからです。

項目内容
リスク資産日経225・S&P500・金(3本)。退避先=米中期国債ETF(IEF・分配金込みで評価)
円建て換算米ドル建て資産はドル円レートを掛けてすべて円建てに統一(日本の投資家の損益実感に合わせる)
ルール毎月末、12ヶ月リターン最大のリスク資産を選ぶ(相対)→ その12ヶ月リターンが0%以下なら米中期債へ退避(絶対)→ 翌月1ヶ月保有。物差しは12ヶ月のみ・パラメータ探索なし
データ月末値・2003年〜2026年6月(円換算の共通期間282ヶ月)。判定対象は前半2005〜2018年(168ヶ月)/後半2019〜2026年6月(90ヶ月)
コスト乗り換え1回につき0.2%控除(売り0.1%+買い0.1%)。乗り換えは全期間で57回発生(リスク資産間と退避先への乗り換えの合計)。税金は未控除
合格基準(事前登録)前半・後半の両期間で①シャープレシオ0.6以上 ②最大下落25%以内 ③シャープレシオが単一資産B&H(4資産・円建て)の最大値を上回る——の3条件すべて
💡 シャープレシオは「リターン÷値動きの荒さ」で、同じリターンなら揺れが小さいほど高くなる効率の指標です(本記事では月次リターンから年率換算)。最大下落(最大ドローダウン)は、期間中の高値から最も深く沈んだときの下落率。B&HはBuy&Hold=最初に買ってずっと持ち続けることです。

基準③——「単一資産の最良超え」——がこの検証の背骨です。乗り換え戦略は、コストと手間と(実際の運用では)乗り換えのたびの課税という複雑さを受け入れる道具です。その複雑さの対価が「構成資産のどれか1本をただ持ち続ける」に勝てないなら、この道具を選ぶ積極的な理由がない——という考え方を、結果を見る前に基準として固定しました。

以下の数字はすべて乗り換えコスト控除後・税引前で、過去データの観察であり将来の成果を保証しません。また本記事は特定の手法の採用や特定の資産の売買を推奨するものではありません。

③ 結果——両期間とも「単一資産の最良」に届かなかった

結論から言うと、前半・後半とも基準を満たしませんでした。ただし2つの期間で「落ち方」はまったく違います。

前半(2005〜2018年・168ヶ月)——3条件すべて未達

指標戦略(乗り換え)日経225S&P500米中期債
シャープレシオ0.3910.3050.4100.5780.619(最良)
最大下落-35.4%-58.3%-61.6%-30.0%-14.5%
年率リターン+5.4%+4.0%+5.9%+8.5%+4.9%

前半はリーマン・ショック(2008年)を含む14年です。戦略のシャープレシオ0.391は、合格ラインの0.6に届かず、S&P500(0.410)にも僅差で及ばず、金(0.578)・米中期債(0.619)には明確に届きませんでした。最大下落-35.4%も「25%以内」の基準を超過——毎月の判定と12ヶ月という長い物差しでは、急落のすべては避けきれなかったことを意味します。3条件すべて未達でした。

後半(2019〜2026年6月・90ヶ月)——健闘したが、金に届かず

指標戦略(乗り換え)日経225S&P500米中期債
シャープレシオ1.3300.9861.2431.450(最良)0.958
最大下落-14.2%-20.0%-21.0%-19.8%-8.6%
年率リターン+21.3%+18.2%+21.9%+22.7%+6.5%

後半の戦略は、数字だけ見れば健闘しています。シャープレシオ1.330・最大下落-14.2%で、基準①②はクリア。4資産のうち3本(日経225・S&P500・米中期債)を上回りました。しかし、この期間の最良だった金(1.450)には届かず、基準③が未達——事前登録した「両期間で3条件」は成立しませんでした。なお後半は日米株も金も年率2割前後という歴史的に見て非常に強い地合いで、この水準のリターンが今後も続くことを示すものではありません。

シャープレシオ比較——どちらの期間も「単一資産の最良」が上にいた 前半 2005〜2018 後半 2019〜2026/6 合格ラインの1つ=0.6 0.391 0.305 0.410 0.578 0.619 1.330 0.986 1.243 1.450 0.958 戦略 日経 S&P 中期債 戦略 日経 S&P 中期債 青=乗り換え戦略/緑=その期間の最良の単一資産(前半=米中期債・後半=金)。円建て・コスト込み・税引前
図2:シャープレシオの比較。前半の最良は米中期債(0.619)、後半の最良は金(1.450)で、乗り換え戦略(青)はどちらの期間も最良の単一資産(緑)に届かなかった。数値は本文の表と同じ。※過去データの観察であり将来の成果を保証しません。

それでも残ったもの——株式に対しては最大下落が約半分

基準は満たしませんでしたが、記録しておくべき観察が1つあります。前半の戦略の最大下落は-35.4%で、日経225(-58.3%)・S&P500(-61.6%)のおよそ半分でした。後半も-14.2%と、株式2本(-20〜-21%)より浅い。絶対モメンタムによる退避は、リーマン級の暴落を「無傷」にはできなかったものの、株式を持ちっぱなしにするよりは傷を浅くした——という部分効果です。ただし公平のために言えば、金(-30.0%/-19.8%)や米中期債(-14.5%/-8.6%)の最大下落は、戦略と同等かさらに浅い水準でした。

最大下落の比較——株式より浅いが、「25%以内」には前半届かず 前半 2005〜2018 後半 2019〜2026/6 合格ラインの1つ=-25%以内 -35.4% -58.3% -61.6% -30.0% -14.5% -14.2% -20.0% -21.0% -19.8% -8.6% 戦略 日経 S&P 中期債 戦略 日経 S&P 中期債 下に伸びるほど下落が深い。青=乗り換え戦略/赤=株式。前半の戦略は株式の約半分の深さだが、-25%ラインは超過
図3:最大下落の比較。前半(リーマン・ショックを含む)の戦略は-35.4%と株式(-58〜-62%)の約半分に収まったが、事前基準の「-25%以内」には届かなかった。※過去データの観察であり将来の成果を保証しません。

④ 読み解き——乗り換えの価値はどこで消えたのか

「12ヶ月×月次」は遅い物差し

前半の最大下落-35.4%が示すのは、逃げ遅れと乗り遅れです。12ヶ月リターンという長い物差しは、急落の初動ではまだプラス圏にあり(=逃げるのが遅れる)、底からの反発の初動ではまだマイナス圏にあります(=戻りに乗るのが遅れる)。さらに判定は月1回なので、月の途中の急変には無反応です。急落を丸ごと避けて反発を丸ごと取る——という理想図とは、構造的に距離があります。これは一般に指摘されるモメンタム戦略の弱点で、今回の結果もそれと整合的でした。

「単一資産の最良超え」は厳しすぎる基準か

そう感じた読者もいるはずです。実際、後半の戦略は4資産中3本に勝っており、決して出来の悪い数字ではありません。それでもこの基準を事前に置いたのは、②で述べたとおり乗り換えという複雑さ(コスト・手間・実運用では乗り換えのたびの課税)の対価を測るためです。そして公平に言えば、この基準は「後出しなら簡単」でも「事前には難しい」ものです——前半の最良は米中期債、後半の最良は金と、期間ごとに顔ぶれが入れ替わりました。「最初から金だけ持てばよかった」は後知恵であり、2005年の時点でそれを当てる方法はこの検証の外側にあります。乗り換え戦略は「事前にどれが最良か分からない」問題への1つの答えではある。ただ、この21年・この設計・円建てでは、その保険料(リターンの目減り)が最良資産との差として残った——というのが今回の観察です。

#5の宿題への答え

前回の個別株翻訳では、絶対モメンタムのレッグが一度も働かないという空回りがありました。今回の原典の土俵では、退避先を含む乗り換えが約21年で57回発生し、ルールは設計どおり作動しています。それでも事前基準には届かなかった——つまり「#5の結果は翻訳が悪かっただけ」という説明は、少なくとも円建て・この設計・この期間では支持されませんでした。個別株翻訳(#5)と原典回帰(#6)の両方で基準未達、というのが2回分を合わせた記録です。

⑤ 学び——「何と比べるか」で切替戦略の評価は一変する

今回の検証から、一般論として(特定の行動の推奨ではなく)持ち帰れるものを3つにまとめます。

切替・配分系の戦略を見るときのチェック
比較相手は誰か——切替戦略の紹介は「対株式」の比較が定番で、それなら今回も最大下落半減で立派に見える。だが「構成資産の中で最良だった1本」と比べると景色が変わることがある。前回#5の3点チェック(対照群・期間分割・独立性)に、この1問を加えたい
何建てで計算されているか——米ドル建ての教科書の数字は、為替を挟んで円建てに直すと変わり得る。円で暮らす投資家にとって実感に近いのは円建ての数字
コストと税金は入っているか——乗り換え戦略は回転が多いぶん、コスト・税の影響を構造的に受けやすい。今回はコスト0.2%/回は入れたが税は入れていない。実際の手取りは掲載の数字よりさらに目減りし得る

そしてシリーズを通した構図が、今回もまた繰り返されました。リターンの上乗せ主張は基準を満たさず、下落の浅さ(対株式)だけが観察として残る——第1回のグレアムの安全域、第4回の低ボラティリティ、第5回のダーバス系の暴落率に続き、6回分のデータが同じ方向を向いています。「稼ぐ力より守る力のほうがデータは素直」。この連載の暫定的な結論は、今回も変わりませんでした。

⑥ この検証の限界

本記事の数値はすべて過去データの検証であり、将来の成果を保証するものではありません

⑦ 当サイトでの活かし方

「事前に基準を決めてから確かめる」「基準に届かなければ届かなかったと書く」という今回の流儀は、当サイトの他のコンテンツと共通です。

シリーズは今後も、世界の手法カタログの残りと、検証済みの部品の組み合わせを、同じ流儀——事前登録と正直な報告——で確かめていく予定です。

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