🧪 AIシグナル研究日誌 #9
円クロスFXショートの罠——722件が示す方向性非対称と損益分岐未達
毎回ひとつの仮説だけを実データで検証し、勝っても負けても全公開する研究日誌の第9回です。前回(#8)ではシグナル種別ごとの勝率マップを作成し、MAゴールデンクロスの23.3%(CI上限40.9%)が損益分岐43%を下回ることを確認しました。
今回は「円クロスFX(jpy_fx)には、ロングとショートで勝率に大きな差があるか」という方向性の問いに取り組みます。前号の#4では金(GC=F)でロング12.8%・ショート61.1%という激しい方向性非対称を確認しました。同様の構造が円クロスFXにも潜んでいるか——722件の閉済データで反実仮想検証を行います。
① jpy_fx ショートシグナルの勝率は23.5%(8/34件、CI[12.4〜40.0%])——CI上限40.0%が損益分岐43%を下回ることを確認(棄却確認・通過A)
② ショートの主体はmacd_dead信号(26/34件)。macd_dead × jpy_fxでも23.1%(6/26件)——この組み合わせが低勝率の主因
③ 下降トレンド中のショートでも8.3%(1/12件)——順張りのはずなのに壊滅的という逆説
④ jpy_fx ロングは42.3%(44/104件)で継続観察中(損益分岐43%まであと0.7pp)
① 今回の仮説——「jpy_fx ショートは損益分岐43%を安定的に下回るか」
当連載の研究日誌 #4では、金(GC=F)でロング12.8%・ショート61.1%という強い方向性非対称を発見しました。この非対称は「GC=Fは下落局面のほうがシグナル精度が高い」という事実を示し、GC=Fロングへの警戒強化につながりました。
同様の非対称が円クロスFX(USD/JPY・EUR/JPY・GBP/JPY・AUD/JPY)にも存在するか、というのが今回の出発点です。円クロスFXは当サイトの監視銘柄18種のうち4種(jpy_fx グループ)を占める重要カテゴリです。
本システムのTP1:SL比は約1.33(TP1=ATR×2.0、SL=ATR×1.5)。この比率で期待値がゼロになる最低勝率が43%。それを下回ると毎回エントリーするほど期待値がマイナスになる(記録としての計算であり、実運用推奨ではありません)。
| 仮説 | 事前合否基準 |
|---|---|
| jpy_fx ショートシグナルの勝率は損益分岐43%を安定的に下回る | N≥20 かつ CI上限 < 43% → 棄却確認として通過A |
② 検証方法(722件反実仮想集計・事前合否基準)
signals-log.json に記録された全シグナルのうち、勝敗が確定済みのもの(tp1/tp2/sl到達済み、722件)のみを対象としました。「もしも記録上のシグナルに従ってエントリーし続けたら勝率はどうなるか」という反実仮想集計です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| データ | 勝敗確定済みの722件(signals-log.json、2026年5月〜6月) |
| 対象グループ | jpy_fx(USDJPY=X / EURJPY=X / GBPJPY=X / AUDJPY=X) |
| 勝ち定義 | TP1またはTP2到達(SL到達は負け) |
| 損益分岐 | 43%(TP1:SL=1.33の期待値ゼロ点) |
| ブレ幅表示 | Wilson法による95%信頼区間を全数値に明記 |
| 期待値 | E(R) = 勝率×1.33 + (1-勝率)×(-1.0)で計算(TP1基準) |
③ 結果①:方向性非対称の確認
jpy_fx 138件の閉済データをロング・ショートに分けると、次の表のようになりました。
| 分類 | 件数(N) | 勝ち(k) | 勝率 | ブレ幅(95%CI) | 期待値E(R) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| jpy_fx 全体 | 138 | 52 | 37.7% | 30.0〜46.0% | -0.122R | ❌ 損益分岐未達 |
| jpy_fx ロング | 104 | 44 | 42.3% | 33.3〜51.9% | -0.014R | 🟡 ほぼ損益分岐(継続観察) |
| jpy_fx ショート | 34 | 8 | 23.5% | 12.4〜40.0% | -0.452R | ❌ CI上限40.0%<43%——棄却確認 |
jpy_fx ショートの実勝率は23.5%(8/34件)、CI[12.4〜40.0%]。
事前合否基準「N≥20(✅ N=34)かつCI上限<43%(✅ 40.0%)」を両方クリア。
過去の集計上、jpy_fx ショートシグナルは損益分岐43%を安定的に下回ることが確認された(あくまで過去記録の集計であり、将来の成績を保証するものではありません)。
参考として、他FX(EUR/USD、GBP/USD等)のショートシグナルを見ると52.7%(29/55件)であり、円クロスFX(jpy_fx)ショートの23.5%とは大きく異なります。同じ「FXのショートシグナル」でも、円クロスかどうかで成績が大きく分かれています。
④ 結果②:交絡解明 — macd_deadがショートの76.5%を占める
jpy_fx ショート34件のシグナル種別を見ると、ほぼ1種類に集中していました。
| シグナル種別 | 件数(N) | 勝ち(k) | 勝率 | ブレ幅(95%CI) |
|---|---|---|---|---|
| macd_dead(MACDデッドクロス) | 26 | 6 | 23.1% | 11.0〜42.1% |
| ma_dead(MAデッドクロス) | 5 | 2 | 40.0% | 11.8〜76.9%(N小) |
| low_break(安値ブレイク) | 3 | 0 | 0.0% | 0.0〜56.2%(N小) |
jpy_fx ショート34件のうち26件(76.5%)がmacd_dead(MACDデッドクロス)シグナルでした。MACDデッドクロスは「短期MACDが長期MACDを下抜けた瞬間に売りシグナルを出す」遅行指標の代表です。この種別単独でも23.1%(6/26件)という低勝率であり、「jpy_fx × macd_dead」の組み合わせが今回の低成績の主因と考えられます。
⑤ 結果③:逆説 — 下降トレンドでもショートが8.3%
「ショートシグナルが低成績ならば、少なくとも下降トレンド(上位足トレンドが下向き)では有効なのでは?」と思うかもしれません。検証した結果は、その直感に反するものでした。
| トレンド環境 | 件数(N) | 勝ち(k) | 勝率 | ブレ幅(95%CI) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 下降(円高方向) | 12 | 1 | 8.3% | 1.5〜35.4% | ❌ 最も低い(逆説) |
| 中立・もみあい | 6 | 1 | 16.7% | 3.0〜56.4%(N小) | ❌ 低い |
| 上昇(円安方向) | 16 | 6 | 37.5% | 18.5〜61.4% | 🟡 相対的に高い(N不足) |
驚くべきことに、下降トレンド(上位足が円高方向)中の jpy_fx ショートは8.3%(1/12件)と、全環境の中で最も低い勝率でした。「下降局面で売る=順張り」という発想に反する結果です。
なぜ下降トレンドでもショートが機能しなかったか(探索的考察)
データが示す事実は「下降×jpy_fxショートが8.3%」という点だけで、原因は断定できません。以下は探索的な仮説です。
- 遅行指標の問題:macd_dead は遅行指標。下降トレンド中の一時的反発(テクニカルリバウンド)局面でデッドクロスが完成するタイミングが多く、その後の反発に巻き込まれた可能性
- 急落後の反発動力:jpy_fx の下降局面は円高フェーズと一致することが多く、ポジション解消の反発(ショートカバー)が強く出る傾向がある
- サンプル数の限界:N=12では確率的ブレの影響も大きく(CI[1.5〜35.4%])、「構造的な問題」か「偶然」かは判断できない
原因の特定は今後の課題です。今回言えるのは「過去の集計上、jpy_fx ショートは下降トレンドでも機能していなかった」という事実の記録です。
⑥ 副次観察:jpy_fx ロング内の分断(bb_lower vs rsi)
主仮説の検証外ですが、探索的な観察として記録します。jpy_fx ロング104件をシグナル種別で分けると、同じ「逆張りロング」でも成績が大きく異なりました。
| シグナル種別(jpy_fx ロング) | 件数(N) | 勝ち(k) | 勝率 | ブレ幅(95%CI) |
|---|---|---|---|---|
| bb_lower_touch(バンド下限タッチ) | 40 | 26 | 65.0% | 49.5〜77.9% |
| rsi_oversold_bounce(RSI過売反発) | 20 | 2 | 10.0% | 2.8〜30.1% |
bb_lower_touch(ボリンジャーバンド下限タッチ)と rsi_oversold_bounce(RSI過売反発)はどちらも「売られすぎからの反発を狙うロング」ですが、65.0%(26/40件)と10.0%(2/20件)という55ポイントの差があります。この分断は興味深いですが、今回の主仮説の対象外であり、かつNが20〜40件と小さいため探索的観察として記録するにとどめます。
⑦ 交絡の点検
- ティッカー偏り:jpy_fx ショート34件の内訳はAUDJPY=X 16件・USDJPY=X 7件・EURJPY=X 7件・GBPJPY=X 4件。AUDJPY=Xが最多で勝率も12.5%(2/16件)と最低。ティッカー偏りが全体を引き下げている可能性あり。ただし各ティッカーN≤16で確定的結論は出せない
- 期間バイアス:対象データは主に2026年5〜6月の集計。この時期の相場環境(円安/円高局面)が特殊であれば、他の期間では異なる結果になる可能性がある
- シグナル集中:ショート34件の76.5%がmacd_deadに集中。他のショートシグナル(ma_dead・low_break)はN<6と非常に少なく、「jpy_fx ショート全般」ではなく「jpy_fx × macd_dead ショート」の評価に近い
- ロングのシグナル偏り:ロング104件ではbb_lower_touch(40件)・rsi_oversold(20件)・macd_golden(19件)の3種が多く、ショートとは発火機会のある相場が異なる可能性がある
⑧ 今回の決定事項
勝率23.5%(8/34件)、CI[12.4〜40.0%]。CI上限40.0%が損益分岐43%を下回る。
期待値E(R) = -0.452R(平均的に1回のシグナルで0.452R相当の期待損失)。
特にmacd_dead × jpy_fxが低成績の主体(76.5%を占め勝率23.1%)。
エンジンのシグナル発火条件・配信設定は変更しない(記録としての事実確認であり、無登録での投資助言ではない)。
損益分岐43%まであと0.7ppと肉薄しているが、CI下限33.3%はまだ確定打なし。
宣言基準:N≥150かつCI下限43%超を維持 → 達成時に正式検証。
⑨ 📡 前向きトラッカー定点観測
事前に基準を宣言し、後から変えないトラッカー一覧です(2026-06-16 時点)。
| ID | 仮説・指標 | 宣言基準 | 現在値 | 状態 |
|---|---|---|---|---|
| a | 押し目買い4h(上位足上昇×逆張りロング×4h) | 2026-06-11以降の新規決済でN≥30かつ勝率50%超 | N=0(upper_tf_trend未記録のため追跡開始待ち) | ⏳ 追跡中 |
| b | regime=RISK_ON の勝率 | N≥20かつ勝率55%超(初回72.7%から再現するか) | N=0(フィールド未記録) | ⏳ 追跡中 |
| c | chasing_downgrade(🐢)の実勝率 | N≥20の実績で勝率記録 | N=0(フィールド未記録) | ⏳ 追跡中 |
| d | discipline_filter green vs red | green>red 差≥+10pp かつgreen N≥30 | N=0(フィールド未記録) | ⏳ 追跡中 |
| e | selection edge_tier の単調性(A>B>C>D順に勝率) | 各tier N≥20かつA>D | N=0(フィールド未記録) | ⏳ 追跡中 |
| f | もみあい中の逆張りL(#2基準: 34.3%) | 新規データで「34.3%より改善 or 悪化」を確認 | 42.1% N=302 CI[36.6〜47.7%] | ⏳ 追跡中 |
| g | 指数×逆張りL(rsi/bb × ロング) | 累計N≥80かつCI下限43%超を維持 | 53.6% N=69 CI[42.0〜64.9%](CI下限42.0%、43%まであと1.0pp) | ⏳ 蓄積中(基準に肉薄) |
| h | 他FX×逆張りL(rsi/bb × ロング) | 累計N≥80かつCI下限43%超を維持 | 47.8% N=69 CI[36.5〜59.4%](CI下限未達・N不足) | ⏳ 蓄積中 |
| i | 他FX × blocked=True(#6新設) | N≥30かつCI下限43%超を維持 | 66.7% N=18 CI[43.7〜83.7%](N不足) | ⏳ 蓄積中 |
| j | 中立×blocked=True の実績(#6新設) | N≥20での実績で20%が継続するか追跡 | 27.3% N=11 CI[9.7〜56.6%](ブレ幅大) | ⏳ 蓄積中 |
| k | 他FX×blocked=True×下降(#7新設) | N≥15かつCI下限50%超を維持 | 100.0% N=8 CI[67.6〜100.0%](N不足・過信禁物) | ⏳ 蓄積中 |
| l | macd_dead 継続観察(#8新設) | N≥150かつCI下限43%超を維持 | 42.2% N=116 CI[33.6〜51.3%](CI下限未達) | ⏳ 蓄積中 |
| m | jpy_fx ロング継続観察(#9新設) | N≥150かつCI下限43%超を維持 | 42.3% N=104 CI[33.3〜51.9%](CI下限未達) | ⏳ 新設・蓄積中 |
⑩ 次回に向けて
- bb_lower_touch × jpy_fx ロング(65.0%、N=40)の正式検証:今回は副次観察として記録のみ。N≥60でCI下限が43%超を維持するかを検証する仮説として台帳バックログに追加
- rsi_oversold_bounce × jpy_fx ロング(10.0%、N=20)の交絡解明:同じ逆張りロングでなぜここまで差があるか。シグナル発火時の相場環境(トレンド・ティッカー)を次の候補として台帳に追加
- 時間帯・セッション効果:東京/ロンドン/NYセッション別の勝率差(バックログ候補)
- 最新のシグナル成績はシグナル成績ページでいつでも確認できます(4時間ごと自動更新)
⚠️ 免責事項:本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。当サイト(MarketWatch AI)は金融商品取引業者ではなく、投資助言・代理業の登録を行っていません。本記事の情報は投資助言に当たらず、投資判断および売買はご自身の判断と責任のもとで行ってください。記事中の勝率・期待値・検証結果はすべて当サイトの特定システムにおける過去の集計であり、将来の相場結果や運用成績を示唆または保証するものではありません。