🔍 「過去に効いた」とされる売買のルールは、これからも効くの? 研究が教える疑い方のポイント【エントリー方法の研究 #25】
このシリーズでは、これまで24回にわたって、さまざまな売買のルールを研究の結果とともに紹介してきました。どの回にも、共通して出てきた注意点があります。「過去のデータで調べると効果が見つかった」という研究結果は、見つかった期間の外や、論文が発表された後も、同じ強さで続くとは限らない、という点です。この回では、個別のルールの話からいったん離れて、「過去に効いた」という研究結果そのものを、どう疑って読めばよいかを、研究が報告している数字とともに整理します。シリーズ全体の読み方を確かめる回です。
📌 この記事の結論(30秒まとめ)
- マクリーン氏・ポンティフ氏の研究(2016年発表、学術誌「ジャーナル・オブ・ファイナンス」第71巻1号に掲載)は、米国株のリターンを予測すると報告された97個の変数を調べ、それぞれの変数が見つかった期間の外で試すと、平均で26%低い効果しか見られず、さらに、その研究が論文として発表された後の期間では、平均で58%低い効果しか見られなかったと報告しています。
- 研究者たちは、26%の低下を、たくさんの変数を試したことによる統計的な偏り(たまたま良く見えた可能性)の大きさの目安とみなし、58%との差(32ポイント分)は、論文の発表を知った投資家がそれを売買に使うようになったことで、見つかっていた価格のずれが縮んだ可能性がある、としています。
- ハーベイ氏・リュウ氏・チュウ氏の研究(2016年発表、学術誌「レビュー・オブ・ファイナンシャル・スタディーズ」第29巻1号に掲載。もとは2014年公開の全米経済研究所のワーキングペーパー第20592号)は、これまでに数百本の論文が数百個の要因を試してきたことを踏まえ、新しく見つかった要因を信じるには、通常使われるt値(統計の世界で、見つかった差が偶然とは言いにくいかどうかを測る目安の数値)2.0より高い、t値3.0を超える必要があると述べ、これまで報告されてきた研究結果の多くは、誤りである可能性が高いと結論づけています。
1️⃣ どんな考え方か
※以下は考え方を説明するための仮の例です。たとえば、過去10年分のデータを使って「短い移動平均線が長い移動平均線を上に抜けたら買う」というルールを試したところ、良い成績が出たとします。ここで立ち止まって確かめたい問いが3つあります。①その良い成績は、試した期間のうち、たまたま良く見える部分だけを切り出したものではないか。②その良い成績を、試した期間とは別の期間のデータでも、もう一度確かめられるか(研究の言葉で「確かめた期間の外」で試すこと)。③その1つのルールだけを試したのか、それとも似たようなルールを何十種類・何百種類も試して、いちばん良かったものだけを取り上げたのか。この回で紹介する研究は、まさにこの3つの問いを、実際のデータで確かめたものです。
この問いは、個別の売買のルールだけに関わる話ではありません。これまでの回(#1から#24)で紹介した研究の多くも、程度の差はあれ、同じ構造の問いを抱えています。この回では、その構造そのものを調べた研究を取り上げます。
2️⃣ 研究でわかっていること
マクリーン氏・ポンティフ氏の研究(2016年発表、米国株)
この研究(学術誌「ジャーナル・オブ・ファイナンス」第71巻1号に掲載)は、それまでに発表された学術研究が「米国株のリターンを予測する」と報告した97個の変数を集め、それぞれの変数について、①もともとの研究が調べた期間の中での効果、②その期間の外で試した場合の効果、③その研究が論文として発表された後の期間での効果、の3つを比べました。その結果、期間の外で試すと、平均で26%低い効果しか見られず、論文が発表された後の期間では、平均で58%低い効果しか見られなかったと報告されています。
研究者たちは、この26%の低下を、たくさんの変数を試したことによる統計的な偏り(たまたま良く見えた組み合わせを選んでしまう問題)の大きさの、目安として解釈しています。そして、58%との差である32ポイント分については、論文が発表されたことで、その情報を知った投資家が実際に売買に使うようになり、見つかっていた価格のずれそのものが縮んだ可能性がある、としています。あわせて、もともとの効果が大きかった変数ほど、発表後の低下も大きい傾向があったこと、発表後は似たような変数どうしの動きがより似てくる傾向があったことも報告されています。
ハーベイ氏・リュウ氏・チュウ氏の研究(2016年発表、米国株)
この研究(学術誌「レビュー・オブ・ファイナンシャル・スタディーズ」第29巻1号、5から68ページに掲載。もとは2014年公開の全米経済研究所のワーキングペーパー第20592号)は、これまでに数百本の論文が、数百個の要因(ファクターと呼ばれる、株のリターンの違いを説明しようとする変数)を使って、株のリターンの違いを説明しようとしてきたことに注目しました。たくさんの要因を試せば、偶然だけで良く見える要因が出てきやすくなるため、通常使われる「t値2.0より大きければ、偶然とは言いにくい」という目安は、これだけ多くの要因が試されてきた分野では甘すぎるのではないか、というのがこの研究の問いです。
研究者たちは、1967年からこの論文の時点(2014年)まで、どれだけの要因が試されてきたかを踏まえた統計の仕組み(多重検定の枠組みと呼ばれる、たくさんの組み合わせを試したときに偶然良く見えるものが出やすくなることを計算で調整する手法)を作り、新しく見つかった要因を信じるには、t値3.0を超える必要があると述べています。この研究は、今後20年、これまでと同じくらいの速さで新しい要因の論文が発表され続けると仮定した場合の見通しにも触れ、これまでに報告されてきた研究結果の多くは、誤りである可能性が高いと結論づけています。
サリバン氏らの研究(1999年発表、米国の株価指数)との関係
このシリーズの#2(ブレイク)と#3(移動平均線の交差)で紹介したサリバン氏・ティマーマン氏・ホワイト氏の研究(学術誌「ジャーナル・オブ・ファイナンス」第54巻5号に掲載)も、同じ構造の問いを扱っています。米国の代表的な株価指数(ダウ平均)の1897年から1986年までのデータで、移動平均線の交差や高値・安値のブレイクなど7,846種類のルールを試し、統計的な調整(ブートストラップと呼ぶ、実際のデータを何度も並べ替えて偶然の差を測る方法)をした上でも、いちばん成績の良いルールには偶然とは言いにくい効果が残っていました。ところが、その同じルールを、もとのデータより後の10年間(1987年から1996年)で試すと、良い成績は続かず、偶然のちがいと見分けがつかないほどの結果になった、と報告されています。これは、今回紹介したマクリーン氏・ポンティフ氏の研究が報告した「期間の外で効果が縮む」という傾向と、同じ方向を向いた結果です。
3️⃣ 反論・限界
マクリーン氏・ポンティフ氏の研究には、いくつか注意すべき点があります。まず、この研究が比べた「期間の外」と「公表後」は、必ずしも別々の、きれいに分かれた期間ではありません。2つの数字の差(26%から58%への低下)を、そのまま「公表という出来事そのものの効果」と言い切ることについては、研究者自身も、いくつかの解釈がありうるとした上で、投資家が論文から学んで売買に使うようになった可能性を、もっとも整合的な説明として挙げています。別の解釈として、2つ目の期間がたまたま効果の出にくい時期だった可能性も、完全には排除できません。
次に、この研究が調べた97個の変数は、もともと別々の研究者が、別々の方法で見つけたものです。見つけ方の厳密さにも差があり、すべての変数について同じ強さの結論が成り立つとは報告されていません。また、この研究自体も、この論文が対象とした期間までに発表された変数を対象にしたものであり、それより後に発表された変数についても同じ傾向になるのかどうかは、この記事からはわかりません。
ハーベイ氏・リュウ氏・チュウ氏の研究についても、「t値3.0を超えるべき」という目安は、この研究者たちが作った統計の仕組みと仮定に基づく1つの目安であり、唯一の正解として学術の世界で合意されているわけではありません。研究自体も、今後の要因の見つかり方の速さについて仮定を置いた見通しを含んでおり、その仮定が外れれば、見通しの数字も変わる可能性があります。
4️⃣ 株・FX・コモディティでは?
この回で紹介した研究が、どの市場のデータを使ったかを一覧にします。研究が見当たらなかった市場は、推測で埋めず「この記事からはわかりません」としています。
| 市場 | 研究はあるか | 何がわかっているか |
|---|---|---|
| 株価指数・複数銘柄をまとめた検証(米国) | あり | マクリーン氏・ポンティフ氏の研究(97個の変数)、ハーベイ氏・リュウ氏・チュウ氏の研究(数百個の要因)、サリバン氏らの研究(ダウ平均、1897年から1986年と、その後の1987年から1996年の比較)は、いずれも米国の株またはそれをまとめた株価指数のデータを使っています |
| 個別の1つの会社の株式だけの検証 | この記事からはわからない | 紹介した研究は、いずれも複数の銘柄をまとめた変数・ルールが対象で、1つの会社の株式だけを対象にした確認ではありません |
| 為替(FX) | 今回は見当たらず | 「期間の外や公表後にどれだけ効果が縮むか」を、この記事で紹介した研究と同じ形で確かめた、為替市場を対象にした研究は、今回の調査では見当たりませんでした。シリーズ#4で紹介したテクニカル分析全体のレビュー研究は、為替市場でも利益が報告されたとしていますが、それは公表の前後を比べたものではなく、この記事の問いに直接答えるものではありません |
| コモディティ(金・原油など) | 今回は見当たらず | この記事からはわかりません |
| 暗号資産(ビットコインなど) | 今回は見当たらず | この記事からはわかりません |
5️⃣ よくある誤解
誤解1:論文に書かれた過去の研究結果は、これからも同じ強さで効くと思われがち
マクリーン氏・ポンティフ氏の研究が報告しているのは、調べた97個の変数について、平均で期間の外では26%、公表後では58%、効果が低くなったという結果です。研究によって効果が残りやすいものと、ほとんど残らないものの差もあり、「過去に効いた」という結果が、そのままの強さで続くとは報告されていません。
誤解2:たくさんの研究で「効果がある」と報告されていれば、それだけ信頼できると思われがち
ハーベイ氏・リュウ氏・チュウ氏の研究は、むしろ逆の注意を促しています。これまでに数百個の要因が試されてきたという事実そのものが、偶然だけで良く見える要因が出てくる可能性を高めています。研究の「数」が多いことは、それだけでは信頼性の高さを意味しません。
誤解3:公表後に効果が消えたのは、その研究の分析が間違っていたからだと思われがち
マクリーン氏・ポンティフ氏の研究は、公表後の低下の一部を、投資家が論文から学んで売買に使うようになったことによる、価格のずれの縮小として説明しています。これは、もとの研究の分析が間違っていたという話ではなく、研究結果が広く知られることで、市場そのものが変化した可能性がある、という話です。
6️⃣ まとめ
最後に、この記事の内容を整理します。
- マクリーン氏・ポンティフ氏の研究は、米国株のリターンを予測すると報告された97個の変数の効果が、見つかった期間の外では平均26%、論文の公表後では平均58%、低くなったと報告しています。
- ハーベイ氏・リュウ氏・チュウ氏の研究は、これまで数百個の要因が試されてきたことを踏まえ、新しい要因を信じるにはt値3.0を超える必要があるとし、これまでの研究結果の多くは誤りである可能性が高いと結論づけています。
- シリーズ#2・#3で紹介したサリバン氏らの研究でも、米国の株価指数で良い成績を見せたルールが、その後の10年間では成績が続かなかったと報告されており、同じ方向の結果です。
- これらの研究が対象としたのはいずれも米国株で、為替・コモディティ・暗号資産について、同じ形で効果の縮みを確かめた研究は、今回の調査では見当たりませんでした。
これで、このシリーズの25回がそろいました。次回(#26)は、この25回を一覧にする総まとめの回です。
🔗 関連記事
📚 出典・参考文献
- Harvey, Campbell R., Liu, Yan & Zhu, Heqing (2014) "...and the Cross-Section of Expected Returns", NBER Working Paper No.20592(全米経済研究所公式ページ。要旨本文を直接取得して確認。学術誌掲載版はThe Review of Financial Studies, Vol.29, Issue 1, 2016, pp.5-68)
- McLean, R. David & Pontiff, Jeffrey (2016) "Does Academic Research Destroy Stock Return Predictability?", The Journal of Finance, Vol.71, Issue 1, pp.5-32(学術誌掲載版の書誌情報。DOIリンク先は出版社ページ)
- Sullivan, Timmermann & White (1999) "Data-Snooping, Technical Trading Rule Performance, and the Bootstrap", The Journal of Finance 54(5)(出版社ページの要旨・要約で確認。1987年から1996年の期間での再検証の結果は、シリーズ#2・#3で確認済みの内容を引用)
⚠️ 当サイトは金融商品取引業者ではなく、投資助言・代理業の登録もしていません。本記事はエントリー(買う・売るタイミング)の決め方についての考え方と、公開されている学術研究の紹介を情報提供として整理したものであり、特定銘柄・特定手法の売買推奨や投資助言ではありません。研究の内容は当サイトによる要約です。正確な内容は各原文をご確認ください。記載の数値・方法による利益を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。