🧪 AIシグナル研究日誌 #63
RSI売られすぎ逆張り買い——IS39.1%からFWD51.8%へのグループ格差解剖
毎回ひとつの仮説を実データで検証し、勝っても負けても全公開する研究日誌の第63回です。前回(#62)では、上昇トレンド中の押し目買いが前向き昇格——RSI 69.7% vs BB 45.7% の13〜24pp差が本質——という結論を示しました。
今回は、引き続きトラッカーが🟡蓄積中のシグナルとして最も注目度の高い rsi_oversold_bounce(RSI売られすぎ逆張り買い)の全足統合解析を行います。IS(過去データ検討)では39.1%と損益分岐割れでしたが、前向き観測期間(FWD)ではどう変化しているか、そしてどの市場群・トレンド・時間足で差が生じているかを解剖します。
① rsi_oversold_bounce 全期間: 139/301=46.2%——上昇トレンド下では 36/58=62.1%(CI下限49.2%)と損益分岐43%を上回る
② グループ格差(全期間): index 39/63=61.9% vs metal 19/60=31.7%——グループ構成が成否を左右する
③ 時間足差(全期間): 4h足 49/97=50.5% vs 1h足 83/192=43.2%——4h足が7.3pp上回る
④ 前向き観測(tracker N=168): 改善傾向を確認——クラスタ補正E(R)CIは0をまたぐため🟡蓄積中継続
① 検証テーマと仮説設定
rsi_oversold_bounceとは、RSI(相対強度指数)が一定以下の売られすぎ水準から反発したシグナルです。「下げ過ぎの反動買い」として直感的には有望に見えますが、過去データ(IS)では39.1%(52/133)と損益分岐43%を大きく下回っていました。
しかし「IS性能が低い=将来も低い」とは必ずしも言えません。IS期間はシグナル設計・選別ルールの試行錯誤の中で収集されたデータであり、モデルが意図的に学習した期間です。一方、FWD(前向き観測)は2026年6月16日以降の実践データであり、IS後のレジーム変化を独立して評価できます。
今回の検証仮説は3点です:
- H1:FWD期間(N=168)の勝率のWilson CI下限が損益分岐43%を超える
- H2:上昇トレンド下の rsi_oversold_bounce FWD で、CI下限が50%を超える
- H3:IS期間に低勝率だったjpy_fx・metalグループがFWDで回復している
② グループ別格差——IS10%がFWD58%へ
最も驚異的な発見は、グループによる逆転現象です。IS期間に最低水準だったjpy_fx(10.0%)とmetal(12.9%)がFWD期間に急反転し、一方でIS期間に高水準だったother_fx(60.9%)が逆に低下しています。
▲ グループ別 IS vs FWD 勝率比較。jpy_fx(IS 10.0% → FWD 58.6%)と metal(IS 12.9% → FWD 51.7%)が劇的に改善。一方 other_fx(ドルクロス)は IS 60.9% から FWD 41.8% へ逆転。破線は損益分岐(43%)。
グループ格差の背景
この逆転現象には、金属レジームの転換が関係していると考えられます。本研究日誌では #30、#32、#38〜#43 と繰り返し確認してきた「IS期間の金属不毛期」——金価格が方向感なく動き、逆張りシグナルがことごとく機能しなかった——が終息し、FWD期間に入って反発しやすい局面が増えている可能性があります。
円クロス(jpy_fx)についても同様の解釈が成り立ちます。IS期間は日銀政策転換への思惑で円相場が大きく動揺し、RSI的な「売られすぎ」が更に売り込まれる展開が続きました。FWD期間では地政学的・金融政策的な大波が一服し、テクニカル的な反発が機能しやすくなっている可能性があります。
③ IS vs FWD 全体比較
| 区分 | k/N | 勝率 | Wilson CI | E(R) | E(R) ClusterCI |
|---|---|---|---|---|---|
| RSI IS(全期間・過去) | 52/133 | 39.1% | [31.2%, 47.6%] | -0.088 | [-0.240, +0.065] |
| RSI FWD(前向き観測) | 87/168 | 51.8% | [44.3%, 59.2%] | +0.208 | [-0.058, +0.474] |
| BB IS(比較対照) | 75/175 | 42.9% | [35.8%, 50.3%] | ±0.000 | [-0.237, +0.236] |
| BB FWD(比較対照) | 175/391 | 44.8% | [39.9%, 49.7%] | +0.044 | [-0.106, +0.194] |
FWD全体では 87/168=51.8%、Wilson CI[44.3%, 59.2%]でCI下限が43%を超えています(H1 ✅)。比較対照として掲載した bb_lower_touch(ボリンジャー下限タッチ)のFWD44.8%に対し、RSIは7.0pp高い水準です。
ただしE(R)のクラスタ補正CIは[-0.058, +0.474]で0をまたいでいます。損益率(勝率だけでなく損益倍率を加味したリターン)では統計的に優位を確認できていません。これが「🟡蓄積中」のままである理由です。
④ トレンド別——上昇トレンドが71.1%
FWD期間をトレンド別に分類すると、明確な優劣が見えます。
| トレンド | k/N(FWD) | 勝率 | Wilson CI | E(R) |
|---|---|---|---|---|
| 🔼 上昇 | 27/38 | 71.1% | [55.2%, 83.0%] | +0.658 |
| ⬛ 中立・もみあい | 27/48 | 56.2% | [42.3%, 69.3%] | +0.312 |
| 🔽 下降 | 33/82 | 40.2% | [30.3%, 51.1%] | -0.061 |
上昇トレンド下のRSI売られすぎは71.1%(27/38)、CI下限55.2%で50%を明確に超えています(H2 ✅)。これは直観と整合する結果です——上昇トレンド中の一時的な押し目(RSI的な売られすぎ)は、トレンド継続によって救われる可能性が高いためです。
一方、下降トレンド下は40.2%(CI[30.3%, 51.1%])と損益分岐を下回る水準です。逆張り買いが通じない局面では、トレンドに逆らって買い向かうことが統計的に不利に働く傾向が見られます。
⑤ 時間足別——4hが1hを17.5pp上回る
| 時間足 | k/N(FWD) | 勝率 | Wilson CI | E(R) |
|---|---|---|---|---|
| 1h(1時間足) | 50/111 | 45.0% | [36.1%, 54.3%] | +0.051 |
| 4h(4時間足) | 30/48 | 62.5% | [48.4%, 74.8%] | +0.458 |
| 1d(日足) | 7/9 | 77.8% | [45.3%, 93.7%] | +0.815 |
4時間足が62.5%(30/48)と高い水準を示しています。1時間足の45.0%(50/111)との差は17.5ppです。日足(1d)は77.8%ですが、N=9と小標本のためCIが[45.3%, 93.7%]と非常に広く、参考値として捉えるのが適切です。
4h足の優位性は興味深い発見ですが、注意点もあります。本研究日誌の過去回(特に #15「4H足ロングは系統的に弱い」)では、全シグナル横断で4h足が1h足を下回る結果が報告されています。rsi_oversold_bounce では逆の傾向が出ており、シグナル種別による時間足効果の違いが示唆されます。
⑥ 前半・後半比較——加速傾向
FWD期間(N=168)を時系列順に前半84件・後半84件に二分すると、加速傾向が確認されます。
▲ FWD前半(45.2%)vs 後半(58.3%)の比較。後半は E(R)=+0.361、クラスタ補正CI[+0.045, +0.677]で全域プラス確定。後半だけを取り出せば統計的優位性が確認できる水準だが、期間を切り出した解釈には選択バイアスの注意が必要。
| 期間 | k/N | 勝率 | Wilson CI | E(R) | E(R) ClusterCI |
|---|---|---|---|---|---|
| 前半(N=84) | 38/84 | 45.2% | [35.0%, 55.9%] | +0.055 | [-0.315, +0.426] |
| 後半(N=84) | 49/84 | 58.3% | [47.7%, 68.3%] | +0.361 | [+0.045, +0.677] |
後半のE(R)クラスタ補正CI[+0.045, +0.677]は全域プラスです。つまり後半84件に絞れば統計的優位性が確認できる水準に達しています。これは直近の市場環境でRSI売られすぎが機能しやすくなっていることを示唆する可能性があります。
ただし、「後半だけで判断する」ことは選択的統計解釈(チェリーピッキング)のリスクがあります。あくまで全体CI[-0.058, +0.474]が判断の基準であり、後半の改善は補足的な観察として扱います。
⑦ トラッカーの現在地
▲ rsi_oversold_bounce トラッカーの現在地。E(R)=+0.208だが、クラスタ補正CI下限がわずかにマイナス(-0.058)。CI全域がプラスゾーンに入れば✅昇格。データ蓄積とともにCI幅が収縮していく見込み。
| 項目 | 現在値(FWD N=168) | 昇格条件 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 勝率 Wilson CI下限 | 44.3% | > 43% | ✅ 通過 |
| E(R) ClusterCI 下限 | -0.058 | > 0 | ❌ 未達(0まで0.058R) |
| 上昇×RSI CI下限 | 55.2% | > 50% | ✅ 通過 |
| 総合判定 | E(R)CIが0をまたぐため蓄積継続 | 🟡 蓄積中 | |
昇格条件の核心は「E(R)クラスタ補正CIの下限が0を超えること」です。現在は-0.058でわずかにマイナスの領域にあります。N=168段階で-0.058まで来ているため、あと数十件の蓄積でCI幅が収縮し、正転する可能性があります。
⑧ 全期間データと総括
以下は signal_lab_verify.py が独立検証するすべての全期間データ(tp1+sl クローズ、N=2660)です。
| フィルタ | k/N(全期間) | 勝率 | Wilson CI |
|---|---|---|---|
| signal=rsi_oversold_bounce | 139/301 | 46.2% | [40.7%, 51.8%] |
| + group=index(指数) | 39/63 | 61.9% | [49.6%, 72.9%] |
| + group=jpy_fx(円クロス) | 19/49 | 38.8% | [26.6%, 52.6%] |
| + group=other_fx(ドルクロス) | 37/78 | 47.4% | [36.9%, 58.2%] |
| + group=metal(金属) | 19/60 | 31.7% | [21.4%, 44.0%] |
| + trend=上昇 | 36/58 | 62.1% | [49.2%, 73.4%] |
| + trend=下降 | 57/134 | 42.5% | [34.4%, 51.1%] |
| + trend=中立・もみあい | 45/107 | 42.1% | [33.3%, 51.5%] |
| + tf=1h(1時間足) | 83/192 | 43.2% | [36.5%, 50.2%] |
| + tf=4h(4時間足) | 49/97 | 50.5% | [40.6%, 60.4%] |
全期間でも指数群(61.9%)と上昇トレンド下(62.1%)が高水準を維持しています。一方で金属(31.7%)と円クロス(38.8%)は全期間では損益分岐を下回っており、これらのグループのFWD改善が全期間統計に反映されるにはさらなるデータ蓄積が必要です。
総括
今回の解析から得られた知見を整理します:
- 全体的な改善傾向: IS 39.1% → FWD 51.8%(+12.7pp)の改善は本物の可能性がある。H1(CI下限>43%)は通過。
- グループ格差の逆転: IS最低水準だったjpy_fx・metalがFWDで劇的改善(H3通過)。IS高水準だったother_fxが逆転。単純な「IS≒FWD」の仮定が崩れている。
- 上昇トレンドとの相性: 上昇トレンド下71.1%(CI下限55.2%)は最も強い数字。上昇トレンド中の一時的な売られすぎ局面では、統計上の勝率が高い傾向が見られた(H2通過)。
- 4h足の優位: FWDで4h足62.5% vs 1h足45.0%と17.5ppの差。ただし全シグナルでは4h足が劣る傾向(#15)があり、rsi特有の結果かどうかは今後の確認が必要。
- 蓄積継続の理由: E(R)クラスタ補正CI下限が-0.058とわずかにマイナス。統計的確証には至っていない。
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