📉 チャートの形(ヘッドアンドショルダーなど)は、機械で見つけても効くのか? 研究でわかっていること【エントリー方法の研究 #19】
「ヘッドアンドショルダー(山が3つ並び、真ん中がいちばん高くなる形)」「ダブルトップ(二重の天井)」のようなチャートの形は、ローソク足と並んでよく知られたテクニカル分析の道具です。ただし、こうした形は人によって見え方が違いやすく、「どこからどこまでが1つの形か」の判断も人それぞれになりがちです。この回では、人の目に頼らず、あらかじめ決めた計算式でチャートの形を自動的に見つけ出し、本当に値動きの手がかりになるのかを確かめた研究を取り上げます。
📌 この記事の結論(30秒まとめ)
- ヘッドアンドショルダーなどのチャートの形を、人の目でなくコンピュータの計算式で自動的に見つけ出し、値動きの手がかりになるかを確かめた研究があります。
- ロー氏らの研究(2000年発表、米国株1962〜96年)では、形が出たあとの値動きが、ナスダックの銘柄では10種類の形すべてで、ニューヨーク証券取引所系の銘柄では10種類のうち5種類(ヘッドアンドショルダーを含む)で、通常の値動きと統計的に違うという結果が出ました。
- チャン氏とオスラー氏の研究(為替、1973〜94年)では、ヘッドアンドショルダーの売買ルールは一部の通貨(ドイツマルク・円)でもうけが出たものの、もっと単純な売買ルールに負けていました。「形そのもの」に特別な力があるとは言い切れません。
1️⃣ どんな方法か
どんな方法? 値段のグラフの中に、あらかじめ名前のついた「形」を見つけ、その形の意味どおりに売買する方法です。たとえばヘッドアンドショルダーは、山が3つ並び、真ん中の山(頭)が左右の山(肩)より高くなる形で、昔から「この形が出たら、その後は下がりやすい」という見方で使われてきました。※以下は考え方を説明するための仮の例です。ある銘柄の値段が、山・もっと高い山・また同じくらいの高さの山という順で3つ並び、3つの山の谷を結んだ線(ネックライン)を値段が下に抜けたところで売る、という使い方が一般的に紹介されています。
こうした「形」の判断は、見る人によって「この山は数えるのか」「谷の高さはどこまで揃っていればよいのか」の受け取り方が変わりやすいという弱点があります。この回で紹介する研究は、その人による受け取り方の違いをなくすため、形の定義をあらかじめ数式で決め、コンピュータに自動で見つけさせる、というやり方をとっています。
2️⃣ 研究でわかっていること
ロー氏・マメイスキー氏・ワン氏の研究(2000年、米国株)
ロー氏たちの研究(2000年発表)は、ヘッドアンドショルダーや逆ヘッドアンドショルダー、ダブルトップ・ダブルボトム(二重の天井・二重の底)、三角形に収束していく形など、合計10種類のチャートの形を、ノンパラメトリック・カーネル回帰(値動きのギザギザを滑らかな曲線に描き直し、山と谷の位置を数式で見つける統計の手法)を使って自動的に検出するプログラムを作りました。これを1962年から1996年までの31年間、米国のニューヨーク証券取引所・アメリカン証券取引所の銘柄と、ナスダックの銘柄に当てはめました。
まず、形の出る回数そのものが示唆的でした。ニューヨーク証券取引所系の銘柄では、ヘッドアンドショルダーが実際のデータで1,611回、逆ヘッドアンドショルダーが1,654回見つかりました。これに対し、同じ平均と散らばりになるように作ったランダムな値動き(コンピュータでサイコロを振るように作った、値動きに特別な理由がないと仮定した仮のデータ)では、それぞれ577回・578回しか出ません。実際の値動きのほうが、偶然のランダムな動きよりも多くヘッドアンドショルダーの形を作っていた、ということです。
次に、形が出たあとの値動きが、形が出ていないときの通常の値動きと違うかどうかを、コルモゴロフ・スミルノフ検定(2つのグループの値動きの散らばり方が同じかどうかを確かめる統計の方法)で確かめました。ニューヨーク証券取引所系の銘柄では、10種類の形のうち5種類(ヘッドアンドショルダーを含む)で、偶然とは言いにくいという結果(偶然である確率を示す数値がおよそ0.02以下)が出ました。残りの5種類は、確率がおよそ0.10から0.39で、違いがはっきりしませんでした。一方、ナスダックの銘柄では、形の出る回数自体はニューヨーク証券取引所系より少なかったにもかかわらず、10種類すべてで偶然とは言いにくいという結果になりました。
ロー氏たちは結論部分で「これは必ずしも、テクニカル分析を使って普通以上のもうけを出せることを意味しない」としながらも、「テクニカル分析が投資の判断に何らかの価値を加えられる可能性を示している」と述べています。また「ヘッドアンドショルダーのような昔からの形は、ときには効果があっても、最も良い探し方とは限らない」とも指摘しています。
チャン氏・オスラー氏の研究(為替、1973〜94年)
チャン氏とオスラー氏の研究(1995年にニューヨーク連邦準備銀行のスタッフレポートとして発表、1999年に学術誌に改めて掲載)は、米ドルに対する主要な通貨の為替レートで、1973年3月から1994年6月までの期間を対象にしました。市販のテクニカル分析の解説書に書かれた判定基準をもとに、ヘッドアンドショルダーをコンピュータのプログラムで自動的に見つけ、見つかったところで売買した場合の利益を計算しました。この利益が偶然でも出せる範囲かどうかを確かめるため、値動きに特別な理由がないと仮定したランダムな値動きのダミーデータを1万通り作り(ブートストラップ法という確かめ方)、そこでの成績と比べています。
結果として、ヘッドアンドショルダーの売買ルールは、一部の通貨でもうけが出ました。ただし、同じデータでもっと単純な売買ルール(移動平均線を使う方法など)を試すと、そちらのほうが良い成績だったと報告されています。通貨ごとの差についても、ドイツマルクと円では利益が出た一方、カナダドル・スイスフラン・フランスフランなど他の通貨では利益が出なかったと報告されています(いずれも、この期間・これらの通貨での結果です)。
セイビン氏・ウェラー氏・ズビンゲリス氏の研究(2007年、米国株)
この研究(2007年発表)は、ロー氏たちの自動検出のしくみを、テクニカル分析の専門家が実際に使う判断基準を参考に改良し、米国のS&P500指数とラッセル2000指数の銘柄(1990年から1999年)でヘッドアンドショルダーを調べ直しました。その結果、ヘッドアンドショルダーの形だけを頼りに売買する方法は、利益の証拠がほとんど見つかりませんでした。一方、ヘッドアンドショルダーが出た銘柄を「この先値下がりしやすい銘柄」の目安として使うと、リスクを調整したうえで年率5%から7%ほどの上乗せの利益が報告されています。さらに、市場全体を買う方法と組み合わせると、同じリスクの大きさでより良い成績になったとも報告されています。
3️⃣ 反論・限界
ヘッドアンドショルダーが「統計的に偶然とは言いにくい」という結果と、「それを使えば利益が出る」ということは、同じではありません。セイビン氏たちの研究が示したとおり、ヘッドアンドショルダーの形だけを頼りに売買する方法は、単独では利益の証拠がほとんど見つかりませんでした。利益が報告されたのは、「この先値下がりしやすい銘柄を選ぶ目安」として、ほかの運用と組み合わせて使った場合です。
さらに、この研究の下書き段階の版では、ヘッドアンドショルダーの良い成績の一部は、形そのものの効果ではなく、もともと値下がりしやすい傾向(直前の値動きが弱い銘柄、いわゆる逆方向のモメンタム)を持つ銘柄を見つけているだけではないか、という留保も示されていました。つまり「山が3つ並ぶ形」自体に意味があるのではなく、別の要因(値動きの弱さ)を形という見た目を通して捉えている可能性がある、ということです。
チャン氏とオスラー氏の為替の研究でも、ヘッドアンドショルダーの売買ルールは、もっと単純な移動平均線などの売買ルールに成績で負けていました。「形を見つける」という手間のかかる方法が、単純な方法を上回る証拠は、今回確かめた範囲では見当たりませんでした。
4️⃣ 株・FX・コモディティでは?
ここで紹介した研究が、どの市場のデータを使ったかを一覧にします。研究がない市場については、推測で埋めず「この記事からはわかりません」としています。
| 市場 | 研究はあるか | 何がわかっているか |
|---|---|---|
| 株価指数・個別株(米国) | あり | ロー氏ら(2000年):ニューヨーク証券取引所系・ナスダックの個別株で検証。セイビン氏ら(2007年):S&P500・ラッセル2000の個別株で検証(単独では利益の証拠薄く、組み合わせで上乗せの報告) |
| 為替(FX) | あり | チャン氏・オスラー氏:主要な通貨の対ドルの為替レートで検証(マルク・円では利益、他の通貨では利益なし。単純な売買ルールに負けた) |
| コモディティ(金・原油など) | 今回は見当たらず | この記事からはわかりません |
| 暗号資産(ビットコインなど) | 今回は見当たらず | この記事からはわかりません |
日本株・日本市場のデータを使った検証についても、今回の調査では見当たりませんでした。アメリカの個別株・為替で見つかった結果が、日本株やそのほかの市場でも同じように当てはまるかは、この記事からはわかりません。
5️⃣ よくある誤解
誤解1:ヘッドアンドショルダーが出たら必ず下がる
ロー氏たちの研究が示したのは、形が出たあとの値動きの「散らばり方」が、通常の値動きと統計的に違う場合がある、ということです。1回ごとの売買で必ず下がる・上がるという意味ではありません。
誤解2:形そのものに特別な予測力がある
セイビン氏たちの研究の下書き段階の版が示したように、良い成績の一部は、形以外の要因(値動きの弱さ)を見ている可能性があります。「形」というパッケージの中に、別の要因が混ざっているかもしれません。
誤解3:どの市場でも同じように効く
ロー氏たちの研究では、ニューヨーク証券取引所系とナスダックで結果の強さが違いました。チャン氏とオスラー氏の為替の研究でも、通貨ごとに利益の有無が分かれています。同じ形でも、市場や銘柄によって結果が違う可能性があると考えておくほうが安全です。
6️⃣ まとめ
最後に、この記事の内容を整理します。
- ヘッドアンドショルダーなどのチャートの形は、人の目に頼らずコンピュータの計算式で自動的に見つけ出す研究手法が作られています。
- 米国株(1962〜96年)では、形が出たあとの値動きが、ナスダックの銘柄で特に、通常の値動きと統計的に違うという結果が出ました。ニューヨーク証券取引所系の銘柄では一部の形でのみ違いが見られました。
- 為替(1973〜94年、主要通貨の対ドル)では、ヘッドアンドショルダーの売買ルールは一部の通貨(ドイツマルク・円)でもうけが出たものの、もっと単純な売買ルールに負けました。
- 「統計的に偶然とは言いにくい」ことと「それを使えば利益が出る」ことは別です。良い成績の一部は、形以外の要因(値動きの弱さ)を見ている可能性もあります。
- 研究によって調べた市場・銘柄が違うため、同じ形でも、市場や銘柄によって結果が違う可能性があります。
「形」という見た目のわかりやすさの裏に、どんな統計の裏づけがあり、どこまでが確かめられていないのかを知っておくことが、この種のテクニカル分析と付き合ううえでの手がかりになります。
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📚 出典・参考文献
- Lo, Mamaysky & Wang (2000) "Foundations of Technical Analysis: Computational Algorithms, Statistical Inference, and Empirical Implementation", NBER Working Paper No.7613(The Journal of Finance 55(4), pp.1705-1765に掲載)
- Osler & Chang (1995) "Head and Shoulders: Not Just a Flaky Pattern", Federal Reserve Bank of New York Staff Reports No.4(1999年にChang & Osler, The Economic Journal 109(458), pp.636-661に「Methodical Madness」として改めて掲載)
- Savin, Weller & Zvingelis (2007) "The Predictive Power of 'Head-and-Shoulders' Price Patterns in the U.S. Stock Market", Journal of Financial Econometrics 5(2), pp.243-265
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