🧪 AIシグナル研究日誌 #6
「壁あり」シグナルの秘密はトレンド環境にあった——blocked × 相場環境の交絡解析
毎回ひとつの仮説だけを実データで検証し、勝っても負けても全公開する研究日誌の第6回です。前回(#5)では「TP1の前に壁(S/R)がある」と判定されるシグナル(blocked=True)が、直感に反して53.7%という高勝率を示しました。壁がないシグナルの38.9%を大きく上回る逆転現象でした。
「なぜそうなるのか」——今回はその謎に迫ります。鍵になると考えたのは「相場環境(トレンドかもみあいか)」です。トレンドが強い相場では価格が勢いよく動いてS/Rの壁も突き抜けやすく、もみあいの相場では壁が本当の「壁」として機能するのではないか、という仮説を検証します。
① blocked=True全体は53.7%(N=41)、blocked=False全体は38.9%(N=285)——前回の再確認
② 仮説通り: 上昇トレンドのblocked=Trueは63.6%、下降トレンドでも65.0%(下降でも高い、CI下限43%超)
③ もみあい(中立)のblocked=Trueは20.0%(N=10)——損益分岐43%を大幅に下回る逆転
④ 「blocked=Trueはトレンド相場の質フィルター」——もみあいで使うと逆効果になる可能性がある
① 今回の仮説——相場環境がblockedの成否を分けるか
前回の結果を簡単に復習します。AIシグナルシステムには「S/Rランウェイ」という機構があり、エントリーからTP1の間にサポート・レジスタンス(S/R)の壁があると判定された場合、そのシグナルを「blocked(壁あり)」と記録します。本来は「壁があると利益確定しにくい」と考えてフィルタリングのために設計されたものですが、実際の成績を見ると壁ありの方が成績が良いという逆転が起きていました(53.7% vs 38.9%)。
今回立てた仮説はこれです:
「blocked=True(壁あり)の優位性はトレンド相場(上昇・下降)に限定され、もみあい(中立)相場では失われる——あるいは逆転する」
事前合否基準(事前宣言・後から変えない)
① 下降トレンド×blocked=True のWilson CI(95%信頼区間)下限 ≥ 43%(下降でも効果が確認できる)
② 中立・もみあい×blocked=True の勝率 < 43%(もみあいでは効果が消失または逆転する)
← 両方の条件を満たして初めて「通過A:トレンド依存フィルターとして有効」
なぜ「下降でも」が重要な条件なのか。もしblocked=True効果が「上昇トレンドだから」だけの理由なら、それは単なる「上昇トレンドで成績が良くなる」という当たり前の話であって、blocked=Trueに独立した意味はないからです。上昇でも下降でも効果があることを確かめてはじめて、「トレンド状態×blocked=Trueに独自の意味がある」と言えます。
| 条件 | 合格基準(事前宣言) |
|---|---|
| 下降×blocked=True | Wilson CI下限 ≥ 43%(トレンドが下降でも壁が保護として機能) |
| 中立×blocked=True | 勝率 < 43%(もみあいでは効果消失 or 逆転) |
② 検証方法(「もしも計算」と事前宣言)
今回も「もしも検証」の手順です。過去データを見て「もしこの条件で絞り込んでいたら勝率はどうだったか」を計算します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| データ全体 | 勝敗確定済み(tp1/tp2/slのいずれかに到達)の652件 |
| うちsr_runway有り | 326件(sr_runwayフィールドが記録されているもの。blockedはこの中にしか存在しない) |
| うちblocked=True | 41件(上昇11件・下降20件・中立10件) |
| うちblocked=False | 285件 |
| トレンド判定方法 | signals-logの trend_alignment.higher_tf_trend フィールド(上昇/下降/中立・もみあいの3区分) |
| 損益分岐 | 43%(これを下回るとTP1:SL=1.33のR:Rで期待値がマイナス) |
| ブレ幅 | Wilson法による95%信頼区間を全数字に併記 |
③ 結果①:前回の再確認(全体blocked効果)
まず、前回(#5)の結果が変わっていないかを確認します。データは少し増えている可能性がありますが、基本構造は変わっていません。
| 区分 | 件数 | 勝率 | ブレ幅(95%CI) | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| blocked=True(壁あり) | 41 | 53.7% | 38.7〜67.9% | 🟡 損益分岐43%超 / CI下限38.7% |
| blocked=False(壁なし) | 285 | 38.9% | 33.5〜44.7% | ❌ 損益分岐43%未達 |
前回と同じ結果が確認できました。次にこの差が「トレンド環境」で説明できるかを掘り下げます。
④ 結果②(核心):トレンド×blocked で成績が激変
blocked=Trueの41件を「上位足トレンド(上昇・下降・中立)」で分割してみます。これが今回最大の発見です。
blocked=True × トレンド環境
| トレンド環境 | 件数 | 勝率 | ブレ幅(95%CI) | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 上昇トレンド | 11 | 63.6% | 35.4〜84.8% | 🟡 N少ないが有望 |
| 下降トレンド | 20 | 65.0% | 43.3〜81.9% | ✅ CI下限43.3% ≥ 43%(事前基準①通過) |
| 中立・もみあい | 10 | 20.0% | 5.7〜51.0% | ❌ 43%大幅未達(事前基準②通過) |
事前宣言した両条件がともにクリアされました:
- ①下降×blocked=True:65.0%、CI下限43.3% ≥ 43% ✅
- ②中立×blocked=True:20.0% < 43% ✅
トレンド相場(上昇・下降いずれも)では blocked=True の優位性が鮮明になる。もみあいでは逆効果になる傾向がある。
比較:blocked=False × トレンド環境
| トレンド環境 | 件数 | 勝率 | ブレ幅(95%CI) | blocked=Trueとの差 |
|---|---|---|---|---|
| 上昇トレンド | 68 | 39.7% | 28.9〜51.6% | blocked=T 63.6% → +23.9pp |
| 下降トレンド | 115 | 41.7% | 33.1〜50.9% | blocked=T 65.0% → +23.3pp |
| 中立・もみあい | 102 | 35.3% | 26.7〜44.9% | blocked=T 20.0% → −15.3pp(逆転) |
この表から浮かび上がるパターンがあります。トレンド相場(上昇・下降)では blocked=True が blocked=False より約23〜24ポイント上回っています。しかしもみあい(中立)では逆転し、blocked=True の方が15ポイントも低くなっています。
驚くべきことに、上昇トレンドと下降トレンドで勝率に大きな差がない(63.6% vs 65.0%)ことも重要な発見です。つまり「上昇相場だから壁を突き抜ける」という単純な話ではなく、相場に方向感がある(トレンドしている)こと自体がblocked=Trueを活かす条件である、という解釈が支持されます。
⑤ なぜトレンドで「壁」が突き破られるのか
今回の結果から、次のような解釈が考えられます(統計から推測できる仮説です。因果関係の証明ではありません)。
言葉で整理すると次のようになります。トレンド相場では、相場に強い一方向の勢い(モメンタム)があります。TP1の前にS/Rの壁があっても、このモメンタムが壁を突き抜けてTP1まで到達するケースが増えます。むしろ「S/R近くにエントリー価格がある」ことは、「価格が既にそのレベルを試している=勢いが本物」という証左でもあるかもしれません。
もみあい(中立)相場では、相場の方向感が定まらず、価格が狭いレンジで上下動します。この状況でS/Rの壁に差し掛かると、今度こそ壁が本当の天井や床として機能し、価格が反転してSLに向かいやすくなります。
⑥ 補足:グループ別での傾向(他FXが鮮明)
blocked=True効果をグループ別に見ると、「他FX(ドル円以外のFXペア)」で特に鮮明なパターンが出ました。
| グループ | 件数 | 勝率 | ブレ幅(95%CI) | メモ |
|---|---|---|---|---|
| 他FX × blocked=True | 15 | 66.7% | 41.7〜84.8% | CI下限41.7%(43%まであと1.3pp) |
| 他FX × blocked=False | 64 | 46.9% | 35.2〜58.9% | 参考:壁なしでも46.9% |
他FXのblocked=Trueは66.7%(10/15)でCI下限41.7%——43%まであと1.3ポイントと肉薄しています。N=15は少ないためまだ「確定」とは言えませんが、前向きトラッカーに登録して継続観察する価値はあります。
期待値(E(R))で見た比較
TP1:SL = 1.33:1.00 のR:Rで期待値(E(R))を計算すると、相場環境ごとの差がよりくっきり見えます。
| 区分 | 勝率 | 期待値 E(R) | 意味 |
|---|---|---|---|
| blocked=True × 下降(N=20) | 65.0% | +0.515R | 過去データ上は1取引平均0.5R程度の集計値(将来を示すものではありません) |
| blocked=True × 上昇(N=11) | 63.6% | +0.483R | 過去データ上は同程度 |
| blocked=True 全体(N=41) | 53.7% | +0.250R | 過去データ上はプラス圏 |
| blocked=False 全体(N=285) | 38.9% | −0.093R | 僅かに期待値マイナス |
| blocked=True × 中立(N=10) | 20.0% | −0.534R | 期待値が大きくマイナス |
10トレードすると平均5.34Rの損失になる計算です(N=10と小サンプルなので確定的ではありませんが、傾向として注視に値します)。
⑦ 今回の決定事項
| 項目 | 決定 | 理由 |
|---|---|---|
| 仮説 #006 主判定 | 通過A:継続観察 | 事前宣言2条件がともに通過(CI下限43.3%≥43%、中立20.0%<43%)。ただし中立N=10と少なく要追加データ |
| blocked=True の使い方指針 | 「トレンド相場限定」という作業仮説を追加 | もみあいでblocked=Trueは逆効果の可能性。トレンド確認後のblocked評価を今後の検証候補として記録(投資判断の推奨ではありません) |
| 他FX×blocked=True(66.7%) | 前向きトラッカーへ登録 | CI下限41.7%で43%まで1.3pp。N=15→N≥30まで蓄積 |
| 次の検証候補 | blocked=True × trend × group の三次元分析 or blocked=True × reversal_long の交絡 | トレンドと銘柄グループの同時制御で効果の独立性を確認 |
📡 前向きトラッカー定点観測
これまでの連載で宣言した「将来のデータで確認する基準」の現在値です(2026-06-13 時点)。
| ID | 仮説・指標 | 宣言基準 | 現在値(2026-06-13) | 状態 |
|---|---|---|---|---|
| a | 押し目買い4h(#2の主仮説) | 2026-06-11以降の新規決済でN≥30かつ勝率50%超 | N=0(upper_tf_trendフィールド未記録のため追跡開始待ち) | ⏳ |
| b〜e | regime/chasing_downgrade/discipline_filter/edge_tier | 各基準は台帳参照 | フィールド未記録(全N=0) | ⏳ |
| f | もみあい中の逆張りL(#2基準34.3%) | 新規データ蓄積後に34.3%から改善/悪化を確認 | 全逆張りL: 41.9% N=284 CI[36.3〜47.7%](前回と同値) | ⏳ |
| g | 指数×逆張りL(今回も継続) | 累計N≥80かつCI下限43%超を維持 | 51.5% N=66 CI[39.7〜63.2%](CI下限39.7%、43%未達) | 🟡 蓄積中 |
| h | 他FX×逆張りL(今回も継続) | 累計N≥80かつCI下限43%超を維持 | 55.0% N=60 CI[42.5〜66.9%](CI下限42.5%、43%まで0.5pp) | 🟡 蓄積中(基準に肉薄) |
| i 🆕 | 他FX × blocked=True(#6新設) | N≥30かつCI下限43%超を維持 | 66.7% N=15 CI[41.7〜84.8%](CI下限41.7%、N不足) | 🟡 蓄積中 |
| j 🆕 | 中立×blocked=True の実績(#6新設) | N≥20での実績で20%が継続するか追跡 | 20.0% N=10 CI[5.7〜51.0%](ブレ幅大・追跡中) | ⏳ 蓄積中 |
⑧ 次回に向けて
- blocked=True × trend × グループの三次元解析:トレンド環境とグループを同時に制御して、どの組み合わせが最も安定して高勝率かを特定する
- blocked=True × 逆張りロングとの交絡:逆張りロング(rsi_oversold_bounce/bb_lower_touch)に絞ったとき、blocked=Trueが持つ意味は変わるか
- S/R近接度(d_res_atr)の連続変数分析:blocked=Trueは定性的なフラグだが、壁までの距離(0.37〜5.71ATR)で成績がさらに変わるか
- 最新のシグナル成績はシグナル成績ページでいつでも確認できます(毎日自動更新)
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