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🧪 AIシグナル研究日誌 #3
切り番フィルタは空振り——でも掘り下げたら「方向の交絡」という別鉱脈が見えた

カテゴリ:🧪 AIシグナル研究日誌  |  公開:2026年6月12日  |  読了:約10分

毎回ひとつの仮説だけを実データで検証し、勝っても負けても全公開する研究日誌の第3回です。前回(#2)では「上昇トレンド中の逆張りロング=押し目買い」が4時間足で76.5%という有望な数字を示しました。ただし件数が少なく、銘柄の偏り(指数に集中)という宿題が残りました。

今回はその宿題に正面から向き合います。「銘柄グループによって勝率は違うのか」「金(ゴールド)では切り番(50ドル刻みの節目)の近くで逆張りが有効なのか」——という2層の仮説を628件のデータで掘り下げました。

⏱️ 30秒でわかる今回のまとめ

① 主仮説「金(GC=F)は切り番近傍で逆張り勝率が上がる」→ 空振り。切り番近傍でも16.7%、遠くても5.9%。どちらも損益分岐43%に届かなかった
② しかし切り番の近い・遠いよりもっと大きな差が見つかった——GC=Fのロングは12.8%、ショートは61.1%という方向差
③ これは#2で見つけた「下降トレンドで逆張りロングは落ちるナイフ」と完全に一致する構造だった
④ グループ別では指数×逆張りが52.3%(CI下限40.4%)他FX×逆張りが54.2%(CI下限41.7%)と継続観察に値する数字。どちらもCI下限はまだ43%未満で「確定」ではない

① 今回の仮説——「金は切り番が節目になる」

前回の検証で見えた「銘柄の偏り」から、今回の仮説が生まれました。前回の「押し目買い53件」は株価指数が中心で、金(GC=F)や銀(SI=F)は「落ちるナイフ」の下降グループに集まっていました。

そこで立てた仮説がこれです。「金・銀のような商品(コモディティ)は、4,400ドル・4,500ドル・4,550ドルといった50ドル刻みの切り番(節目)で機関投資家の大口指値が集まりやすく、そこで反発シグナルが出た場合、切り番から離れた場所より勝率が高いはずだ」

💡 切り番(キリ番)とは
価格チャート上の「心理的な節目」のこと。金なら$4,500、$4,550のように50や100の倍数になる価格。買い注文や売り注文が集中しやすく、相場が反応しやすいと言われます(ただし必ず反応するわけではありません)。

同時に、「指数(日経・S&P500など)は切り番よりトレンドの文脈が重要」という比較仮説も合わせて検証しました。

仮説合格基準(事前宣言)
金銀の切り番効果切り番近傍(0.5%以内)の勝率が遠い場合より+10%pt以上高く、かつ近傍の勝率が43%超え、かつN≥15
指数では切り番効果が弱い指数の切り番近傍 vs 遠いの差が、金銀の差より小さい

② 検証方法(「もしも計算」と事前宣言)

前回と同じ「もしも検証」の手順です。過去データを見て「もしこの条件だったら、勝率はどうだったか?」を計算します。

項目内容
データ勝敗確定済みの628件(tp1またはslに到達済み)
期間2026年5月20日〜6月12日(約3週間)
切り番の定義GC=F(金先物)→50ドル刻み(4,350・4,400・4,450…)。SI=F(銀先物)→0.5ドル刻み。エントリー価格が最寄りの切り番まで0.5%以内なら「近傍」
損益分岐43%(これを下回るとTP1:SL=1.33のR:Rでも期待値がマイナス)
ブレ幅の表示Wilson法による95%信頼区間(ブレ幅)を全数字に併記

③ 結果①:切り番効果は空振りだった

金・銀の逆張りシグナル53件を「切り番近傍(36件)」と「切り番から遠い(17件)」に分けて比較した結果です。

区分件数勝率ブレ幅(95%CI)判定
切り番近傍(0.5%以内)3616.7%7.9〜31.9%❌ 大幅未達
切り番から遠い(0.5%超)175.9%1.0〜27.0%❌ さらに低い
金・銀の逆張りシグナル:切り番の効果は? 損益分岐 43% 切り番 近傍(36件) 16.7% 切り番 遠い(17件) 5.9% ※ ブレ幅(CI)は重なっており、どちらも損益分岐43%に大きく届かない
図1:切り番近傍(0.5%以内)vs 遠いで分けた勝率。近傍の方が11pt高いが、どちらも43%に全く届かず「合格」の条件を満たさない。メタルの切り番効果は確認できなかった。※ 概念を示すイメージ図です。

切り番近傍の方が遠いより約11ポイント高い(16.7% vs 5.9%)ことはわかります。ただし両方とも43%に全く届いておらず、かつ「N≥15かつ43%超え」という合格基準の半分(43%超え)をどちらも達成できていません。

今回の主仮説:棄却
切り番効果は確認できませんでした。近傍でも遠くても、金銀の逆張りシグナルはこの期間の損益分岐を大きく下回り続けました。

④ 結果②(副産物):グループ差という大きな発見

主仮説が空振りだったとわかったとき、「そもそもメタル(金銀)はなぜこんなに低いのか」という疑問が生まれました。比較のために全6グループ × 逆張り/順張りの成績表を計算してみたところ、見過ごせない差が浮かんできました。

グループ×シグナル種別件数勝率ブレ幅判定
メタル(金銀)× 逆張り5313.2%6.5〜24.8%❌ 最低グループ
メタル(金銀)× 順張り3836.8%23.4〜52.7%❌ 未達
指数(日経・S&P等)× 逆張り6552.3%40.4〜64.0%🟡 CI下限40.4%(基準未達だが有望)
指数 × 順張り7238.9%28.5〜50.4%❌ 未達
他FX(ドル円以外)× 逆張り5954.2%41.7〜66.3%🟡 CI下限41.7%(基準未達だが有望)
他FX × 順張り10743.0%34.0〜52.5%❌ ぎりぎり未達
原油 × 逆張り1471.4%45.4〜88.3%✅ N=14と少ない
BTC × 逆張り3020.0%9.5〜37.3%❌ 低い
「逆張り」シグナルの勝率はグループによって大きく違う 損益分岐 43% 原油逆張り (14件) 71.4% 他FX逆張り (59件) 54.2% 指数逆張り (65件) 52.3% BTC逆張り (30件) 20.0% メタル逆張り (53件) 13.2% ※ 原油14件はブレ幅大(45〜88%)。指数・他FXはCI下限がまだ43%未満。詳細は本文の表を参照
図2:「逆張り」シグナルだけを取り出してグループ別に比べると、最高(原油71.4%)から最低(メタル13.2%)まで約60ポイントの差がある。同じシグナルでも「何に使うか」で成績が真逆になる。※ 概念を示すイメージ図です。

ここで目立つ構造があります——逆張りが有望なのは指数と他FX、逆に順張りよりも逆張りの方が成績が良い。一方、メタルとBTCは逆張りが壊滅的です。この差の正体を次のセクションで掘り下げます。

⑤ 結果③:GC=Fを方向別に割ったら驚きの数字が出た

メタル(金銀)の逆張りが13.2%という低さだったことに違和感を覚えて、その中心である金(GC=F)について「ロング(買い)とショート(売り)を分けたらどうなるか」を確かめてみました。

方向(GC=F全シグナル・順張り含む)件数勝率ブレ幅判定
GC=F ロング(買い)4712.8%6.0〜25.2%❌ 壊滅的
GC=F ショート(売り)1861.1%38.6〜79.7%🟡 有望
GC=F(ゴールド):同じ銘柄でも方向で勝率が逆転 損益分岐 43% ロング(買い) 47件 12.8% ショート(売り) 18件 61.1% 差は約48ポイント。ロングとショートで全く別の銘柄のような成績差になった
図3:ゴールド先物(GC=F)の全シグナルを「買い(ロング)」と「売り(ショート)」に分けた。同じ銘柄・同じ検出ロジックでも約48ポイントの差がある。この差はどこから来るのか?(=後述の「交絡」。方向そのものが優位なのではなく、トレンド環境による見かけの差の可能性が高い) ※ 概念を示すイメージ図です。

ロング12.8%、ショート61.1%——同じ銘柄、同じシグナルの仕組みなのに約48ポイントの差。これを見て「なんだ、答えは方向だったのか」と感じるかもしれません。でも少し立ち止まって考えます。「なぜ方向でこんな差が出るのか?」

⑥ #2との接続——「交絡」という言葉で整理する

ここで第2回の話が戻ってきます。前回の結論は「上位足(より長い時間軸のトレンド)が下降しているとき、逆張りのロング(買い)は"落ちるナイフ"になりやすい」でした。

今回の結果もそれと同じ構造です。この3週間、金(GC=F)は下降トレンドにありました。その環境でシステムが出した逆張りのロング(「売られすぎ反発」「バンド下限タッチ」)は、ことごとく下げ続ける相場に飲み込まれました。逆に、下降トレンドに乗った逆張りのショートは「流れに沿った順張り」として機能したのです。

「逆張りシグナル」でも、トレンドの方向で全然違う GC=F:下降トレンド中にロング 「売られすぎ」でロング → 下げ継続で損切り (12.8%) GC=F:下降トレンドでショート 「買われすぎ」でショート → 下落継続でTP1到達 (61.1%)
図4:同じ「逆張りシグナル」でも、下降トレンド中のロングは"落ちるナイフ"(損切り連発)、下降トレンドに沿ったショートは"順張りの形"として機能する。切り番の近い・遠いより、この構造の方が成績を決めていた。※ 概念を示すイメージ図です。

これを統計の言葉で「交絡(こうらく)」と呼びます。「切り番の効果を見たかった」のに、実は「トレンド方向」という別の要因が大きく影響していた——切り番近傍かどうかよりも、トレンドに逆らっているかどうかの方がはるかに大きな差を生んでいたのです。

「切り番近傍の逆張りロングが16.7%で、遠い逆張りロングが5.9%だった」——しかし切り番効果を測りたいなら、トレンド方向が同じ条件同士で比べる必要があります。今回のデータでは、近傍の方がたまたま「下降トレンド中のショート」を多く含んでいた可能性があります。この点の切り分けは次回以降の課題です。

⑦ 今回の決定事項

項目決定理由
メタル切り番効果(主仮説)棄却切り番近傍でも16.7%・遠くても5.9%。どちらも43%に届かず。方向の交絡が大きい
指数×逆張り(52.3%)継続観察(前向きトラッカー登録)CI下限40.4%(43%未満)。有望だが「トレンドが上昇だったから」の交絡を切り分けるデータが必要
他FX×逆張り(54.2%)継続観察(前向きトラッカー登録)同上。CI下限41.7%(43%未満)
GC=F ショート(61.1%)次回の検証テーマに(売買推奨ではない)N=18と少なくCI下限38.6%で43%未達。ロング12.8%との対比が鮮明なため、交絡の切り分けを次回検証する
sr_runway.blocked効果バックログへ追加blocked=37件で51.4%。unblocked(265件)の39.2%と差あり。N不足のため次回以降

📡 前向きトラッカー定点観測

これまでの連載で宣言した「将来のデータで確認する基準」の現在値です。

ID仮説・指標宣言基準現在値(2026-06-12)状態
a 押し目買い4h
(#2の主仮説)
2026-06-11以降の新規決済でN≥30かつ勝率50%超 N=0(upper_tf_trendフィールドが未記録のため計測開始待ち)
b〜e regime/chasing_downgrade/discipline_filter/edge_tier 各基準は台帳参照 フィールド未記録(全N=0)
f もみあい中の逆張りL
(#2の基準34.3%)
新規データ蓄積後に34.3%から改善/悪化を確認 直接計測不能。代理値:全逆張りL 40.8% N=277(#2比較+6.5pp)
g 指数×逆張り
(今回新設)
累計N≥80かつCI下限43%超を維持 52.3% N=65 CI[40.4〜64.0%]
CI下限40.4%(43%未達)
🟡 蓄積中
h 他FX×逆張り
(今回新設)
累計N≥80かつCI下限43%超を維持 54.2% N=59 CI[41.7〜66.3%]
CI下限41.7%(43%未達)
🟡 蓄積中
📝 upper_tf_trendフィールドについて
第2回で「上位足トレンド」の前向き検証を宣言しましたが、現在のシグナルログにはこのフィールドが記録されていないため、トラッカー(a)〜(f)の一部は直接追跡できない状態です。今後のシステム側での記録追加を待つか、代替計算方法を検討します。

⑧ 次回に向けて

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