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📚 解説記事
⚠️ 本記事はエントリー(買う・売るタイミング)の決め方についての考え方や、公開されている研究の紹介を目的とした「情報提供」であり、特定の手法・銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

🕘 東京の「仲値」(9時55分)では、なぜドルが上がりやすい? 注文の片寄りを調べた研究でわかっていること【エントリー方法の研究 #24】

公開:2026年10月18日 / 読了時間:約 10 分 / カテゴリ:🚪 エントリー方法の研究

日本の外国為替(FX)市場には、「仲値(なかね)」と呼ばれる、1日の中の決まった基準値段を作る仕組みがあります。東京時間の午前9時55分ごろの値段をもとに、各銀行がそれぞれ自分の基準値段(仲値)を決め、午前10時に発表するという仕組みです。この仲値の前後で、ドルが上がりやすい(円が下がりやすい)という片寄りを、取引1件ごとの高頻度データで調べた研究があります。この回では、その研究と、研究があげている理由を取り上げます。

📌 この記事の結論(30秒まとめ)

1️⃣ どんな方法か

※以下は考え方を説明するための仮の例です。日本の銀行は、毎営業日の午前9時55分ごろの銀行間市場での自分の取引値段をもとに、その日1日の顧客向けの基準値段(仲値)を自分で決めて、午前10時に発表します。ここで紹介する考え方は、「仲値が決まる前のわずかな時間にドルを買っておき、仲値の時点で売りに切り替える」というものです。たとえば、午前9時50分ごろにドル円を買っておき、午前9時55分の仲値のタイミングで売りに切り替えて数分間持つ、という組み方が考えられます。あくまで「このような考え方に基づく組み方もありうる」という例であり、特定の時間帯での売買を勧めるものではありません。

この回で取り上げる研究が注目したのは、まさにこの「仲値という決まった時刻の仕組みが、値動きそのものに、どのような片寄りを生むか」という点です。前回(#23)で取り上げた「通貨は自国の取引時間帯に下がりやすい」という、1日を通した時間帯のかたよりとは別に、仲値は「1日の中の、ある特定の瞬間」に起きる現象として研究されています。取引時間そのものの基礎知識は関連記事をご覧ください。

2️⃣ 研究でわかっていること

伊藤隆敏氏・山田氏の研究(2017年発表、為替)

この研究(学術誌「ジャーナル・オブ・インターナショナル・エコノミクス」第109巻、2017年、214〜234ページに掲載。もとは2016年11月公開の、全米経済研究所のワーキングペーパー第22820号)は、東京の仲値の仕組みを詳しく調べました。東京の仲値は、ロンドンの仲値(決まった1分間〈午後4時の前後30秒〉の取引の中央値を、ロンドンの情報会社が全銀行共通の値段として算出する仕組み)とは違い、各銀行が自分自身の午前9時55分ごろの取引をもとに、自分だけの基準値段を独自に決める、という点が大きな特徴です。

研究は、2006年から2013年までの複数の主要な通貨ペア(ドル円・ユーロ円・ユーロドルなど)の取引1件ごとの高頻度データ(ドル円については1999年からのデータも使用)と、大手銀行2行が自ら公開している仲値のデータ(それぞれ1999年・2002年から2013年まで)を使いました。研究が報告した3つの「パズル(説明のつきにくい現象)」は次のとおりです。

①仲値の瞬間に、不自然なほど頻繁な「スパイク」が起きる。仲値が決まる午前9時55分(グリニッジ標準時0時55分)の1分間の窓では、値段が数秒で急に跳ねて、すぐに元の水準へ戻るという値動き(研究が「スパイク」と呼ぶもの)が、1分あたりの頻度でみて、おおむね4日に1回程度の頻度で起きたと報告されています。これは、同じように仲値の仕組みを持つロンドンの仲値(おおむね6.5日に1回程度)よりも高い頻度です。取引量や市場の状況(売値買値の差・注文の厚みなど)の違いを計算で取り除いても、東京の仲値の時間帯であることを示す指標は、値段が跳ねやすくなる方向にはっきりと効いていたと報告されています。研究は、このスパイクが起きている瞬間、むしろ市場の注文の厚み(すぐに取引できる量)は普段より多い状態だったとも報告しており、「注文が少ないから値段が跳ねた」という単純な説明では当てはまらないとしています。

②仲値の前後で、ドルが上がりやすいという片寄った値動きが、ある程度予測できる形で表れる。研究は、ドル円を仲値の5分前に買っておき、仲値の時点で売りに切り替え、そこから5分間売りで持つという仮の売買を、1999〜2013年(15年分)のデータで繰り返し試算しました。その結果、1回あたり平均で0.018%(1.8ベーシスポイント)程度のもうけになったと報告されています。この平均のもうけは、5日・10日・15日・20日・25日・30日といった決まった支払いの日(日本で「ゴトー日」と呼ばれる日)や月末の営業日にとくに大きくなったと報告されています。研究があげる理由は、輸入企業がドルなどの外国のお金を買う注文が、輸出企業がドルを売る注文より多くなりやすいという「注文の片寄り」です。

③銀行が発表する仲値そのものが、実際の取引値段からずれている。研究は、2つの大手銀行が発表した仲値を、仲値の1分間の窓での実際の取引値段(最高値・中央値)と比べました。2008年11月より前は、銀行が発表する仲値が、その日の取引の最高値よりもさらに平均0.025%(2.5ベーシスポイント)程度(30日間の移動平均でみて)高く設定される傾向があったと報告されています。2つの銀行の仲値のこのずれは、2008年より前は互いに80%程度の相関があったものの、2008年より後は50%未満に下がったと報告されています。研究は、このずれの大きさの一部が、ドルと円の金利差(銀行間取引の決済に2日かかることに伴う「スワップポイント」)で説明できるとしています。

午前9時55分の東京の仲値の前後で値段が盛り上がって見える、という考え方を示す概念図 仲値(9:55ごろ)の前後の値動き(概念図) 9:55 仲値 ゆるやかに上昇(先回りの取引) 仲値のあと、元の水準へ戻る動き 時間の経過(9時50分ごろから10時ごろまで・概念図)
図:東京の仲値の時刻(午前9時55分ごろ)に向けて値段がゆるやかに上がり、仲値の瞬間に跳ね、その後に戻る、という考え方の概念図。実際の通貨名・値動きではない。※概念を示すイメージ図です(実際の値動きではありません)。
当サイトとの関係: 当サイトのシグナルは、RSI(相対力指数:買われすぎ・売られすぎを0から100の数字で表す指標)・MACD(移動平均を使った売買のタイミングを示す指標)・移動平均・ボリンジャーバンド(値動きの幅から「広がりすぎ・狭まりすぎ」を見る指標)といった数値条件や、直近20本の高値安値のブレイクで判定しており、ここで紹介した「仲値という決まった時刻の仕組み」そのものを直接の条件にはしていません。また、ここで紹介した研究の期間・データ(2006〜2013年を中心とした銀行間の取引データ)と、当サイトのシグナルが対象とする期間は異なり、調べた通貨ペアの組み合わせ・足の長さ・取引コストの条件も一致しません。当サイトが仲値に関する検証を行う場合も、この研究の結果をその裏づけとしては扱いません。この記事で紹介した研究結果は、当サイトのシグナル(ドル円・ユーロ円・ポンド円・豪ドル円などのFXシグナルをふくむ)の有効性を裏づけるものではありません。

3️⃣ 反論・限界

この研究の結果には、いくつか注意すべき限界があります。まず、研究自身が、このスパイクが「銀行の不適切な行動」を直接意味するわけではないと述べています。東京の仲値は、各銀行が自分の取引の範囲内で自由に基準値段を決められる仕組みであり、銀行はその範囲内でヘッジ(為替変動の影響を抑える取引)の都合で値段を決めることが許されているためです。一方で、仲値そのものが実際の取引値段からずれていること(パズル③)については、研究は「銀行が予測できる利益を得ている可能性を示す」と述べており、顧客に見えない形で追加のコストを負わせている可能性を指摘しています。

次に、もうけの大きさの問題です。研究が試算した1回あたり平均0.018%(1.8ベーシスポイント)というもうけは、研究が使った当時の銀行間市場の売値買値の差とほぼ同じ大きさでした。つまり、銀行どうしが取引する市場のコストで考えても、ぎりぎり超えるかどうかという小さな差でした。個人投資家が実際に取引するときの手数料(スプレッド)は、銀行間市場よりも広いことが一般的で、同じ結果が個人の取引でも成り立つかどうかは、この研究からはわかりません。

さらに、研究が使ったデータは2013年までの期間です。外国為替市場の世界では、2013年に別の仲値(ロンドンの仲値)をめぐる銀行間の共謀が問題になり、2015年にロンドンの仲値の算出方法(1分間の窓を5分間に広げるなど)が見直されたと報じられています。この研究は東京の仲値を対象にしたものであり、東京の仲値の仕組みそのものがこの問題を受けて見直されたかどうか、また2013年より後もこの傾向が同じ強さで続いているのかどうかは、今回調べた範囲では確認できませんでした。銀行が発表する仲値の公開データも、2つの大手銀行の分のみが分析対象であり、日本のすべての銀行に同じ結果が当てはまるとまでは報告されていません。

4️⃣ 株・FX・コモディティでは?

ここで紹介した研究が、どの市場のデータを使ったかを一覧にします。研究が見当たらなかった市場は、推測で埋めず「この記事からはわかりません」としています。

市場研究はあるか何がわかっているか
為替(FX)あり伊藤氏・山田氏(2017年):ドル円・ユーロ円などの取引1件ごとのデータで、東京の仲値(午前9時55分ごろ)の前後の値動きの片寄りと、銀行が発表する仲値のずれを報告(研究が調べた2006〜2013年の期間・通貨ペアの範囲)
株価指数・個別株今回は見当たらず東京証券取引所の始値・終値の決め方(オークション方式)は銀行の仲値とは別の仕組みで、ここで紹介した「仲値」と同じ形で調べた研究は、今回の調査では見当たりませんでした
コモディティ(金・原油など)今回は見当たらずこの記事からはわかりません
暗号資産(ビットコインなど)今回は見当たらず暗号資産には、銀行が決める「仲値」のような決まった基準値段の仕組みがそもそも存在しないため、同じ考え方が当てはまるのかどうかも、この記事からはわかりません

日本株そのもの(個別株・株価指数)のデータを使った、仲値と同じ形の検証についても、今回の調査では見当たりませんでした。

5️⃣ よくある誤解

誤解1:仲値のタイミングでドルを買えば、いつも利益が出る

研究が報告しているのは、1999〜2013年(15年分)のデータでの「平均」の片寄りです。この平均のもうけ(1回あたり0.018%、1.8ベーシスポイント)は、研究が使った銀行間市場の取引コストとほぼ同じ大きさで、毎回同じ結果になることを示すものではありません。個人が実際に払う手数料を考えると、この片寄りが利益として残るかどうかは、この記事からはわかりません。

誤解2:東京の仲値とロンドンの仲値は、まったく同じ仕組みである

東京の仲値は各銀行が自分の取引を基準に独自に基準値段を決める仕組みであるのに対し、ロンドンの仲値はロンドンの情報会社が決まった1分間の取引の中央値を算出し、全銀行共通の値段として使う仕組みです。この違いが、東京の仲値で頻繁な「スパイク」が報告される一方、ロンドンの仲値では(取引量などの条件をそろえると)同じような頻度の増加が見られなかったという、研究が報告する違いにつながっているとされています。

誤解3:「ゴトー日にドルが上がりやすい」という話は、根拠のない都市伝説である

この回で紹介した研究は、ゴトー日(5日・10日などの決まった支払いの日)や月末に、仲値前後のドル高の片寄りが大きくなる傾向を、統計的な分析で報告しています。そのため「まったくの根拠のない話」とまでは言えません。ただし、研究が報告しているのは2013年までの平均的な傾向であり、効果の大きさも1回あたり0.018%(1.8ベーシスポイント)程度という小さなものです。「ゴトー日はいつも大きく動く」という強い言い切りを支持するものではありません。

この記事は、公開されている学術研究を当サイトが要約したものです。研究の数字は、それぞれの研究が使った期間・市場・条件のもとでの結果で、将来も同じになるとは限りません。多くの研究は取引コストや税金を十分にふくんでいないか、ふくみ方が研究ごとに違います。特定の方法を勧めるものではありません。
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6️⃣ まとめ

最後に、この記事の内容を整理します。

前回(#23)で見た「1日のどの時間帯に通貨が動きやすいか」という話と、今回の「1日の中の、ある決まった瞬間(仲値)で何が起きるか」という話は、どちらも「時間」という切り口から値動きを見直す回でした。次回(#25)は、このシリーズ全体に関わるテーマとして、「昔の研究でわかった傾向は、発表されたあとも同じ強さで続くのか」を取り上げます。

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📚 出典・参考文献

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